映画デート

白雪くんと休日にデートすることになりました。彼氏彼女なんだから当たり前の流れではあるのだけど、「観に行きたい映画がある」って言ったら「一緒に行こう」って。そんな風に誘うものなのねと感心してしまった。


映画は少年漫画が原作で、舞台は日本だけどファンタジー要素が大きいアクションものだ。評判も良いみたいだから、白雪くんも楽しめると思う。

私は新進気鋭のイケメン揃いという触れ込みに釣られた層なんだけど、準主役の氷野蓮馬の顔が芸能界で一番好きだ。

普段はアイドルとして活動しているけど、演技力も高く、最近はドラマの仕事も増えてきた。


切れ長の力強い目、一つ一つが整ったパーツ、綺麗な顎のライン、私の理想に近いお顔をしている。


「りっちゃん」


いつものようにスマホに夢中になっていると、呼ばれ慣れないあだ名が聞こえてきた。


「おはようございます、白雪くん」


見上げた先には理想のお顔。

氷野蓮馬は理想に近いが、白雪くんは理想そのものだ。大人っぽいモノトーンの私服がとても似合う。

平然を装ってはいるが、あまりの格好良さに変なことを口走りそうで口許を押さえた。


そんな私に気付かず、白雪くんは服装を褒めてくれた。


「とっても可愛い。髪を下ろしてるのも初めて見る」

「ありがとう! 妹がね、可愛くしてくれたんだ」


「複雑だけど、お姉ちゃんの人生初デートだもん、とびっきり可愛くしてあげる」とかなんとか言って、少しメイクもしてくれた。菜乃ちゃんはいい子だ。


「……」

「……」

「……チケット買いに行こうか?」


告白から数日経つが、こうして顔を合わせるのはあの日以来だった。お互いに緊張しているのは明白で、映画を初デートにしたのは良かったのかも。

上映中は会話を控えるし、終わった後は感想を話せばいいだろう。


1日に数回やりとりはしていて、少し打ち解けた気がしていたけど、実際に合うのは違うものなんだなぁ。

“りっちゃん”って文章では目にしていたけど、あの声に呼ばれると心臓が落ち着かない。




映画はとても面白かった。イケメン目当てだったけど、ストーリーも音楽も好みだった。


「続編がありそうな終わり方だったね。今度も観に来たいなぁ」


パンフレットを抱き締めながら余韻に浸っていると「また来ようね」と返ってきた。何年後の話になるのか分からない約束に驚いてしまう。

こちらを真っ直ぐ見つめる白雪くんは本気のようだった。頷いてはおくが、私はそんなに先まで付き合っているのかなと思う。

友達の話では3ヶ月もすれば倦怠期に陥るというから、白雪くんほどのイケメンなら次の子に行っちゃいそうだ。


私はこのお付き合いを“束の間の推しとの思い出”くらいに思っていた。

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