第12話 元魔法使い

   魔法剣士をめざして


「魔法を憶えたい?」

「憶えたい……というか、つかえるかな、ボク?」

 ソワは首を傾げつつ「この世界の人族は、多少なりとも魔力をもつ。でも魔術師になれるほど高められるのは少数よ」

「そんな強大な魔法を使うつもりはなくて、戦闘の補助につかいたいんだよ」

「それなら……。でも、私は補助魔法をあまり知らなくて」

 補助魔法にはいくつかのパターンがある。白魔法師がつかうのが基本だけれど、黒魔法にも多少あるし、妖精を媒介するエルフなどは補助魔法をつかうことができるはずだ。

「私? できるわけないじゃん」

 エスリはあっけらかんとそういって笑う。

「魔法がムリってなったときから、憶える気もなかった!」

 力強くそう言われた。

「私もごめんなさい。回復魔法については一通り覚えたんですけど、補助魔法や付与魔法については、ふれていなくて……」

 ミレニアは申し訳なさそうだけれど、これは仕方ない。ボウタリス教は人を救うのが教義であるだけに、恢復魔法しか教えてくれない。それでも冒険者として経験を重ね、また自ら学ぶなどして修道女でも補助魔法をつかえる者もいる。それはあくまで本人の努力の賜物だ。

 ボクと組んだのが初めての冒険となるミレニアでは、そこまで求めることはできなかった。


 ギルドに相談してみることにした。

「報酬は必要ですが、補助魔法に詳しい人を紹介できますよ」

 ギルドの受付嬢、ハミルはそう応じる。

「格安の人はいませんか?」

「いますが……、あまりお勧めできない人しか……」

 他のパーティーで居場所がなく、ヒマに空かせるから単価が安い……ということのようだ。そういう相手だと、教え方も悪いことが想像された。

「良さそうな人がいたら、紹介をお願いします」とだけ伝えて、その日は去った。

 後日、家に訪ねてきたのは、ベテランの魔法使い……つまり老婆だった。しかもギルドの紹介文があったから魔法使いと分かったけれど、恰好は魔法使いというより、麦わら帽子をタオルで上から縛り、モンペにアームカバーをするなど、明らかに農婦という感じだ。

「あんたが補助魔法を憶えたいって、剣士かい?」

「……あ、はい」

「お金がないんだって? しょうがないから、ただで教えてあげるよ。その代わりにうちの畑を手伝いな!」

 そういって、ヒルデと名乗った農婦に連れていかれた。

 ヒルデは街の外れで、農場を営んでいるらしい。

「昔は冒険者をしていたんだけどね。もう引退して長くなる」

「どうして冒険者を辞めたんですか?」

「歳だからだよ。ま、私のような老冒険者は、早めに引退して後継者に道をゆずった方がいいのさ。宝箱だって、ダンジョンにあるものはとり合いだ。こんなババアがそれをがめていたら、いつまでたっても若い者が育たないだろ?」


 ヒルデはそういうが、どちらかといえば、年を重ねると魔力も落ちるし、体力だって当然低下する。経験で補えているうちはよいけれど、それが難しくなるタイミングが引退、とされている。

「ほら、早く草むしりをしておくれ。ここから、あそこまでだよ」

 ヒルデはスパルタだった。こちらもタダで魔法を教えてもらう……という負い目もあって、農作業のお手伝いをすることとなった。

「お……終わりました」

「じゃあ、こっちのたい肥を天地返ししておくれ」

「ひ、ひぃぃぃぃッ!」

 ただでなくとも下半身と分離し、力が入らないので、たい肥をもち上げるのも大変な作業だ。

 セイヤは「ほら、踏ん張っているから頑張れ」と、のんきに声をかけてくる。

 結局、その日は一日、農作業だけで終わってしまった。

 家に帰ってきて、くたくたのままお風呂に入って眠ることにした。他の三人は、三人だけで依頼をうけており、もうすでに休んでいるようだ。

 でも、布団に入ろうとしたボクの部屋に、訪ねてくる人がいた。

「よ……よろしいですか?」

 ミレニアである。彼女はゆるい寝巻を着ており、もじもじして部屋の入口で立っている。

「あ、あの……。一緒に寝ていただけませんか?」

「ひゃっほーッ!」

 セイヤのそんな雄たけびは無視して「まだ怖い?」

 そう、ミレニアはソワの闇魔法で、闇の中にずっと閉じ込められてから、夜を怖がるようになってしまったのだ。

 一過性のものだと思うけれど、それでボクや、エスリ、ソワのところをぐるぐるとまわって、一緒に寝ている。

「構わないよ。どうぞ」

 以前もそうだけれど、ミレニアと一緒に寝たことは何度かあるし、最初のパーティーのときなど、他の冒険者が信用できなくて、いつも冒険に出るとボクの傍らで寝ていたぐらいだった。

 ただ今は、ボクの傍らというより、布団に入るとボクにしがみつくようにしてくる。つまり抱き合って眠るのだ。

 彼女は闇を怖がって、そうしているのであって、決してカン違いしてはいけない。

 でもセイヤは「ほら、襲っちゃえよ。若い子が抱き着いてくれているんだぞ。今しか童貞を捨てるチャンスはないって」と囁いてくる。

 ボクはある意味、ミレニアに興奮して……というより、セイヤの甘い囁きで今晩も眠れなくなりそうだった。

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