束の間

束の間の指二本目にさしかかる

正常と言われ安心するために 体温計にまた手をかざす

生き急ぐ肺が硝子になるまいと 日々がひりつき既に四年目

束の間の指二本目にさしかかる 計り知れない命の長さ

雷もサイレンもただの日常 音を立てずに荒んだ世界

断ち切れぬもういい頃ならまだ向こう 映画館だけマスクを外す

ならず者ヒーローの大立ち回り 沸騰し吹きこぼれる涙

ヴァーチャルの光の後ろ積み上がる 推しを動かす演算装置

知らぬ間に404に染まりゆく 読まないままのブックマークが

運動を勧める本を渡される スマホばっかり見ている私

この独楽は軸がぶれると知ってなお 紐を巻きつけ明日も回す

会話するために使う脳の回路が 錆びて閉じゆく六畳一間

憔悴し気付くこどおじ老い易く 学成り難し実家の暮らし

思い出す舞台袖から見た後輩 最後の出番より鮮明に

サックスと一緒に閉じ込めた記憶 もうあの場所に二度と立てない

寄せ書きをもらった日から続く道 読み返せない現在地点

恋愛をぜいたく品と遠ざける ただ傷つきたくない殻の中

気配りをしたい気持ちが見栄として 存在しているだけの自意識

いつの日か貴女の名字が変わっても 忘れられない邊の書き方

別れ際ハグをためらう痩せた腕 次があるかも分からないのに

生活を伴わせない愛してる 何歳までは言ってもいいの