第10話 消滅

   闇に消えし


 まだ三人のお風呂シーン――。

「しかしソワはさっきの話だと、結構パーティーに参加してきたみたいだけど?」

「…………」

 しばらく考えていたソワが、小さな声で話しだす。

「実は、私は初心者じゃないの」

「え⁉ どういうことですか? 銅等級ですよね?」

「一度、金まで上がったけれど、それを破棄して銅として登録し直したの」

「えぇ~ッ‼」

 二人がびっくりするのもムリはない。金等級になると、待遇面から何から、格段によくなるからだ」

「私は魔術協会とごたごたして、冒険者のパーティーにも嫌気がさして、色々なものを捨てて、一度野に下ったの。でも蓄えもなくなって、冒険者にもどることになった……」

「でもそれなら、金等級にもどれるでしょ?」

「私の身分がバレて、色々と騒動になるのが嫌だったから、初心者として登録し直したのよ」

「えっと……。ソワさんって、おいくつなんですか?」

「私……ドワーフのクォーターなのよ」


 二度びっくりだった。

「ドワーフも長命で知られるけれど……、じゃあ、私より年上?」

 エスリの問いかけに、ソワは頷く。

「だいぶ上……。ドワーフの中ではこれでも若い方だけど……」

「でも、ドワーフって土魔法が得意だと思っていたけれど……」

「偏見よ。それに私、クォーターだから実際にどれぐらい、ドワーフの力が宿っているかは分からないの。この歳になってもこの見た目と、肉体的なことから考えると、そこそこドワーフの血も濃いってやっと知ったぐらい。だから魔法は、恐らく人族の方から来ている」

 魔王が強力となり、他種族との間で協力することが多くなって、その距離感が近くなり、混血も増えている……とされる。

「最初の冒険で、火魔法をつかったのは……?」

「初心者っぽく見せようとして……。ごめんなさい、騙すつもりはなかったけど、身分を隠す方を優先してしまって」

「ま、うちのリーダーがもっとしっかりしていれば、フロッグだってすぐ倒せたんだけどな」

 そういってエスリが笑う。ミレニアが話を変えようと「さっきは、どんな魔法をつかったんですか?」

「私、闇魔法はつかえないけれど、本に書かれたものをそのまま詠唱したら……」

「闇なんですか? 光魔法みたいでしたけど……」

「闇……と書いてあって、どうせつかえないからと思って……」

 そのとき、ふわっとソワの体の中から光が湧き上がるようにしてでてきた。ソワはふたたび意識を失っており、呆然と立ち尽くす姿は、まさに先ほどと同じ光景を再現するようだ。

「ソワさん!」

 ミレニアが、先ほど止めたみたいに、体当たりをしようと駆け寄った。

 でもそのとき「ミレニア!」

 エスリの叫びも虚しく、ミレニアの体がソワの発する光の中に、溶けるように消えてしまった。


「どうしよう……?」

 エスリはおろおろするばかりだ。ボクもエスリの悲鳴を聞いて駆けつけ、二人しかいないお風呂場に驚いた。

 二人でソワをソファーまで運び、今はリビングにいた。

「ソワも光のこと、よく分かっていない以上、起きたところでどうしようもないだろう……。ソワの読んでいた魔術書を解読できれば、解決策がみつかるかもしれないけれど……」

 期待薄だと感じていた。しかも時間がかかってしまう。

「セイヤは何か知らないか?」

 頭の中で、ボクが尋ねる。先ほどソワの裸をみて絶叫……雄たけびを上げて以来、沈黙しているからだ。

「さっきもそうだが、あれは闇魔法だ」

「それはエスリからも聞いたよ。闇魔法だと、対策があるのか?」

「対策はない。だが、闇魔法には闇魔法なりの対処の仕方もありそうだ」

「どういうことだ?」

「彼女が発光していただろ? 恐らく、あれは闇をつくるためなんだ」

「光あれば闇もある……というやつか?」

「……その解釈でいいよ。その闇の中に、ミレニアは囚われたと思う」

「じゃあ、まだ傍にいるのか?」

「感覚はある。だが、それは通じていない隣の部屋にいて気配だけ感じられる……程度の弱いものだ」

「助けられそう?」

「そんなことは知らん。でも、もう一度彼女……ソワにこの魔法をつかわせ、そのときできる闇に飛びこめば……引きだせるかもしれん」


 なるほど、ボクより魔法に関しては探知力もあり、かつ状況を冷静に分析しているようだ。

「セイヤの協力には感謝するよ」

「バカをいえ! オマエのためじゃない。彼女はもう少しすると、いい女になりそうじゃないか。彼女を助けたいって気持ちは、オレも同じだ」

「…………」

 理由はともかく、ミレニアを助けようとはしてくれているようだ。

 目を覚ましたソワに、もう一度あの魔法をつかえるか? 訊ねてみた。

「私も……うっすらとミレニアさんが消えていくのを見ていました。体に力が入らなかったので、どうすることもできませんでしたが……」

 彼女も意を決したように「やります……。というか、やらないといけません。彼女が消えてしまったのは、私のせいなんですから」

 そういうけれど、かなり体に負担もあるはずで、さらに訳の分からない魔法を何度もつかうことは、精神的にもきついはずだった。







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