第11話 光の中

   脱出


「さっきも、つい頭の中であの呪文を思い出してしまったんです。だから、もう一度やってみます……」

 ソワは目を閉じる。すると体内から光が漏れてきた。

「うわ! やっぱヤバいじゃん!」

 エスリはビビッて近づけない。先ほど、ミレニアが吸い込まれるところを目の当たりにしたのだから、当然だ。

「セイヤ、分かるか?」

「光の発生源がソワの体内で動いているな……。それで影のできるところも動き、ミレニアの気配も動いている」

「あまり永くかかると、ソワの体力が……」

「分かっている。だから焦るな。チャンスは一度きり、確実に決めるぞ」

 セイヤの方が冷静のようだ。

 発光するソワが少しずつ震えだす。精神的にもかなりやられているはずで、だから毎回意識を失うのだ。

 じりじりと時間だけが経過し、少しずつソワ自身の光も強くなる。このままだと彼女自身も、その光の中に消えてしまうのでは……と感じ始めたとき

「左脇の陰だ! 手を突っこめ‼」

 セイヤの声に、ボクはソワの左脇に手をさしこむ。そこに何かが触れたのを感じてボクはそれをつかみ、一気に引っ張った。

 するとミレニアが裸のまま飛び出してきた。

「ファルデル様~ッ!」

 そのままボクの胸に抱きついてきて、彼女は泣きじゃくっている。

 闇の中に捉えられ、独りぼっちで不安、孤独、恐怖などと戦っていたのだから、ボクもしっかりと抱き締めてあげる。

「こら! 抱き締めたら見えないだろ! それに下半身をもっと押しつけろ! オレが愉しめないじゃないか!」

 セイヤからは怒りにも似た、矢のような催促がくるけれど、ボクはそれを無視することにした。


 ソワはダメージが大きくて寝込んでいるけれど、ミレニアが精神の回復魔法をかけたので、数日もあれば元通りになりそうだ。

「しかし、何でミレニアのいる場所が分かったんだ?」

 エスリにそう尋ねられるけれど、ボクは「勘だよ」とだけ応じておいた。セイヤのことを話すわけにはいかない。

「私とファルデル様は、絆で結ばれているんです!」

 ミレニアの評価は嬉しいけれど、ボクとしては複雑だ。

「でも、あんな闇魔法は見たことないぞ」

「ボクも分からないけれど、もしかしたら地下室にあるあの部屋が、冒険者パーティーが全滅した……という噂になった元じゃないかな?」

「どういうこと?」

「ここは魔術が集中する場所らしい。恐らくどこかの冒険者パーティーがここを根城にする、と決めたとき、そこの魔術師は小躍りして喜んだのかもしれない。だって魔力があふれてくるんだから。

 そして研究を始めて、いくつもの革新的な魔法をあみだした。あの闇魔法も、革新的にして、強力すぎて、他のパーティーメンバーを消してしまうようなことがあったのかもしれない」

「全滅……じゃなくて、消失ってことですか?」

 ミレニアは身震いし、青ざめている。自分もそうなったかも……と思ったのかもしれない。

「あの魔術部屋にある本は、もう少し検討が必要かもしれない……」


 でも、ソワは「しばらくあの部屋には入りたくありません」

「やっぱり精神的にきつい?」

「私も魔術師として、あの部屋にある魔術書には非常に興味がある。でも、今は精神的に……」

「分かった。焦らなくていいよ。ただ、この家にまつわる謎もあの部屋に隠されていそうだから、そのときはよろしく頼むよ」

 ボクもそういうしかない。魔術書の類は、それこそ魔術師でないと解読不能な部分も多く、ソワでないと手が出せない代物だ。

 一旦、この家の問題を棚上げにして、ボクたちは冒険することにした。いくら安いといっても、稼ぎがないと家賃も払えない。

 しかしこれまでと違って、格段に冒険がやり易くなった。

 それはソワが実は、ベテラン冒険者だと分かって、魔法を自在につかうようになったからだ。そしてエスリも魔法がつかえるようになり、作戦の幅が大きく広がったのだ。

 相変わらずボクは上半身と下半身が分離したままであり、戦闘力低めではあるけれど、ちょっと難しい依頼もこなせるようになったのである。

「リーダーが一番弱いチーム……」

「何を悩んでいるんだ? 最初から分かっていることだろ」

 セイヤにはそう腐される。

「そうだけど、トラウマがあるんだよ。勇者としてパーティーメンバーを募ったら、離反されて身ぐるみはがされて……とまではいわないけれど、パーティーから追い出されたっていう……」

「弱いんだから仕方あるまい?」

「でも、そのときより弱いんだよ。今のボクは」

 セイヤと分離したばかりに、戦いには全く不向きな体となってしまっているのだ。

「あそこにいて、気になったんだが、オマエ魔法はつかわないのか?」

「……え? つかえないよ」

「適性はあるだろ。腰の踏ん張りが利かないところを、魔法剣士としてカバーすればいいじゃないか」

「そんな方法が……?」

「オレもこの世界の冒険者とやらが、どういう職種があるか知らんが、オレのいたところでは定番だぞ。勇者だって魔法をつかうのが」

 そんな話は聞いたことがない。というより、勇者の適性……というだけで、勇者とは何か? 改めて考えさせられた。



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