第6話 拠点

   物件内見


 それからも、このパーティーで冒険をすることとなり、冒険の依頼もうけることにした。

「ロカスト退治? ロカストって何ですか?」

 ボクが択んだ依頼に、ミレニアが首を傾げている。

「イナゴだよ。数が増えると、狂暴化して手がつけられなくなるから、少ないうちに数を減らして……という依頼だ」

「そんなの、冒険者のやる仕事?」

 エスリはそういって文句をいうけれど、こういう雑用的な仕事は報酬がいい。

「今は、装備をととのえるのが先だよ。エスリが矢をケチったり、ソワもその折れそうな杖では、いつ魔法がつかえなくなってもおかしくない。ミレニアのステッキも、もっといいものを買ってあげたいし……」

 そう、ボクは勇者候補であり、武器や防具を交換してもらえたりできるので、それなりに良いものがもてた。しかし他の三人は買い替えをすると差額が大きく、躊躇う原因ともなっていた。

 しかしミレニアに関しては、ちょっと私情をふくむことは内緒である。


「この小さな虫を間引くと、お金をもらえるんですか?」

 ミレニアは見たことがなかったらしく、恐る恐るという感じだ。虫は苦手みたいだけれど、イナゴなら何とか……というレベルで、泣きそうになりながらも布袋に集めていく。

「私の村ではよく食べていたよ。足をとる人も多いけれど、私はカリッと焼いたぐらいの足が好き」

 エスリはエルフの村で暮らしていたので、それがエルフの習慣なのだろう。恐らく植物を食う、そんな害虫を食べて始末していたようだ。

 一方で、まったく虫が苦手というのがソワ。今もみんなが畑に入って虫取りをするのに、彼女だけは傍らの畔にすわったままだ。

「虫なんて、燃やしてしまえばいい……」

「ダメだから。農作物も一緒に燃えちゃうから」

 そう言って彼女をみたとき、畔でヒザを抱えて体育座りをするので、長いローブの下の、純白の布が……。

「あの子もいいじゃないか!」

 下半身のセイヤがすぐに前のめり……というか、おっ立てた。

「パンツが見えたぐらいで、そんな気になるのか? 彼女は面倒くさそうだからパスといっていなかったか?」

「面倒くさい女を無理やり……というのもいいんだよ」

「そんな性癖、知らん!」

 ソワは細かい個人情報を教えてくれないし、ハットを脱ぐことは稀で、顔も見せたがらない、謎の多い人物だけれど、女性であることを改めて感じさせた。


「そろそろ、拠点をつくりたいと思う」

 いつまでも宿屋に、別々に泊まっているのもお金がかかるため、家を借りて一緒に住もう、という提案だ。

 ちなみに、ミレニアと一緒の部屋に泊まったのは初日だけで、二日目以後は空いた部屋に彼女は移ったので、セイヤの被害はなかった。

 しかし一つ屋根の下に暮らすとなると、色々とありそうだけれど、それを差し置いても金銭問題が大きい。

「私は賛成。部屋が別なら、今と同じだしね」

 エスリはそういって賛成する。ミレニアも「私は一向に構いません」と同意する。

 ただソワは「少し考えさせて……」と、すぐに賛同しなかった。

「分かった。でも、もう物件は探していて、決まったら三人はそこに住むから、もし参加したくなったら、いつでも来て」

 そういって、ボクたちは内見にでかけた。とにかく、まだ貧乏冒険者なので、安い物件を紹介してもらうことになっている。

「同じ屋根の下に暮らせば、間違いだって起こるはず~ッ♥」

 一番、うきうきしているセイヤは気になるけれど……。


「この物件は、訳アリで安かったんだよ」

「訳アリ……なんか、嫌な響きなんだけど」

「前も冒険者に貸し出していたそうなんだけど、全滅したんだ」

「最悪じゃん! 私たちにとって、一番ふさわしくないじゃん!」

「でも、冒険で全滅したわけじゃないんだよ。この家にいるとき、いつの間にか全員が……」

「もっとダメでしょ!」

 エスリが泣きそうになりながら、そう訴えるのももっともだ。でも、毒でもなく、原因不明ということで、呪いでももらってきたのでは? とされており、それならとここを択んだ。

「ミレニアに浄化してもらえば大丈夫だと思ってね」

「分かりました。浄化なら任せて下さい!」

 腕まくりをして、ミレニアは家の隅々まで浄化しようとリビングを出て行った。

「いい子だよな……。どこで見つけたんだ? あんな回復役」

 エスリはそう不思議そうだ。ボクが勇者候補だと明かしておらず、そのためボウタリス教の彼女が派遣された、という事情は話していない。

「シュターク王国の国教だろ? 私たちエルフにはとんと理解できない教えだけど、神の御加護によるヒールは強力だ」

「エスリは回復魔法もつかえないのか?」

「才能がないんだよ、私は。回復魔法は、攻撃や防御、補助魔法とは経路がちがう、というんだろ? どれも試したよ。でもダメなんだ。魔法をつかおうとすると、何かがバチッとするんだよ」

 そういって、エスリはこめかみ辺りをとんとん叩く。どうやら、脳内で何か問題があるらしい。

 そとのき「きゃ~~~ッ‼」と、ミレニアの悲鳴が聞こえてきて、ボクとエスリは慌ててリビングを飛び出していた。



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