お宅訪問

付き合い始めた時に菜乃ちゃんと約束したことがある。


“お姉ちゃんの気持ちが追い付くまでは、2人だけになる場所へは行っちゃ駄目だからね?”


特に彼の家は絶対にダメ!と何度も念を押された。


”無理矢理連れて行かれたら言ってね? 社会的に抹殺して一生償わせてやるからね?”


あの時の妹は目を吊り上げ、ものすごく怖かった。何も起きていないのに腹を立て過ぎじゃないか?と思ったものだけど……


「これは菜乃ちゃんとしてはアウトになるのかなぁ……」


勉強が目的なんだからセーフのはず!

白雪くんは気にしないでと言ってたけど、近所の洋菓子店でゼリーを買ってきた。


「これは……タワマンというやつでは?」


昨日の夜に送られてきた地図を頼りに駅から歩いてきたけど、セキュリティ万全そうな高層マンションが立っている。売れっ子の芸能人が住んでいると言われても「でしょうね」と思うよ……。


マンションの前に着いたら連絡してと言われていたことを思い出し、鞄の中からスマホを取り出す。

白雪くんから15分ほど前にメッセージが届いていたようだけど気付いていなかった。慌てた様子で、すぐに連絡が欲しいと書かれている。どうしたんだろう?


「りっちゃん!」


スマホを片手に白雪くんが駅のほうから走ってきた。息を切らした彼は私を見つけてホッとしたように目の前で踞った。


「え? どうしたの?」

「……駅まで迎えに行ったけど、すれ違ったみたいだ」

「お家で待っていてくれるんじゃなかったの? ごめんね、連絡出来なくて」

「いや、こっちの事情だから大丈夫……」


ん? 事情?


「もう大丈夫だから、家に案内するよ」


何が? 珍しく気が動転しているようだけど話が見えない。詳しく聞こうとしたけれど、白雪くんに手を捕まれてびっくりした。軽く手を繋いだことはあるけど、いわゆる恋人繋ぎというものは初めてで、無意識なのか少し痛いくらい力が込められている。


「……」


繋いだ指から目が離せない私をよそに、白雪くんはエレベーターに乗り込んでいく。30階のボタンが押されたのを目にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る