第4話 パーティー
悖入悖出
「ん……、ん~……。お早うございます、勇者様」
ミレニアはベッドの上に起き上がり、大きく伸びをする。窓から射しこむ光が、彼女の肌着を透かして、まだ大人になり切れていないその裸身を浮かび上がらせるのが眩しかった。
「どうしました? 勇者様」
「いや、やっぱり防具を着たままだと、まるで洞窟の中で眠っているようで、熟睡できなかったよ」
「それはそうですよ」
ミレニアはくすくす笑う。ボクとしてはセイヤが隣で眠っているミレニアの方ににじり寄ろうとするのを抑えこむのに必死で、おちおち寝ていられなかった……というのが正しい。
朝方になり、セイヤは「くそ! オレは寝る!」といってふて寝してしまう。相手の意識のありようは、何となく伝わる。今は下半身が、完全にボクの制御下にあると感じられた。
「これからどうしますか?」
宿で準備してくれた朝食をとりながら、ミレニアがそう尋ねてきた。
「まずはお金を稼がないと……。でも、ボクの実力では……」
ミレニアも申し訳なさそうに「私では戦力になりませんものね……」
「ヒーラーも立派な戦力だよ。でも、前衛のボクの力が足りないから、戦術を練っていかないと……」
ただでなくとも弱いのに、下半身と分断されて、さらに戦いにくくなった。
「もう、パーティーは……?」
「今はそんな気になれないかな。でも、勇者であるボクが強くないと、きっとまた同じことが起こるだろう。まずはボクが強くならないと……」
弱さに呆れ、メンバーはボクを追いだした。いくら勇者といっても、名誉や報酬が約束できないのだから、仕方ないと諦めるしかなかった。
ミレニアと二人で、冒険にでる。
腰にコルセットを巻き、その上から防具で留めるので、上半身が滑り落ちることはなくなったけれど、元が弱いのだから、こればかりはどうしようもない。弱い魔物と戦っても、怪我をする頻度が高く、ミレニアに回復してもらう機会がどうしても増えてしまう。
ただ意外なこともあった。経験値が上がり易くなったように感じる。
体が半分になって、経験値が倍になったようだ。
しかし弱い魔獣を倒しても、得られる経験値も限られている。
「やっぱり、パーティーを組もう」
ボクもそう決意した。
「でも……、大丈夫ですか?」
「勇者ということは伏せておこう。そこに期待されると、結局失望して前と同じことになる」
「分かりました。初心者でパーティーを組みたい。ともに成長していこう……ということですね」
ギルドに張り紙をだすと、すぐに二人が集まった。
「私、エルフの弓使い(アーチャー)。エスリキニエ・サンシュユよ。エスリって呼んでね」
「私は魔術師、ソワ・オースタイト」
心配していたことが、現実となった。二人とも若い女性――。
「エスリさんは、魔法もつかえるんですか?」
「私の方が年上だけど、タメグチでいいよ。エルフの歳って人族とはまったくちがうから。
自慢じゃないけど、魔法はまったくダメ。エルフなのに妖精とのパスが通らなくて適性がないの。だから弓」
エルフは魔法をつかう種族だけれど、勿論それが絶対ではない。冒険者をめざす上で、魔法がないことで他の有力パーティーに参加できないから、初心者パーティーへの参加のようだ。
ただ、気になるのはそこではなく、露出の多い恰好に、その魅惑的なボディ……。
話を逸らそうと「ソワさんは、黒魔術師?」
大きな黒いハットに黒マント、といういで立ちで明らかに黒魔術師なのだが、彼女は「魔術師です」と、かたくなにその名乗りをくり返す。
二人ともメダルをみると、銅等級である。この世界で冒険者は、金、銀、銅に別けられる。
次の冒険に一緒に行くことを約して、ボクたちは別れた。
「何で同じ宿に泊まらないんだよ!」
セイヤはそう怒るが「まだお試しだから、だよ。結局、前衛はボクだけだし、相性もあるからね」
「あのエルフの姉ちゃん、いいじゃないか……」
舌があったら、舌なめずりが聞こえてきそうだ。
「エルフは人族と、そういうことはしないよ」
「何でだよ! エッチなエルフだっているだろ!」
「いるかもしれないけれど、エルフは人族じゃ満足しないって話だよ。それに、多分彼女はまだそんな歳じゃない」
「えぇ~ッ‼ 年上だろ?」
「エルフが何年生きると思っているんだ? まだ子供だよ」
そう言いながら、ミレニアにも触手を伸ばそうとするセイヤには、ムダな忠言とも思う。
「それより気になったのは、経験値が上がり易いと感じるんだけど……」
「オレの経験値は上がっていないけどな!」
「セイヤに経験値がいかない分、ボクの方に経験値がまわってくるのか……?」
「多分、ちがうぞ」
「……え?」
「オレとオマエの間にはパスが通っている。神経、意識もそうだ。でも、経験値だけは下りてこない。つまり、何らかの力によってそれは止められているんだ」
「何らかの力?」
「そんなことは知らん! でも、事象が不明なんだ。どんな副作用が働いているか、確認しておく必要もありそうだ」
下半身はそう、思慮深くいった。
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