第8話 光
ラディエーション
エスリが魔法をつかえるようになった。
あの魔力を集めて供給してしまう術式が、滞っていたエスリの魔力、その堰を壊したようだ。
ただ、練習をしないといけないので、ソワを招いて魔法の講義を開いてもらうことにした。
この家は郊外にあり、庭も広くて、その一角で練習をする。
ボクとミレニアはその間、まだ家に問題がないか? 色々と調べることにした。
「部屋は六つもあるし、広々としていていいですよね」
一つ一つの部屋も、六畳ぐらいあって余裕がある。宿ではセミダブルぐらいのベッドと、机一つでいっぱいだったので、冒険の道具などを置いておくこともでき、この余裕もここを択んだ理由だ。
しかも郊外にあり、二階の窓を開けると緑がみえる。冒険者向けというのも、森に近いと魔獣が襲ってくる可能性があるからだ。町の防衛という意味もあり、それも格安の理由だった。
「でも、誰があんな術式を?」
「貸主もころころ代わっているし、多分どこかで、お風呂を覗き見しようという不逞な輩がいたんだろう。でも、術式をあまり心得ておらず、逆の作用となった。その結果、魔術師には居心地の悪い場所となり、パーティーが全滅した噂が広まった。そんな事情じゃないかな?」
ボクにもよく分からないけれど、ミレニアが調査して、それ以上におかしなところがない以上、そう判断せざるを得なかった。
「魔法の才能はありそう」
ソワにもそう評価され、エスリは嬉しそうだ。この世界の魔法は、神や精霊との契約が重視される。ミレニアの回復魔法は神の加護だし、ソワのつかう黒魔術は、悪魔との契約が必要だ。
エスリの場合、精霊とのパスさえ通れば魔法をつかえた。元々、目詰まりしていただけなので、一度そのパスが通ってしまえば、スムーズにつかえるようだ。何しろ、精霊はたくさんいるのだから。
ソワも屋敷に入って「へぇ~、いい場所ね」と、感心している。
「一緒に暮らしませんか?」
「いや、私は……」
ソワはそういって、気乗りしない様子だ。
「ここは地下室もあるそうだけど、みんなで行ってみないか?」
冒険のつもりで、四人で下りてみることにした。
「うわ! 蜘蛛の巣じゃん……。どれぐらい開けてないんだ、ここ?」
虫が平気なエスリがトップをきって、梯子を下りる。そこは地下室というより、岩を削って空間を広げたところで、ガラクタを避けてすすむと、広くなったところがあった。
「研究室のようですね?」
壁には本棚、中央には小さな机がおかれ、何かの研究につかっていたことは間違いないようだ。
何気なく、その本棚を眺めていたソワの目の色が、急に変わった。古ぼけた本をとりだすと、埃まみれの椅子に座るのも気にならず、そこでその本を貪るように読み始めたのだ。
「どうしたの?」
「魔術書……読みたかった」
応えるのも面倒くさそうに、周りに虫がいても気にならないようだ。それぐらい没頭して読んでいる。
どうやら、そこは以前ここに暮らしていた魔術師が、こっそりと研究するためにつかっていたようだ。
その日から、ソワもここで暮らすことになった。それは本棚に並んだ魔術書を読破するためであり、またエスリの魔術を指南するためでもある。
「にぎやかになりましたね」
ミレニアがほとんどの家事もする。彼女はボウタリス教の修道女として、一通りの家事もこなしてきたので、何の支障もない。
ボクは……といえば、ふだんは剣の練習だけれど、どうしても腰がすべって、力が入らない。
「柔らかい魔獣なら切り刻めるけれど、硬いのはムリそうだ……」
「この体を治す……といった問題をぶった切ることもできないんだから、諦めるのも手だぜ」
セイヤはそう腐すけれど、ボクも「このパーティーで前衛を務められるのはボクだけなんだから、頑張らないと……」
「そのパーティーも、風前の灯火だけどな」
「……ん? 何か知っているのか?」
「知っていることなんてないが、あの地下室はヤバいぞ」
「どういうことだ?」
そのとき「キャ~~ッ!」と、悲鳴が聞こえてきた。
ボクとミレニア、それにエスリが駆け付けると、ソワが光っていた。
文字通り、発光するのだ。しかも意識を失っており、椅子に座ったまま白目を剥いて上空をみつめている。
「何が起きたんだ……?」
「だから言ったろ。ここはヤバいって。オレも完全には理解できていなかったが、ここは魔力が集まりやすいんだよ。それは術式や、何か人為的なものではなく、流れがそうなんだよ」
セイヤは魔術のそうした流れを感じられるようだ。
ただ問題は今、発光したままのソワだ。
「ソワはどうなっているんだ?」
「魔術書にあった魔術を試したんだろ? でも、想定以上の効果がでてしまった……という感じじゃないか?」
「状況分析は分かったけれど、どうすればいいんだ?」
「無理やり引き剥がせ!」
ボクが考える間もなく、セイヤが……下半身が走りだした。そのままソワに体当たりすると、ボクはその勢いもろとも気を失っていた……。
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