第16話 魔法をつかう

   ネズミ退治


「あんたに教えられなかった二週間分、二人にはたっぷりと教えてやったからね」

 ヒルデはそういって、ボクの肩をばんばん叩く。

 セイヤも覚えたようなので、三人分だけれど、それは言わないことにしておく。

「それと、あの子のこともよろしく頼むよ」

「あの子?」

「ソラのことさ。あの子は魔法の腕は一流だけれど、補助魔法の一つも知らない……だろ?」

「ええ……」

「自分で戦うことには長けている。でも、魔術師は万能を求められるものだ。きっと今のままだと、どこのパーティーに入っても通用しないだろうね」

「それで、妨害を?」

「妨害……か。そうしたつもりはないんだけどね。でも、あの子が上のチームで活躍したいなら、チームの求めている形にならないと……。そこがまだまだだから、止めただけなんだけどね」

「それを伝えたら?」

「こういうものは、人に言われると反発するものさ。本人が気づかない限り直すこともない」

 ヒルデはそういって笑うが、それを含めて伝えないと……と思う。ヒルデとソラは結局、顔を合わすこともなかった。


「この世界の魔法が分かってきたよ」

 セイヤがそういう。

「要するに、契約という形で魔術回路をつくる。そうすると、複雑な工程を経ることなく魔術がつかえる。要するに、その魔術回路をコピーしちまえばいいんだ」

「コピー……?」

「写し取るってことだよ。あの婆さんの魔術回路は大体、写し取った」

「そんなことができるのか?」

「オレは魔術の流れが見えるんだよ。魔とか精霊とか、色々とこの世界の奴らは魔力のことを仮託するが、要するに回路のつくり方のちがいだ。それぞれの種族によって魔術の流れが違い、それに適した回路がある。それを魔とか、精霊とか、そういう形で呼んでいるんだ」

「じゃあ、セイヤの魔術の型って?」

「さぁね?」

「さぁって……」

「女の裸をみせたら、教えてやる」

「何でだよ⁈ まぁ、聞いたところでボクにはどうしようもできないから、話す気がないならいいよ」

「あっさり引き下がるな?」

「ボクに魔法がつかえないことが分かって、ちがう方法を考えないと……と思っているだけだよ。回路だって、ボクがもってもそこに流す魔力がないんだから、仕方ないんだし……」

「諦めがいいのはいいことだ。もっとも、勇者という道は諦めていないんだろ?」

「当然だよ。神のお告げがあって、ボクは選ばれたんだ。この世界で五人しかいない勇者候補だよ」

「そこが引っかかるんだよ。何で五人なんだ?」

「何で……って」

「何人いようと構わないだろ? 運命だっていうなら、五人もいる必要ない。ボウタリス教だとかいう宗教、ミレニアちゃんには悪いが、何かうさん臭いんだよな」

「うさん臭い……?」

「オレのいた世界でも、宗教なんてものは人を騙して金をむしり取る、システム的なものがあった。ここの世界がどうか知らんが、宗教にあまりよい感情をもっていないんだ、オレは」


「冒険をしましょう。少し離れていたから、お金も……」

 ソラがそういうと、エスリは乗り気だ。

「私も試したい。覚えたての魔法!」

 エスリもミレニアも、ヒルデに教わった魔法をつかいたくて仕方ないらしい。

 ボクも参加するけれど、弱いままなので、前衛としては役立たず。でもチームとして参加する。

「地下洞窟で最近増えた、ネズミ退治よ」

 この町の近くに、地下洞窟がある。もう冒険者たちがこすりにこすって、お宝どころか、何もない。ただ長く放置すると、そこに魔獣が巣食うようになるので、時々その討伐依頼があるのだ。

 いつもは他の冒険者たちが請け負うが、ネズミのような小さくてすばしこい、退治が厄介な相手なので、ボクたちにお鉢がまわってきたのである。


「ファイアボール!」

 エスリは火の玉を放つけれど、命中精度が悪くて中々、ネズミには当たらない。ボクもこの程度の相手なら、前衛といってもすることはなく、刀をふるって追い払う程度のこと。

 それより、ミレニアが補助魔法を覚えた。その効果は絶大だ。

 ボクの遅い剣が、ネズミにあたるようになった。ミレニアのブーストがかかって、動きが素早くなっているのだ。

「まだ長くは保てませんけど……」

「いや、すごいよ。ボクが魔獣を倒せるようになった」

「たかがネズミだけどね」

 エスリはそういって腐すけれど、補助魔法のありがたみを感じる。自分でつかえればよかったが、ミレニアがつかえれば大きな力になりそうだ。

「まだムダが多いけれど、実戦でもつかえそうね」

 ソラも満足そうにうなずく。魔法をつかえるメンバーが増えれば、それは魔術師であるソラにとっても、負担が減る。

 一方で、やはり前衛としての力量が試される。前衛としてはガードを雇った方が早そうだだけれど、冒険者の中でもなり手が極端に少なく、またベテランがその経験をもってなるものだ。

「タンクになりたいのか? できるぞ」

「え? できるの?」

 セイヤのそんな提案に、簡単にのってしまったことにボクがすぐ後悔することになる。




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