誰そ彼?

チンッと30階に着いた音が聞こえ、扉が開いた……けど、白雪くんは降りようとしなかった。


「……間違えた?」

「……」


私の視界を塞ぐようにして立ち位置を変え、前だけを見ている。声も届いていないみたいだし、握ったままの指が痛いです……。


「そんなところで突っ立ってないで早く降りれば?」


エレベーターの外から男性の声がした。この感じは大学生くらいだろうか?

どうやら誰か立っているらしい。


そっと背中に触れると、白雪くんはハッとしたように歩き出した。入れ替わるように男性がエレベーターへと乗り込む。

扉が閉まる前に振り返ろうとしたら、白雪くんの胸元に引き寄せられた。


「……アイツのことは見ないで」


まるで泣き出しそうな声で訴えられる。

エレベーターが動き出しても、しばらく離してくれなかった。耳元で心拍数の上がった心臓の音が聞こえる。


「……りっちゃん」

「ん?」

「りっちゃん、俺のことは好きにしていいから、捨てないで欲しい」

「んー? 急にどうしたの?」


今日は明らかに様子がおかしい。

でも、詳しくは聞けないというか、話せる感じではない。

よく分からないけど、安心させるように背中に腕を回す。落ち着くまでこうしていていいよ。


「りっちゃん、ありがとう」

「……」


さっきの男性は誰なのか?

白雪くんとは知り合いみたいだったけど、仲は良くなさそう?


なんだか、どこかで聞いたことのある声のような気がするんだよね。まあ、気のせいだとは思うけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る