ミニドラのどらら~が聞こえて私は、
両目洞窟人間
ミニドラのどらら~が聞こえて私は、
体調が悪い日はミニドラを思い出す。
ミニドラはドラえもんの手のひらサイズみたいな奴らでおよそ3匹、色は赤とか黄色とか緑。
ミニドラはちゃんと喋らない。「どらら~」としか言わない。
「どらら~」でありとあらゆる意思疎通をするのだ。
なんて、かわいい。
私も「どらら~」だけで、会話、意思疎通がしたい。
会話難しすぎる。言葉での意思疎通しんどい。
昔、なにか言えば言葉尻を捕まえて怒ってきた人がフラッシュバック。
あの人とも「どらら~」だけで会話していたら怒ってこなかったのかな。いや怒るよな。
しんどいとこんなことばかりぐるぐる考えてしまう。いつもいつも。
ドラえもんが故障したらしいとなって、ミニドラ達がドラえもんの身体の中に入り、修理をする。そんな回があった。
ミニドラ達は、手のひらサイズな自らの身体をスモールライトでさらに小さくし、ドラえもんの口から入り、ドラえもんの体内を探検する。
それは困難で過酷な冒険。
しかし彼らは生き延び、故障している箇所を見つけ、スパナやレンチとかでなんとか修理し「どらら~」と帰還。
そしてお礼のどら焼きを食べて「どらら~」と言うのだ。
ああ、なんて素敵なミニドラ達。
絶賛体調不良中な私はミニドラがそばにいて欲しいと願ってる。
そして「どらら~」と私の身体を探検してほしい。
でも私の身体の不調はどっちかと言えば、頭の方だから、ミニドラたちは私の頭を探検。
そしてスパナだかレンチだかで、私の頭の緩んだねじを巻いたらぱんぱかぱーん!と私は見違えるほどに体調がよくなり、ミニドラ達に、お礼としてどら焼きをあげるのだ
「どらら~(君たち、私の体調を良くしたのだから、どら焼きをいくらでも食べるがよい)」
「どらら~(ありがとう~)」
「どらら~(ふふふ、かわいいねえ~君たちは)」
「どらら~(いえいえ~どらやきおいしい~)」
満足いくまで食べてくれミニドラちゃんたちよ。
でも、私の身体を探検してくれるミニドラなんていない。
ドラえもんもいないし、22世紀じゃない。私が生きているのは漫画の世界じゃないめちゃくちゃリアルな21世紀日本。
だから耐えるしかなくて、私はブランケットに包まり苦しんでる。
「助けてほしいなあ」
私はそうつぶやいている。
ミニドラでも、そうじゃなくても、誰かに助けてほしい。
私は一人きりの家で、ブランケットに包まり、横になって、しんどいなあって状態を耐えている。
誰にも知られずに、ただ一人で。
だからミニドラにいてほしい。
身体を探検しなくてもいい。近くで騒いでていい。
シンバル鳴らしてるのを「どらら~(うるさい、静かにしてよ~)」って怒りたい。
ミニドラたちは「どらら~(ごめんなさい~)」って反省する。
その姿はなんてかわいい!本当にそばにいてほしい!
「どらら~」と私は声にだしてみる。
私の喉からはミニドラのかわいい声は出ない。
それでもミニドラがその場にいるような感覚になって、それがおかしくて何度も「どらら~」という。「どらら~どらら~どらら~」って何度も言う。
「誰か助けてください」
「この人生から誰か救ってください」
「私はもう疲れてしまいました。誰でもいいから私を助けてください」
でも誰にも届くこともない。誰も救ってくれない。
それもわかってるから、私はどらら~って言うのをやめて、ちょっとだけ泣いて、その涙をブランケットでぬぐう。
その日は全身の血管中に鉛が流れているような身体のだるさがあまりないことに気がつく。まだ調子がいい方の日だ。
今日は外に出よう。よし出かけるぞ!って意気込む。
でも行くのは徒歩10分くらいの公園。
本当は遠くまで行きたい。旅行なんて贅沢なことは言わない。生活圏外に行きたいだけ。街に出て、映画館や本屋やカフェに行きたい。普通のことがしたいだけ。
でも昨日まで寝込んでたのに、体調が良くなったと思い込んで、沢山動き回ったら、またあっという間に体調が悪くなって、ブランケットに包まりながらミニドラを求め「どらら~」って涙を流す時間に逆戻りだ。
だからその気持ちをぐっとこらえ、近所の公園に行くだけにする。
外に出る。陽の光を浴びる。セロトニンって物質が出るらしくて、それは鬱を治癒するのに効果的らしい。つまりは健康になる!いいじゃんいいじゃん!
そんで4月だ。春だ。桜でも見ようって思う。
桜は好きじゃない。どうも思わない。でも世間の人と同じことをしたら、隔絶されている感覚が減るかもしれない。
ってことで公園に向かう。
平日の昼間、上下ジャージ、足はクロックスもどきの安いサンダル。
少し前まで、この時間はちゃんとスーツを着て、パンプスであちこち営業回りしていたはずなのに、いつの間に社会性のかけらもない。
スーツはクリーニングに出したまま、回収する間もなく、私は心を壊し、引換券も無くした。
いつか社会に復帰しなきゃいけない。
というか、社会には復帰したいはずだけども、今はスーツを取りに行く勇気もないし復帰する勇気もない。
私はちゃんと頑張ってたはずなのに、どこで間違えたんだろう、どこで人生を踏み外したんだろう。私はなんでこうなっちゃったんだろう。
沢山疑問は浮かぶけども、答えは出ない。
誰かのせいにできたらすごく楽になるのかな。
「私が悪いんじゃない!世界が悪いんだ!!うおーーー!!!」って感じで生きることができたらいいのかな。
でもそんなことをしている人って嫌だなあ。
コンビニのレジとか、役所の窓口とか、ドトールとか、そういうところで怒ってるのって多分そういう感じの人なのかもと思う。そんな人間には絶対になりたくない。
でも、もっと好き勝手に生きるべきなのかなあ。もっと好きにやってもいいのかなあ。
これまでの人生で好き勝手に生きていそうな人々の顔を思い浮かべる。
なりたくない人間だけども、あの人達のように生きたら、今の私みたいにはなってないかもと思う。それともあの人達にも今の私にみたいになってた可能性もあるのかな。
それを避けるために好き勝手に生きているのかな。
好き勝手に生きたらこんな状態から抜け出せるのかな。
真っ昼間の公園にはまだ誰もいない。いつもなら親子連れがいる。夕方には学校帰りの子供達がはしゃぎ遊んでいる。
特に特筆すべき公園じゃない。全国のどこの住宅街にでもある小さい公園。
それでも子どもたちはこんなに楽しい場所はないってように遊んでいる。
ブランコ、滑り台、なにか小さい丘みたいな遊具と砂場。古びたベンチが3つと花壇。そして水飲み場。
それから桜の木。
桜は少し葉桜になってる。寝込んでいるうちに旬は過ぎていた。
スマホで何枚か桜の写真を撮る。
でも、なんの感動もしていない。世界に参加できたって気持ちもわかない。多分この写真も見返すこともない。
もし桜に感動できたら違う人生が待っていたのかな。
身体にどしーんと鉛が廻ったような疲れが出てくる。
最近は少し身体を動かしただけで疲れ果ててしまうようになってしまった。
座らなきゃ。家まで10分の距離だけども、しんどくて帰ることができない。
公園の隅にあるベンチに座る。
ベンチは木が黒く古びていて、あちこちにひびが入っている。
ベンチに座りながら頭の中の大きな電光掲示板に「何にもいいこと無いなあ」って文字が流れていく。
私が頑張ってできることは家から10分の公園に行くことで、それすらもこんなにもしんどい。
もし、こんな体調を治すことができるなら、何を捧げてもいいと思う。
ミニドラが頭のねじを締めてくれるなら、なんだってする。
でもミニドラなんていない。
私には何にも起きない。
何の奇跡も起きない。
ふとサンダルのかかと辺りに赤い何かが落ちているのに気がつく。
なんだろうとちゃんと見てみるとそれは砂ホコリでかなりよごれた赤色のミニドラのぬいぐるみだった。
ミニドラがいた。
奇跡だ。
砂ホコリを被った赤色のミニドラのぬいぐるみはとても汚い。
いつからここにあるんだろう?
昨日からあるようにも、何年も前からあるようにも見える。
もし仮に、仮にだよ。何週間も、何ヶ月も、もしかしたら何年も落ちているものだったら、もう落とした人は忘れているかもしれない。
じゃあ、私が持って帰っていいはずだ。そして私のものにしていいはずだ。
そんな邪な考えが浮かぶ。
でも、これは、うん、絶対、そうだ。うん、そうだ。
これは辛い日々を送っている私に対する、神様からのプレゼントなんでしょう。
まあ、神様とか信じてないですけども。でもずっと辛い日々を送ってきたのだから、リターンがあってもいいでしょう。いいよね。絶対いいよね!
だって、もし、ミニドラのぬいぐるみがあれば、これからも辛いことがあっても、それは「ミニドラのぬいぐるみがある辛い時間」になる。
辛く苦しいのは変わらないとしても、今に比べたら絶対にましだ。
なんせミニドラがいるのだ。
このミニドラは私の頭のねじを締めてくれることはない。けども、そこにいて、私の心の支えになってくれる。
ブランケットに包まり苦しみに耐えている時間、ずっとそばにいる。
「どらら~(大丈夫?しんどくない?)」って聞いてくれるかもしれない。私の脳内でだけど。でも実際にミニドラのぬるぐるみは私のそばにいるのだ。
神様、ありがとう。
私は漠然とした神様にお礼を言う。神様がどんな形かわからない。人の姿?もしくはぬめぬめした物体?わかんないけどもそれっぽく感謝をする。
そして身体のだるさが少しましになってから、10分かけて家に帰る。
手には勿論ミニドラのぬいぐるみを持って。
ふふふ、公園に行ってよかった。うんうん、苦しい日々のあとはリターンがあるものだなあ。
鼻歌交じりで帰る。
ほんわかぱっぱほんわかぱっぱドラえもん。
家に帰り、洗面台に水を溜め、水流をシャワーに切り替え、ミニドラを丁寧に洗っていく。
砂ホコリを落とし、長年の汚れを落としていく。
溜めた水がどんどん濁り、ミニドラはどんどん綺麗になる。
私の家に来て貰ったのだから、綺麗になってもらわねば!
そして洗濯機で脱水を少しだけかけ、水を切り、洗濯ばさみに挟んで、部屋干し。
私は洗濯ばさみに挟まり、つるされるミニドラを眺め、こんな幸せな気持ちになったのはいつぶりだろうかと思う。
もしかしたら、働き始めてからはこんな気持ちになったことなんてなかったかも。
ずっとずっと苦しい日々だったし、会社に行けなくなってからも苦しかったし。
にしてもミニドラに来て欲しいって思ったら、ミニドラがやってくるなんて本当奇跡だなあ。
奇跡もスピリチュアルも信じてないけども。それでもたまには、まあたまには自分にもいいことがあっていいよね~。
やっぱこれまで苦しかったから。日ごろの行いがいいから、こんな奇跡が来るんだろうなあ。やっぱり日ごろの行いだなあ。
ふふふ~って笑っていると、ふとミニドラのタグにしみを見つける。
丁寧に洗ったのになあ~、また洗うか~全然洗うよ洗うよ~ってその染みをよく見ると、それは染みなんかじゃなくて、油性マジックでつたなく書かれた「みく」という名前だ。
ああ、どうしよう。
奇跡なんかじゃなかった。
辛い日々のリターンなんかじゃなかった。
このミニドラのぬいぐるみは、私へのご褒美なんかじゃ全然なくて、誰かの、いや、「みく」が落としたものだった。
「みく」ちゃんか「みく」さんかわからない。
でも確実に「みく」という人がこのミニドラのぬいぐるみを持っていて、そして落とした物だ。
私はそれを、ただ自分が辛いっていう理由だけで持って帰った。
時計を見ると16時になっている。
もしかしたら、学校から帰ってきた「みく」ちゃんがこのぬいぐるみを探しているかもしれない。
そうだ。絶対そうだ。
返さなきゃだ。
でも、まあ…あんなに汚れてたんだよ。って思う。
それは邪な考えだ。そしてそれは凄い勢いで広がっていく。
丁寧に扱われてなかったってことだよ。
多分「みく」ちゃんにはぞんざいに扱われていたんだよ。絶対そうだって。それより私が丁寧に大事にするし、絶対そっちの方がミニドラにとっては幸せだと思う。絶対そう。絶対そうだって!
それに、それに、私には、ミニドラが必要だ。
このミニドラはやっと私にやってきた希望なのだ。
たかがぬいぐるみじゃないか。違う。たかがぬいぐるみじゃない。
私には、今の私には、このミニドラが必要なのだ。
そうだよ、今の私にとって、必要不可欠なものだから、私のミニドラになっていいはずだ。
私は頑張ってきた。私はこれまで、頑張って、頑張って、頑張ってきた。
じゃあ、このミニドラは私のものになっていい。そうだ。絶対そうだ。
私だって好きに生きたっていい。
そう言って私は私を納得させる。
これでいいんだ。絶対。
そうしているうちに18時になる。外はもう暗い。
あの公園にいる子供はもう帰ってる時間だ。「みく」ちゃんも例外じゃなく。
そして見つからなかったら「みく」ちゃんは諦めるだろう。
そしたらこれは私のものだ。私のミニドラだ。
でも、ずっと、嫌な気持ちになっている。
だって、タグはずっと見えている。
「みく」って名前はずっと見えている。
これは私のものじゃない。
「みく」ちゃんのものだ。
「みく」ちゃんもしくは「みく」さん、とにかく「みく」のミニドラだ。
でも「みく」ちゃんは私がこのミニドラを盗ったなんて知らないし。だから大丈夫だ。絶対にばれることない。
「みく」ちゃんはまた新しいミニドラを頼んで買って貰えればいい。
私には今、ミニドラが必要なんだ。
って考えた瞬間に、おええええ!!!って吐き気を催す。
私は最悪なことを考えている。
嫌なことをずっと考えている。
何を考えているんだ?私はなんで「みく」ちゃんのミニドラを盗もうと思っているんだ。
でも私を、私の感情や人生をめちゃくちゃにした人ってそうやって好き勝手に生きていたじゃない。
私だって好きに生きたっていいじゃない。
好きに生きさせてよ。私にだって、好きに生きたっていいじゃない。
でも、結局私は好き勝手には生きられない。
私はブランケットに包まり横になって耐えようとする。ミニドラがいればなんとかなる。
でもどうにもならない。
ミニドラを見てもそこにミニドラはいない。
「みく」ちゃんだけがそこにいる。
絶望も孤独も辛い。けども、そこに罪悪感が乗っかってくるのはもっと最悪だ。
それに、それにだけども、私は好き勝手に生きている人のようになれば、大丈夫になるかもしれないって思ったけども、そうじゃないみたいだった。
私は好き勝手に生きることはできない。
というか好き勝手に生きる人になりたくない。
私には駄目です。
「みく」ちゃんのミニドラを奪ってまで好き勝手には生きれない。
私は21時頃にミニドラのぬいぐるみを持って、また公園に向かう。10分かけて。また汗をかいて、またしんどくなりながら。
夜の公園で、私はミニドラのぬいぐるみを拾ったベンチに座るように置いてみようとする。
でも上手になかなか座らなくて、何度も何度もバランスを調整してやっとミニドラが座る。
ちょこんと座ったミニドラを見て、私はやっとほっとした気持ちになる。
それから、もし今日これを探しに来ていた「みく」ちゃんに本当に悪いことをしたと思う。
「みく」ちゃん、ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
私はこれまでの人生の復讐を全く関係のないあなたにしたのかもしれません。
関係のないあなたに。私は大人なのに。
本当にごめんなさい。
何度も心の中で謝って、それじゃ足りないと思ったので、ベンチに座るミニドラのぬいぐるみに向かっても頭を下げる。
そして私は、足早に公園から立ち去る。
願いながら。祈りながら。
「みく」ちゃんのもとにミニドラが戻りますように。
それから数日間はずっと落ち込んでいる。
私はなんてことをしたんだろうって思う。
故意に盗んだわけじゃない。なんなら拾っただけだ。
でもその後の気持ちは、思いは、考えは、私はとても嫌な人間になっていた。
私は立派な人間じゃ無かった。
私は酷い人間だった。
私は駄目な人間だった。
私は私に向かって沢山の罵倒を投げた。
そうすることでしか、私は私の気を晴らすことができない。
大人なのにミニドラのぬいぐるみに浮かれて持って帰ってしまった。
私はどうしようもない。
どうしようもないと思えば思うほど、涙が溢れて、その度にブランケットでぬぐう。
ずっと泣いて、泣きすぎて目が痛くなって、こんなことなら生きてなければ良かったとも思う。
けども、どうすることもできないから、ずっと泣いて、それで泣き疲れて、そのまま寝てしまう。
夢の中で、私はミニドラ達と一緒にいる。
ミニドラ達は「どらら~」と私に言う。
私が「え?なにこれ?」と言おうとするとその言葉は「どらら~」になっている。
ミニドラ達は「どらら~」という。
その「どらら~」は「ドラえもんの身体の中だよ~」みたいな意味だとわかる。
私は「私はどうしたらいいの?」って意味を込めて「どらら~」と言うと、ミニドラ達は私にモンキーレンチを渡してくれる。
ミニドラは「どらら~」と言う。
一緒に治そうって意味だとわかる。
なので、ミニドラと一緒に歩く。ドラえもんの体内を。
でも、ドラえもんの体内にしてはやけにぬめぬめしている。
全然、機械感がないのだ。
最初はオイルかなって思ったけども、なんていうか、生物の体内だよなあって思うような風景ばかりが続いている。
ミニドラ達に先導されたり、こんなんな道のりを進んだり、段差は飛び越え、高いところまでロープを使って登り、そうこうしているうちにミニドラ達が「どらら~」という。
「着いた~」という意味だとわかり、周りを見渡すと、それはなんていうか「脳」っていう見た目をしている場所だなあと思う。
ドラえもんって脳みそあったっけ?あったとしてもこんなぬめぬめしてたっけ。と思っていると、スポットライトが突然当たって、そこには小さくなった私の身体と同じくらいのサイズの六角ねじがある。
「どらら~」ミニドラたちはこれを締めるのだ!という。
私は頷いて、貰ったモンキーレンチを自分の身体の幅くらい大きく広げて、六角ねじを挟み、そして全身の力を使って回し始める。
「どらら!どらら!」ミニドラ達が応援してくれる。
私は緩んだねじが締まるように全身の力で締めていく。
「どらら!どらら!!」ミニドラ達の応援もどんどん強くなっていく。
「どらら!どらら!」私も叫びながら、ねじを強く強く締めていく。
がちり!と音がして、ねじが締まりきった、と思ったら、地面が揺れ始める。
すると気がついたら、柵が目の前にある。ミニドラ達は私をその柵から離れるようにと、私を誘導する。
そして、柵から少し離れていると、その脳みたいな場所が大きなダムになっていて「どらら~」のかけ声と共に、放水作業が始まった。
膨大な水がぶわわわわわっわあ!っと吹き出されていく。
その水は、様々な色をしていた。
赤とか赤茶色とか紫とか青とか黄色とか。
呆然とそのダムの放水を見ていると、ミニドラ達が「どらら~」と私にどら焼きを渡してくれた。
私は「どらら~(いいの?)」って聞くとミニドラ達は「どらら~(いいよ~)」と言ってくれた。
私たちはどら焼きを食べながらダムの放水作業を見続けていた。
ずっとずっとずっと。
私は「どらら~」と言った。
ありがとう、って意味だ。
そしたら、ミニドラたちは「どらら~」と言った。
多分「いえいえ」だったはずだ。
そして目を覚ますと、朝とも昼ともつかない時間だった。
この数日の中で、一番身体は怠くなくて、心も重たくない。
私は自然と「外に行こう」と思う。
あの公園に行こう。
私はびくびくしながら公園まで歩いた。
けども、どこにも私を責める人はいなかった。
公園の桜はすっかり緑色に変わっていた。
前に比べても暖かくなっているような気がした。
相変わらず私は上下ジャージだけども、Tシャツとジャージでもいいかもと思った。
でも本当は社会性ある格好をした方がいいんだろうなって思っている。
びくびくしながら歩いたからか、前より余計に疲れて、またベンチに座ることにした。
あのベンチには座らせたミニドラはもういなかった。
拾われたのだと思う。できれば「みく」ちゃんに届いていることを私は願った。
ミニドラを置いたベンチに座るのは気が引けて、私は隣のベンチに座る。
私はしばらく、そこに座っていた。身体がだるいのが少しでもましになるように。
「うーばっ!」って声が聞こえる。
滑り台で小さな女の子が遊んでいる。とても元気に。喜びの奇声をあげて遊んでいる。
近くには多分そのお母さんが見守っている。あのお母さんと私は同じくらいの年かもしれない。
私は情けないような気持ちなる。そして長くここにいたら駄目だと思う。
早く帰ろうと思うけども、まだ身体が怠くて、動けない。
ごめんなさい。私はもうすぐ帰りますから。もう少しだけここにいさせてください。と心の中で思いながら、目をつぶる。
まぶたの向こうで陽の光が当たって、目をつぶっているのに柔らかい肌色が見えている。
「どらら~」
突然、声が聞こえる。
目を開けるとすべり台で遊んでいた女の子が「どらら~」って言って、走ってお母さんのもとに駆け寄っていく。
その女の子は黄色い鞄をななめにかけている。その鞄には赤いミニドラのぬいぐるみが釣り下げられている。
私はあっ、と思う。
でも同時に私はどうしたらいいかわからない、咄嗟にどうしたらいいか。
「みく」ちゃん、本当にごめんなさいと、私は心の中で何度も謝る。
直接誤りたい。でも直接謝ったら、絶対に怖い人になる。「みく」ちゃんを怖がらせてしまう。それだけはしちゃいけない。この罪悪感は私がずっと持っていなきゃいけない。吐き出して自分だけ楽になるようなことはしてはいけない。
この罪悪感を抱えて生きていかなきゃいけない。
だから遠くで遠くでたくさん謝る。
小さな女の子とお母さんが公園から出ていく。そして姿が見えなくなる。
私はほっとしたような、同時にチャンスを目の前に失ったような気持ちで、呆然としている。
遠くから「どらら~」って声が聞こえる。
その声はあの女の子の声じゃない。
夢の中で聞いたミニドラと同じ声だ。
私は聞いた。ちゃんと聞いた。「どらら~」って声を。
夢と違って私にはその「どらら~」がなんて言っているか、その意味はわからない。
でも、それは、その「どらら~」は、私の聞き間違えじゃなかったら、それはとても優しいニュアンスを含んだ言い方だったと思う。
ミニドラのどらら~が聞こえて私は、 両目洞窟人間 @gachahori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます