第9話 23主催ツーリングその3

フェリーはピタリ5時に高松に到着

船上の宴会は終わりの記憶がないままに終了していた

接岸後すぐにバイクをフェリーから出す

弾けるようにFZ750が加速していく

直後を追走する油冷刀とR1100

こっちはSPADA

直線勝負では勝ち目がない

TRXとイナズマは雰囲気組のようだ

追い込んでは来ない

高松市内はついていければ良い

勝負は山間部に入ってから!


スマホがなかった時代、バイクにナビなんてものも無かった

おまけに普段走ることもない四国の山道

つまりはぐれた時点で遭難確定なのである

モンスターの集団を睨みつけて後方からひたすらスロットルを開けてゆく


四国の山道は酷い

道は狭く、舗装は荒れている

落石や砂利など当たり前に転がっていて、酷いところは道の真ん中に苔が生えている

こうなったらパワーは関係なくなる

むしろ軽量Vツイン250の本領発揮だ

前のモンスター勢が突っ込めないポイントまで突っ込み、一気に向きを変え誰よりも速くスロットルオン

SPADAは面白いほどよく曲がる

250につつかれるのがストレスなのか、前の刀の動きが怪しい

コーナー出口でスロットルを開けすぎてセンターラインの苔に乗り、大きくケツを振る

戦意喪失だ…そらこんな山奥でコケてられんもんな…

まず一台、次はR1100

その乗り手はあっさり前を譲ってくれた

左手でサンキューのジェスチャーをして先頭を走る23のFZ750を追う 


その走りは全く異質だった

力みのないフォーム

暴れない車体

ビデオの早送りを見ているようなスピード

当たり前にタイヤを苔に乗せていく

落石や浮いた砂利の上もお構いなし

どうしてそんなに安定している?

230kgオーバーの車体を簡単に操る

すべての曲率を知り尽くしているかのように迷いなくコーナーに突っ込む

タイヤは滑っていない

こっちが突っ込めないスピードでコーナーに突っ込み、向きを変え飛び出していく

楽しそうに…

俺は何を見てるんや?

あの人には何が見えてるんや?

常識を軽く覆すバイク乗りが眼の前にいる

23はまさにそんな人だった


山間部を抜けて土佐清水市へ

スピードが一気に乗り、再び後方へ下がる

長くなる隊列、と急に先頭のFZ750のテールが光る

ん?

あ、ネズミ捕り…

この人隙がなさすぎる

噂の23はやっぱり伝説のバイク便ライダーだった


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