第10話 23主催ツーリングその4

結局高松を朝5時に出て一日中四国の山中を走り回った

飯も食わずに…

日が傾く頃に足摺岬を越えて四国の西側を上がってゆく

この人達には旅先を楽しむという趣はないのだろう

いわゆる景勝地やご当地など目もくれない

ただ走ることが良いのだ

知らない景色の中に飛び込んでいくのが好きという表現のほうがしっくりくるか


自己紹介が遅れたが、私はとある峠の走り屋

今で言うローリング族というやつである

特定の峠を縄張りとし、同じところをサーキットのようにグルグルと回る

刃物を研ぎ澄ますように、そこでだけは誰にも負けない走りの切れ味を磨いていく

そういう作業と立ち位置が好きだった

仲間と一緒に切磋琢磨し、朝から晩、そしてまた朝まで同じところを走り続ける

当時全国にいたそういうバイク乗りの一人だった

ローリング族にとって、23ツーリングのような走り方は実は苦手である

全く知らない峠に飛び込んで瞬間にギリギリまで自分とマシンを追い込む

同じ峠を攻める行為ではあるのだが、メカニズムは全く違うものなのだ

自分が知り尽くす峠ならば、23のような走りはできる

確信としてあるが、それ以上のスピードで走ることはできる

だけど、お互いに全く知らない峠でこのスピードと走りのテンションを維持できるかと言われれば、できない

自分にとって知らない峠をこんなスピードで走る行為は、まるで死神に足を引っ張られながら地獄に引きずり込まれる絶望感に似ている

引きずり込まれた経験はないが…

(なんでこんなに命を削る?)

(なんでこんなに生き急ぐ走りをする?)

(スロットルを抜けばすぐに安全な世界へ戻れる)

(ブレーキをかけろ、スロットルを抜け、後ろにラインを譲れば終わり、後はゆっくり走れば良い)


頭の中でもう一人の自分が警告する

同時にもう一人の自分が囁く

(23はホンマにギリギリで走ってるんか?)

(自分よりも全然スムーズで、むしろ楽しんでるように走っている…この差は何なんや)

(自分がイメージしていた峠の走り方って、もしかしてめちゃくちゃ浅い?)


走りに対する自分のアイデンティティの崩壊を感じながら、自己を見つめ直す走りは続く…






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