第5話 腕試し
破釜沈舟
ボクら四人のパーティーは森へと入った。
冒険者は依頼をこなすことでお金を稼ぐ。戦うことで経験値を稼ぐ……という目的もあるけれど、依頼を受けることが重要だ。ただ今回は、パーティーとしての適性をみるために、弱い魔獣と戦ってみよう、ということになった。
ミレニアは回復役で、補助魔法もつかえないので実戦では出番がない。そこで勇者候補であるボクが前衛、弓使いのエスリが中衛、魔術師のソワが後衛としてミレニアを庇いつつ……となった。
ローンフロッグとの戦闘――。
要するに、巨大なカエルだ。水辺に現れ、粘液で体が覆われているため、剣などの物理攻撃が効きにくい。しかも長い舌をもち、それで物理攻撃をしかけてくる厄介な相手だ。
「ソワのつかえる魔法は?」
「ファイアボールを少々、嗜む程度で……」
…………え? 嗜む?
「分かった。じゃあ、ボクが牽制するから、その間にそれを放ってくれ。エスリはボクと一緒にトドメをさす係だ」
そういって、ボクは飛びだした。大きさは四つ足で這い蹲っても人の背丈を超える程度。手足を伸ばすと3mを超えるほどだ。
人も食うので、退治する対象だ。ボクが剣を構えると、獲物と思ったのか、こちらを向いた。
「ファイアボール!」
そのとき、ソワの長い杖の先から、マッチを擦ったときぐらいの、小さな火が飛んで行って、ローンフロッグにあたった。でもそんな攻撃で倒せるはずもなく、ちょっと相手の怒りに火をつけただけだった。
「地母神ガイアの恵みよ、この者を癒したまえ……。ヒール」
ミレニアが回復魔法をかけてくれる。ボクは危うく、ローンフロッグに食われるところだったが、食われる途中で剣で威嚇し、何とか逃げだすことに成功した。ただ、粘液でべとべと、精神的にはかなり削られた……。
「ソワは魔法使いになって、どれぐらい? 冒険者になる前って?」
「いや……、冒険しながら魔法は鍛えるものだと……」
要するに、本当の初心者らしい。適性があると、魔法使いとして冒険者登録をされるけれど、適性だけで魔法使いを名乗っているようだ。
「エスリは何で矢を射なかったの?」
「もったいないかなぁ~って……」
「それで食われそうになっているんですけど⁉」
「だって、フロッグって売るところがないじゃん?」
ダメだ、これは……。完全に「見捨てる」発言である。
ボクはこのパーティーを解消し、諦めようと思ったが、意外なところから声がかかった。
「オマエの戦略がまずいんだよ。オレに任せろ」
そう、それは下半身のセイヤだった。
「ほら、こっちだ!」
ローンフロッグがボクを追いかけてきた。跳ねるので、一回の跳躍が大きく、ボクも必死で走る。
近づくと、長い舌を伸ばしてきてからめとられるけれど、そのときはフロッグも泊まって狙いを定めてくる。その隙に遠ざかる。それをくり返しているうちに、岩場にきた。
その岩と岩の隙間に、フロッグは落っこちた。
でも放っておくと、すぐに吸盤のある足をつかって岩を上がってくるので、すぐに積み上げておいた大きな石を、フロッグに向かって投げつけ、上がって来られないようにする。
その間にエスリとミレニアが、準備しておいた木の葉や枝を投げこんで、そこにソワが「ファイアボール!」を放った。
木の葉や枝に引火し、火が燃え上がる。乾燥と熱に弱いローンフロッグは、そのまま丸焼けになった。
これが、セイヤが立てた作戦だった。
「穴の中で火にかけろ」
そこで岩場をみつけ、ちょうどフロッグを落とせる穴に誘いこむ作戦を立てた。
後は石と、木の葉や枝を用意すればいい。嗜まれたファイアボールぐらいの火の粉があれば、着火できる。
このパーティーでの初勝利だけれど、何となく戦った気がしないし、戦ってもいないのだけど……。でも、経験値は入ったようだ。
「戦うことだけが、冒険じゃない。特にオマエらのような弱いパーティーなら尚更だよ。頭をつかえ、頭を。それでもし生き残るようなことがあったら、そのとき勇者でも何でも名乗ればいい」
それを頭のない、脳みそがないはずのセイヤに言われると、さらに複雑だ。でも、とにかく勝利は勝利だ。
ひとしきり、火が消えるのを待った後、黒焦げとなったフロッグのいる岩の隙間にボクは降り立った。
「さっき、ローンフロッグは売れない、といっていたけれど、それは肉が早く腐ってダメになるからだよ。こうして生きたまま調理、焼いたなら、腐らないうちに加熱できたから……」
ボクは足を切り取った、
「おいしいカエル肉の出来上がり、だ」
これはボクの故郷では、定番の御馳走だった。勿論、それはこんなバカでかいフロッグではなく、手の平にのるぐらいのフロッグを料理するのだけれど、タンパク源としても貴重な食事だった。
とにかく初心者ばかりの頼りないパーティーだけど、初戦は何とか勝利し、おいしい肉で宴をひらけるぐらいには成果もあった。何とかやっていけそう……まだまだ勇者の道には遠そうだけれど、ふたたび一歩を踏み出せたような気がしていた。
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