『Every day is Exactly the Same.(原題:ねこのまち子さん、業務スーパーへ行く)』

両目洞窟人間

『Every day is Exactly the Same.』

 白いねこのまち子さんはねこですが二本脚で立って歩けますし、二本足で走ることができましたし、その上日本語を喋れて、そして一人カラオケもたまに行くようなねこでした。

 カラオケではちあきなおみの「星影の小径」を頑張って歌ったりしました。

 でもちあきなおみのようにうまく歌えないことはまち子さんが一番よく知っていました。

 そして「星影の小径」で歌われているようないつまでも誰かを愛すること、それがとても難しいことも。

 というわけでまち子さんは私たち人間と同じような普通のねこなのでした。

 休日の朝、白いねこのまち子さんは目を覚ますと「野菜とお肉をじっくり煮込んだ美味しいシチューが食べたいにゃ~」とふとんに包まりながら思いました。

 なので業務スーパーへ行こうと思ったのです。知っていますか、業務スーパーは大量の食材が安くて手に入るのでとても便利なのです。なのでまち子さんは業務スーパーに行きたかったのです。美味しいシチューを作るには大量の食材を煮込むことが何よりの調味料だとまち子さんは信じていたからです。

 まち子さんは愛車のスーパーカブ50に乗り込みました。

 頭にはねこ耳を収めることができるでおなじみのにゃんこヘルメット(銀色)を被り、背中には買った食材を入れるためのリュック(黄色)を背負っています。

 ぶろろろろ~と排気音を響かせ、法定速度は守りつつ、アクセルとブレーキを必要以上にかけずに、まち子さんは業務スーパーへ向かいました。

 「白亜紀 ジュラ紀 インダス エジプト 地球はまわる まわるよまわる」

 まち子さんは相対性理論の『おはようオーパーツ』を口ずさんでいました。

 ちあきなおみだけでなく、まち子さんはいろんな音楽が好きでした。

 今日は相対性理論のその曲が歌いたい気持ちでした。

「おーおーOPQRST UVカット おーおーOPQRST UVカット」

 サビを歌いながら、日焼け止めを塗り忘れたことに気がついて、まち子さんは少しだけ後悔しました。



 業務スーパーに向かう道すがら、またワゴンRが燃やされているのを目撃しました。

 今流行のワゴンR狩りです。

 燃やされているワゴンRの近くには上下黒のジャージを着た男が「なんでやねん!」と叫び、その連れであろう上下白のジャージを着た女がしゃがみながらすんすんと泣いておりました。

 混迷を極めるこの時代、反ワゴンR派閥によりワゴンRは狩られていたのです。

 やっぱり反ワゴンR勢力が増えているのでしょうね。

 でも、今日シチューを作るつもりのまち子さんにはどうでもいいことです。

 どれだけ世界が混迷を極めていようとまち子さんの今日の目的はシチューを作ることなのです。

 シチューを作る。

 野菜と肉とお水と調味料を鍋に入れてぐつぐつと煮込むことで生まれる食べ物。

 それは新たな宇宙創造にも似た行為でした。

 宇宙は無から生まれました。しかし、本当にそれは無から生まれたのでしょうか。

 宇宙もまた具材が揃って、えいっとぐつぐつ煮込まれた結果生まれたシチューなのかもしれないのです。

 なぜ、その可能性に目を向けないのでしょうか。

 私は憤っています。

 おっと、申し訳ありません。少しばかり感情が高ぶってしまいましたね。

 もう一度、まち子さんに目を向けましょう。

 おっと、まち子さんは業務スーパーの駐車場にスーパーカブ50を停めて、にゃんこヘルメットを脱いでるところです。

 にゃんこヘルメットをすぽんっと脱ぐと「ここが業務スーパーにゃ~」とまち子さんは言いました。

 まるでコントの入りのような喋り口調ですが、特にここからコントが始まるわけではありません。まち子さんは時々、そんなコントの入りみたいな口調になってしまうのです。

 「ちょっと入ってみるにゃ~」

 というわけでまち子さんは業務スーパーに入りました。



 昔、その場所は遊園地でした。

 ジェットコースター、お化け屋敷、メリーゴーラウンド。

 夏はプールで冬はスケート。

 かつてその場所は訪れた多くの人々に夢のような時間を与えました。

 しかし夢はかならず覚めます。

 どれだけ長い夢でも、どれほど幸せな夢であろうと。

 ある時に遊園地は閉園が決まりました。

 その営業最終日のことです。

 いつもなら営業終了時刻になると『蛍の光』が流れますがその日は違いました。

 遊園地にある全てのスピーカーから流れたのは園長の声でした。

 園長は遊園地の地下の制御施設から声を発していました。

 園長は長年この遊園地を愛してくれたお客さんへの感謝と、支えてくれていたスタッフへの感謝を告げました。そして遊園地が閉園することの悔しさを、時折涙声になりながらもゆっくりと目的地に歩みを進めるように言葉にしていきました。

「私はここで長い時間、夢を作りました。そして夢を見ました。あまりにも長い時間夢の中にいすぎました。もう目を覚ますことはできません」

 園長はいつも流れる『蛍の光』の代わりにナイン・インチ・ネイルズの"Every day is Exactly the Same"流し始めました。

 “毎日が同じように過ぎていく、毎日が同じように過ぎていく”

トレント・レズナーが苦しみに喘ぐように歌います。遊園地には似つかわしくない歌です。でもいいのです。遊園地は閉園になったのですから。

 園長は拳銃で自らの頭を撃ち抜きました。



 

 業務スーパーの背後にはジェットコースターのレールを支えていた鉄骨の一部が撤去されていませんでした。

 その鉄骨はうねるように配置されていて、遊園地のそれだと思わずに見たら、必要以上に前衛的なデザインを持った業務スーパーであると解釈しそうでした。

 その鉄骨は何か文字がスプレーで落書きされているようでしたが、業務スーパーの建物の影になっていてうまくは見えませんでした。

 ただ"me.I'm"という文字だけが見えていました。

 遊園地が閉園したあと、その跡地を業務スーパーが買い取りました。

 ジェットコースター、お化け屋敷、メリーゴーラウンド。夏はプールで冬はスケート。

 そのすべてが業務スーパーに変わってしまいました。

 ただ一つだけ、あの地下の制御施設は残っていました。

 そしてその地下の制御施設には園長の死体があると言われています。

 回収するべきでした。

 しかし大量のバリケードがその行く手を阻みました。

 園長は自家発電装置をオープンリールデッキと放送装置に接続していました。

 今でもナイン・インチ・ネイルズの"Every day is Exactly the Same"が放送されています。

 業務スーパーはその音楽を止めようとしました。でも止めるには大量のバリケードを超えなければいけませんでした。

 バリケードを越えようとしました。しかし、そのバリケードを越えようとした二名の業務スーパーの店員が貼りめぐされていたトラップに引っかかって命を落としました。

 またバリケードを撤去しようとした三名の店員もトラップによって命を落としました。

 地下の制御施設に行かずに、音楽を止めようとしました。

 しかしそれもうまくいきませんでした。

 何故かスーパーのどこかのスピーカーからは流れてしまうのです。

 だから業務スーパーはその音楽が聞こえないくらいに色々な音を流しました。

 呼び込みくん。おさかな天国。チープな音でリメイクされた流行の歌。ユーロビート。ビートルズ、カーペンターズ、オリビア・ニュートン・ジョンのフィジカル。とにかくいろんな音を流しました。広大な土地なので大量の音が必要だったのです。

 それでもどこかのスピーカーからはナイン・インチ・ネイルズの"Every day is Exactly the Same"が流れています。

 時折すべての音楽が重なるように無音になる瞬間があります。

 その時にあのトレント・レズナーが苦しみあえぎながら歌うあの歌が聞こえてくるのです。

“毎日が同じように過ぎていく、毎日が同じように過ぎていく”


 さて業務スーパーの店内はまるで迷路のようでした。

 棚は複雑に配置され、通路は入り組んでいてまるで迷路のようです。

 歩いていると気がつけば一階上のフロアにいたり、また歩いていると一階下のフロアにいたりしました。

 何度も曲がらされるので方向感覚はいとも簡単に消失しました。

 店内で鳴り響く多くの音が余計にその方向感覚の消失を助長させました。

 呼び込みくん。おさかな天国。チープな音でリメイクされた流行の歌。ユーロビート。ビートルズ、カーペンターズ、オリビア・ニュートン・ジョンのフィジカル。

「特売!特売!!」と録音された中年男性の声がどこにいても聞こえました。

 店内には時折ふらふらと歩く他の客に遭遇しました。

 彼らもまた広い業務スーパーの中で、疲労困憊になりながらもお目当てのものを探しているのでした。

 噂ではこの広大な業務スーパーでお目当てのものを探している最中に、迷ってしまい業務スーパーから出ることができなくなった人が結構いるとのことでした。

 彼らは自分がどこにいるのか、そもそも自分は誰なのか。業務スーパーをさまよい歩く中で社会性と人間性を失ってしまったのです。

 そして業務スーパーの一角を根城にして、売り物を盗んでは命をつないでいるとのことでした。

 それほどまでにこの業務スーパーは広く、そして複雑なのです。

 だからまち子さんは怯えつつも迷わないように進むことを心がけました。

 まち子さんは調味料の棚で味覇を睨んでいるフードを被った男を見かけました。

 彼は味覇をフードのポケットに突っ込みました。「あっ」と思い、まち子さんは反射的に店員さんを探すために周りを見渡しましたが、あまりに業務スーパーは広大で店員さんは見つかりませんでした。

 そしてもう一度男がいた場所に目をやると、そこには誰もいなくて一つ分の空きができた味覇が並んでいるだけなのでした。



 まち子さんは業務スーパーを2時間20分探索し、玉ねぎとにんじんとじゃがいもをやっと手に入れました。

 2時間20分。

 それはあの月面有人飛行計画を描いた映画『アポロ13』の上映時間と同じでした。

 アポロ13号は月に向かう途中で酸素タンクが爆発する事故に見舞われました。

 しかし、アポロ13号の乗組員とNASAスタッフの懸命な対応により無事に地球に帰還することがかなったのです。

 この一件は後に「輝かしい失敗(successful failure)」と後に呼ばれるようになりました。

 しかしその輝かしい失敗を描いた映画の上映時間が終わっても、まち子さんは未だに野菜しか手に入れることができなかったのです。

 まち子さんは業務スーパーの迷路をさまよい歩きました。にんじんと玉ねぎとじゃがいもをなんとか手に入れたあと、お肉とシチューのルーを探しました。しかし、迷路は思ったよりも複雑でした。

 お肉コーナーに行きたくても、ぐるぐる回って冷凍食品コーナーにたどり着きました。

 一度お肉コーナーに行くのは諦めてシチューのルーを探しに行きましたが、ぐるぐる回ってはやはり冷凍食品コーナーにたどり着くのでした。

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃ……」

 まち子さんは何度もたどり着いてしまう冷凍食品コーナーの棚の前で呆然としていました。

 玉ねぎ、じゃがいも、にんじん。

 オレンジのプラスチック製のかごに入ったこれらの野菜だけではシチューは作れません。

 これらの食材でまち子さんに作れるのは野菜炒めでしたが、野菜炒めはそんなに好きじゃないので困ってしまいました。

 冷凍庫から漏れる青い光がまち子さんの顔を青白く照らしています。

「疲れたにゃ~」

 まち子さんは肩を落としました。業務スーパーをさまよい歩きすぎて疲労困憊でした。

 まち子さんは一度座り込むことにしました。お行儀が悪いことだとわかっていましたが、立っているのが限界だったのです。周りを見渡すと誰も見当たりませんでした。

 ぺたんと床に座り込んだまち子さんは青白い光を放つ冷凍庫を見ました。

 とても大きな冷凍庫がそこにはそびえ立っていました。

「もう歩きたくないにゃ~」

「すいません……そこに誰かいるのですか……?」

 どこからか声が聞こえてきました。

 女性の声でした。

 まち子さんはきょろきょろと周囲を見ます。でも人影はありません。聞き間違いだったのでしょうか。

 「あの、下です……冷凍庫の下です……」

 また女性の声がしました。

 その声にしたがってまち子さんが冷凍庫の下の方をみると、冷凍庫の通気孔から人の指が出ていてバタバタと動いていました。

 「あ、ここです」

 「どうしたのにゃ」

 「あの……この業務スーパーに捕まってるんです。もう何ヶ月もここに閉じ込められたままなのです」

 「ええ~それは大変にゃ…」

 「助けてくれませんか」

 「いいですにゃ」

 まち子さんは正義感があるのです。そしてなにより善き人、いや善き猫になるのが人生の目標なのです。

 ここで困ってる人を見捨ててしまっては善き人、いや善き猫になれません。

 ここで困っている人を助けてこそ善き人、いや善き猫なのです。

 「え、いいんですか。」

 「いいですにゃ」

 「即答なんですね」

 「即答にゃ。どうやって助けたらいいのにゃ」

 「多分、そのへんの近くに、地下につながる入り口みたいなのもがあると思うんですけども、見当たりませんか?」

 「ええと……」

 まち子さんは周囲を見渡しました。

 そんな地下へつながる入り口みたいなものは見当たりません。

 しかし、気になるものがありました。

 壁からなにか棒が突き出ているのです。

 なんだろうにゃと近づいてみると、それはアイスのホームランバーでした。

 もしかしてと思い、ホームランバーを握って降ろしました。

 壁がごごごごごごごと音を立て開きます。

 その先には地下へと続く階段がありました。

 階段は赤色のランプで照らされています。その先には丸いハンドルがついた鉄の扉がありました。

 まち子さんはその扉に向かって、階段を一段一段降りていきました。

 一段降りるごとに温度は下がっていきました。

 あまりに急激に冷えたのでまち子さんはくしゃみをしました。

 何度もくしゃみがでました。

 まち子さんは急激な冷えに弱いのです。

 冬の朝もよくくしゃみがでます。

 まち子さんは冬の朝のように何度も何度もくしゃみをしました。

 ようやくくしゃみが落ち着いたので、丸いハンドルに手をかけました。

 丸いハンドルは鉄でできていました。なのでめっちゃ冷たいのです。

 まち子さんはそれに触った瞬間「つめたっ」と叫んでしまいました。

 またその冷えによってくしゃみがとまらなくなりました。

 まち子さんは急激な冷えに弱いのです。

 なんとかくしゃみが落ち着いたのでハンドルを回すことにしました。

 ハンドルは重たく硬いものでしたが、何度も何度も力をこめているうちにようやく回り始めました。

 そしてハンドルを回し切ると鉄の扉は開きました。


 「あ、本当に来てくれたんですね」

 扉を超えて、しばらく曲がりくねった廊下を進んだ先にある部屋にたどり着くとそこには女性と、そしてそのそばにはミシシッピワニがいました。女性とミシシッピワニは共に両腕を結束バンドで拘束されていました。

 まち子さんはその結束バンドを確認すると「少し待つにゃ」と言い、背負っていた黄色のリュックから筆箱を取り出しました。

 筆箱をあけると、ボールペンやシャーペンやスティックのりをかきわけて小さなハサミを見つけ、そのハサミで結束バンドを切り始めました。

 まち子さんは図画工作が趣味なのです。

「あの、ありがとうございます」

「全然気にしなくていいにゃ」まち子さんは善き猫になるのが目標なのです。

 女性の結束バンドが切れました。次はワニの結束バンドです。

「お腹は空いてませんか?」とまち子さんが女性に聞きます。

「私は、大丈夫です。オービタルが、自分の分も私にくれてたので」と女性は言いました。

「オービタル?」ワニの結束バンドが切れました。

「それが私の名前です」とオービタルと名乗るミシシッピワニが自由になった腕を上げながらそういいました。

「オービタルっていうのにゃ」

「ええ、前の飼い主が名付けてくれた名前です」そうオービタルはいいます。その雰囲気は紳士的なものがありました。

「へ~」とまち子さんはうなずきました。"前の飼い主"ってことからなにか訳ありな雰囲気を感じ取りましたが、ここで訳であったり経緯を聞いている場合ではなさそうでした。

 色々と気になることはありますが、今はとにかくこの女性と、そしてオービタルをこの地下から逃がすことが先決です。

「とりあえずは逃げましょう。外の扉は開けたままにしてますにゃ」

「わかりました行きましょう。……あの」

「はい」

「七月。私の名前、七月っていいます」

「七月さん。私はまち子っていいますにゃ」

 そう言って、まち子さんは深々とお辞儀をしました。

 七月さんとオービタルもお辞儀をしました。


 一匹と一頭と一人は地下の部屋を出ました。

 そして曲がりくねった廊下を進んでいきます。

 何度目かの角を曲がった時、そこには二人の業務スーパーの店員が談笑していました。

「あっ」

 驚いたまち子さんは思わず声を出してしまいました。

 二人の店員はまち子さんと七月さんとオービタルに気が付きました。

「おい、ここで何をしている」

「あの、え、にゃ、あの、えー」

 まち子さんはパニックになりました。

「その女とワニは外に出しちゃだめだろ」店員は半笑いで言います。まち子さんを、七月さんを、オービタルをなめた態度でした。

「え、えー、それはー」とまち子さんはどんどんパニックになりました。

 店員の一人がまち子さんに近づいてきました。

 まち子さんは非力です。

 この店員にもし捕まったら逃げることはできないでしょう。

 あ、おわりにゃ。

 近づく店員の腕を見ながらそう思い、まち子さんは目をぎゅっとつむりました。

「ぎゃああっ、あしがっ、足がっ」

 まち子さんがその叫び声に驚き、目をあけるとオービタルが店員の足に噛み付いていました。

 オービタルの歯は鋭く、店員の足の肉に徐々に食い込んでいきました。

「くそ!なんだよこいつ!やめろ!くそ!」

 オービタルは噛む力を強め、身体を引きました。

「ぎゃああっ!!」

 店員はその力に引っ張られ転倒し床に頭を強く打ち付けました。

 オービタルの歯の隙間から店員の黒い血が溢れ出ました。

 もう一人の店員はその光景に完全に怯えて、腰を抜かしていました。

「いたっ、やまおかっ、いたいっ、たすけっ、いたいっ」

 足を噛まれている店員はそばにいる山岡に助けをもとめました。

 山岡と呼ばれた店員は恐怖のあまり身動きが取れませんでした。

「たけはらぁ、ごめん、無理だあ、俺にはあ」

「あがっ。痛いっ。痛いっ」竹原の足からはさらに大量の血が吹き出ていました。

「ごめんなさい。本当ごめんなさい」山岡は、竹原の惨状を見ながら、怯え泣いて謝っていました。

 竹原はそれでも抵抗していました。オービタルの顔を殴ろうとしていました。

 しかし痛みと大量に失っていく血で、自らの身体を思うように動かすことも不可能でした。

 オービタルは竹原が自分に抵抗しようとしていることに気が付きました。

 オービタルは一層噛む力を強めました。

 竹原の叫び声がより大きくなります。

「やめてください。お願いだからやめてください」

 先程まで談笑していた同僚の死にゆく姿に、山岡は耐えられなくなり泣きながらオービタルに懇願していました。

 オービタルは脳裏にあの部屋での日々が流れていきます。

 自由も無く、屈辱を受け続けたあの日々が。

 自由を奪ったオービタルを蔑み笑う業務スーパーの店員達の姿が。

 その中に竹原も山岡もいたことをオービタルは覚えていました。

 オービタルは歯に力を込めて、そして自らの身体をゴムのように振り、竹原の身体を廊下の壁に叩きつけました。

 一度、二度、三度。

 壁にはポロックの抽象画のように竹原の血が飛び散りました。

 オービタルは歯の力を緩め、竹原を口から投げ捨てました。

 竹原は死んでいませんでした。しかし、誰がどう見ても竹原が死にゆくことはわかりました。

 安い笛のような音を立てて竹原は息をしていました。

 竹原にはもう抵抗する意思も力も残っていませんでした。

 オービタルはへたり込んでいる山岡を見ました。

 逃げられない。

 オービタルは山岡の顔に向かって、わあっと大きな口を開きました。

 山岡の頭を潰すのは、竹原の足ほど時間はかかりませんでした。


「うみゃみゃみゃ……」

 まち子さんは呆然としていました。

 全てが終わると、そこには二名の店員の死体がありました。

 二人を殺したオービタルは悲しそうな目をしていました。

「仕方ないことなんです」

 七月さんは言いました。それはまち子さんへの言葉でした。

 まち子さんはオービタルの行動と、七月さんの言葉に、あの地下室で何か悲しいことがあったと思いました。

 そしてそれはこの店員さんによってもたらされたことだったのかもと思いました。

 まち子さんは、うん、とうなずいて「行きましょう」と七月さんとオービタルに言いました。 

 七月さんとオービタルはうなずきました。

 廊下をさらに突き進み、やっと赤いランプで照らされた階段にたどり着きました。

 一段、一段と登るうちに冷えた空気が暖かくなっていくのをまち子さんは感じました。

 しかし業務スーパーの地上階に近づくにつれて、騒がしいことに気が付きました。

 なんなのでしょうか。

 まち子さんは七月さんとオービタルを待たせて、先に地上階がどうなっているか確認することにしました。

 すると、業務スーパーの地上階はまるで地獄のような有様になっていました。

 人々が走り回っています。

 逃げ惑う人もいれば、店内を破壊しているものもいます。

 何が起こっているのでしょうか。

 業務スーパーで迷ってしまい出られなくなった人達がいると先程書きましたね。

 抜け出せなくなった彼らは、いつしか互いに集まり、独自のコミュニティを作っていました。

 そして彼らは業務スーパーの一角を根城にしながらもいつの日か、この業務スーパーを乗っ取る計画を立てていたのです。

 なんせ彼らはここに住んでいるのです。住んでいる場所を自らのものにしたいと思うのは、ある種当然の考えであり主張でもありました。

 しかし彼らは業務スーパーに対して交渉などするつもりはなかったのです。

 するならば革命、それも暴力的な革命を選択したのでした。

 というわけで彼らは業務スーパーで日々集めたものを武器にしていきました。

 主な武器はブロック肉です。

 それぞれはブロック肉1kgを手に持ち、そして自らの歩みを止めようとする業務スーパーの従業員達(通称業務スーパー派)をブロック肉で殴りかかりました。

 ブロック肉とはいえ、1kgもあるのです。

 それで殴られると痛いし、死んじゃうこともあるのです。

 一度始まった暴力は渦になり、全てを絡め巻き込んでいきます。

 業務スーパー側もただブロック肉で殴られているわけではありません。

 彼らも対抗しはじめました。

 彼らには厨房があります。包丁があります。火があります。

 誰が最初に火を使ったか、刃物を使ったか、それはわかりません。

 ブロック肉で殴られ殺された同僚の仇を取るように、業務スーパーの店員たちは革命派の人間を刺し殺し、そしてその死体を吊るし燃やしていきました。

 そこに巻き込まれたお客さんはたまったものではありません。

 まるで迷路のような業務スーパーをひたすら逃げ惑っていました。

 しかしどこが出口かわかりません。

 死への恐怖、脱出できないかもしれない絶望は、人々に倫理を捨て去り、そして驚異的な行動力を与えました。

 彼らは死から脱出する道を物理的に作るために、業務スーパーの迷路的に配置された棚を破壊していきました。

 業務スーパー側から見ればその行為は革命派となんら変わりありませんでした。

 そもそも一体普通のお客さんと革命派をどう見分けることができるでしょうか。

 本当に排除すべき存在が区別ができない中で、業務スーパー側も恐怖に取り憑かれていきます。

 そして恐怖にかられた店員が棚を破壊している客を刺し殺した瞬間、ただの客だった人々にも恐怖が伝染していきます。

 客は「客である自分たちは暴力に巻き込まれることはない。店員に殺されることはない」というルールが通用しないことに気が付きました。

 そうなると、もう殺すしかないのです。それは自分の身を守るためでした。

 業務スーパーはいまや戦場(キリングフィールド)に変わっていました。

 

 



 まち子さんは怯えきっていました。

 人々は逃げ惑っているか、殺し合っていました。

 もしくは殺し合っているか、逃げ惑っていました。

 どこかで爆発音がしました。

 遠くで黒い煙が上がっているのが見えました。もしくは近くだったかもしれません。

 煙に防火装置が反応し、店中の防火スプリンクラーが一気に水を撒き散らしはじめました。

 その水の勢いはとても強くまるで豪雨のようでした。

 七月さんもオービタルも地上階の異変に気がついているようでした。

 どうすればいいのか全くわかりませんでした。

 しかしこのまま立ち止まっていても、事態が好転しないことは明確でした。

 「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃ……」

 その時です、棚で区切られていて見えませんが、奥のほうがから大きな破壊音と轟音が聞こえてきました。

 猛スピードでワゴンRが突っ込んできました。

「にゃにゃにゃ!!」

 ワゴンRは冷凍庫にぶつかり、車は止まりました。

 それでもワゴンRからはぶおーんとエンジンを吹かす音がしていました。

「おらぁ!こっちやあ!!!」

 叫び声が聞こえました。

 まち子さんがその声のする方に向くと、大勢の暴徒たちが壁にできた穴から入ってくるところでした。

 ワゴンR狩りの人々でした。

 冷凍庫に突っ込んだワゴンRの扉が開いて、白いジャージを着た金髪の男が弱々しく外に転がりました。

 口から血を垂れ流していましたが、目は死んでいませんでした。

「殺したる、殺したる、殺したるっ」

 金髪の男はそう叫ぶと、割れて散らばった車の窓ガラスの破片を掴みました。

 ワゴンRは壁をやぶり、棚をなぎ倒し、冷凍庫まで突っ込んできました。

 そのせいでワゴンRまでまるで一本の道ができていました。

 その道を使ってワゴンR狩りの暴徒が走ってやってきます。

 金髪の男は走り近づいてきたワゴンR狩りの暴徒に自ら突っ込んでいきました。そしてその暴徒の一人にタックルを食らわせて、相手を押し倒すと持っていたガラス片で脇腹を何度も突き刺しました。刺された男が叫び声をあげます。

 暴徒の別の一人が金髪の男をめった刺しにされている仲間から引き剥がそうとしました。

 金髪の男は引き剥がされる力で、地面に身体を擦ります。

 じゃりじゃりじゃりと身体と細かいガラスのかけらと床が擦れる音がしました。

「ぎゃっ」

 金髪の男を引き剥がしていた暴徒が突然倒れました。

 その暴徒の太ももから血が吹き出していました。

 金髪の男は暴徒の太ももにガラス片を刺していました。

 倒れた暴徒の太ももに金髪の男はもう一度ガラス片を刺しました。それからそのガラス片を上方向に力強く動かすと太ももの肉と血管が多く裂かれました。

 先程とは比較にならないほどの大量の血が吹き出します。

 別のワゴンR狩り暴徒が金髪の男に覆いかぶさり、更にまた別の暴徒も覆いかぶさっていきます。

 またべつの暴徒も、べつの、べつの、べつのべつの暴徒も次次々と覆いかぶさり、それは気がついたらちょっとした人間の山になっていました。

 その山の中からは叫び声が絶えず聞こえていましたがそれが金髪の男のものなのか、暴徒のものなのかはわかりませんでした。

 まち子さんはその惨状にしばらく呆然としていましたが、次々と暴徒が入ってくる壁の穴から差し込む光に気が付きました。あの穴を抜ければ外に出られます。

 「七月さん、オービタルさん、あの穴に向かって走るにゃ」

 まち子さんは光の穴を指差しました。

 七月さんとオービタルはうなずきました。

 そして壁にできた穴に向かって走りはじめました。

 覆いかぶさった人々の山のすそからは血溜まりができていました。その人々の山はまるでもともとそういうような形の生き物のようでした。折り重なる人々の隙間から大量の血が吹き出して、その吹き出した血がまるで大きく伸びる腕のようでした。

 スプリンクラーからは水が絶えず豪雨のように降っています。

「うてえー!!!」

 まち子さんの少し前を煙が素早く横切っていきました。

 まち子さんがその煙がなんだったかと疑問に思う前に、まち子さんの右の奥の奥に飛んでいったその煙は爆発したのでした。


 革命派は業務スーパーにあるものを集め、来たるべき革命の日に向け力をつけていきました。

 業務スーパーには大量のものがありました。

 食材ですが、備品や、武器もあったのでした。

 そうです。革命派は軍事力を獲得していたのです。

 もはや革命派ではなく反業務スーパー軍でした。

 そして反業務スーパー軍は業務スーパーでかき集めたもので作ったロケットランチャーを保有していました。

 先程のあの飛んでいった煙は打ち込んだロケット弾だったのです。

 まち子さん達は爆発したロケット弾の爆風に吹き飛ばされました。

 床に身体を崩しながら、ばしゃばしゃばしゃとスプリンクラーの雨でできた水たまりに全身を濡らしました。

 高い耳鳴りが鳴り響き、他の全ての音は霧の奥の風景のようでした。

 倒れているまち子さんたちの上を反業務スーパー軍が駆け抜けていきました。

 反業務スーパー軍がロケット弾を打ち込んだ場所に走っていくのをまち子さんは見ていました。

 爆発で生じた黒煙に一人一人が消えていき、黒煙の中から叫び声と銃声が聞こえてきました。

 その時でした。

「うゔぁあああああ」と獣の大きな鳴き声がしました。

 そして黒煙の中から、球体が飛び出し、まち子さんの目の前に落下しました。

 それは人間の生首でした。

 黒煙の中から、大きな存在がゆらゆらと現れました。

 巨大熊でした。

 業務スーパー側も馬鹿ではありませんでした。

 反業務スーパーの勢力を察知していたのです。

 そのための対抗できる力として業務スーパーは巨大熊を保有していました。

 そして今、業務スーパーはその巨大熊の力を解き放ったのです。

 巨大熊は巨大熊手で反業務スーパー軍の人間をすくい上げました。

 すくい上げられた反業務スーパー軍の人間の身体が空中で三つに分離しました。

 巨大熊手の鋭利で研ぎ澄まされた三本の爪にかかれば、人間の身体など水のように柔らかいものでした。

「うゔぁあああ!!!」

 反業務スーパー軍に巨大熊が襲いかかります。

 反業務スーパー軍の人々は逃げようとします。

 しかし巨大熊は大きく、そして素早いのです。

 一人は巨大熊にタックルを喰らい、その衝撃で肉が弾け飛び全身の骨が飛び出しました。

 一人は縦横斜めが空いたビンゴカードのように穴だらけになりました。 

 一人は縦横ほぼ同時に握り潰され、潰されたペットボトルのような形状になっていました。

 巨大熊の圧倒的な戦力に、業務スーパー軍の勝利が確定かと思われました。

 連続した銃声が突然鳴り響き、巨大熊の身体を大量の銃弾が突き抜けていきました。

 ショッピングカートにガトリング砲を乗せた人々が、銃弾を撒き散らしながらカートを押して行き、巨大熊に突っ込んでいきました。

 反業務スーパー軍の戦車部隊でした。

 まち子さんは徐々にですが、身体を動かせるようになりました。

 爆風で吹き飛ばされていましたが、肉体の欠損や怪我はないようでした。

「大丈夫ですにゃ?」とまち子さんは七月さんとオービタルに聞きました。

 七月さんもオービタルも爆風で倒れながらも、大丈夫なようでした。

 まち子さんと七月さんとオービタルは、ゆっくりとよろよろと、それでもなんとか立ち上がりました。

 がっしゃんっ、がっしゃんっ。

 ショッピングカートが何台も宙を舞っています。

 巨大熊は銃弾で穴だらけになりながら、まだ生きていました。

 さすが巨大熊だったのです。

 まち子さんの背後で大きな爆発が起きました。

 暴走し、冷凍庫にぶつかって止まっていたあのワゴンRの爆発でした。

 まち子さんは身を縮ませました。熱い空気がまち子さんの頬をなでました。

 振り返るとワゴンR狩りの人々が覆いかぶさってできた人間の山が燃えていました。

 折り重なった人々は火から逃げようとしましたが、互いの身体が難しく絡まってしまい、逃げられないようでした。

 人間の山が、それが一つの生命体のように、炎に、苦しみのたうち回っていました。

 その燃え盛る人間の山は、苦しみの中で、ねじれ、ひっくり返り、そして人間の山は一つの大きな顔のようになっていました。

 その大きな顔は次第に大きな一つの口になり、そして、その口は大きく開かれていきました。

 その口を包む炎は強くなり、その火はあっという間に業務スーパーの天井まで達していました。

 その炎の勢いが強いために、スプリンクラーの豪雨でも消火することはできずあっという間に炎と黒煙に飲み込まれていきました。

 まち子さんは「に、にげましょう、にげなきゃです!」と叫びました。

 まち子さんと七月さんとオービタルはよろよろとですが壁の穴に向かって走り始めました。

 ショッピングカートがまち子さんの頭上を飛んでいきました。

  呼び込みくん。おさかな天国。チープな音でリメイクされた流行の歌。ユーロビート。ビートルズ、カーペンターズ、オリビア・ニュートン・ジョンのフィジカル。

 気がつけばあれほど店内を埋め尽くしていた音楽や音は全て消え去っていました。

 暴力の結果、業務スーパーのサウンドシステムは破壊されてしまったのです。

 銃声と爆発音が聞こえました。

 炎が爆ぜる音も聞こえます。

 巨大熊の咆哮が空気を揺らします。

 まち子さん達は壁の穴にやっとたどり着き、外に出るところでした。

「逃げるにゃ!」

 まち子さんは、七月さんとオービタルを先に壁の穴から脱出させました。

 その時まち子さんは聞きました。

 その壁の穴の近くに備え付けられたスピーカーからナイン・インチ・ネイルズの"Every day is Exactly the Same"が流れているのを。

「毎日が同じように過ぎていく、毎日が同じように過ぎていく」

 とはいえ、まち子さんは英語ができるわけではないので、何を歌っているかわかりませんでした。



 

 あれから二週間が経ちました。

 まち子さんは業務スーパーにやってきました。

 正確には業務スーパー跡地でした。

 あの事件によって、広大な業務スーパーの敷地は全焼してしまいました。

 あの迷路のような業務スーパーは夢が覚めたように消え去っていました。

 二週間経ったのにも関わらず、焼け焦げた匂いがしていました。

 まち子さんは何も来たくてここに来たわけではありません。

 あの事件の混乱で、乗ってきていたスーパーカブ50がどこに行ったかわからなくなったのです。

 ないと思いつつ、事件現場に来てみましたが、やっぱりスーパーカブ50はどこにもありませんでした。

 業務スーパーが焼け消えたせいで、あの撤去されなかったジェットコースターの鉄骨がむき出しになっていました。

 そしてかつてはうまく見えなかった落書きが今でははっきり見えるようになっていました。

 まち子さんはその文字をはっきりと読むことができました。 

 "Help me. I'm in Hell."


 

 あまりの大きな混乱が起こったあとだと、その混乱を元に戻すのに時間がかかります。

 まち子さんにとっての世界はかき回された水のように渦が生まれていました。

 その渦は今はぐるぐると回っていますが、ゆっくりと渦は消えていきます。

 しかしそれまでには時間がかかりますし、その渦に身体を捕まってしまうと沈み込んでしまうのです。

 まち子さんは渦に絡め取られないように頑張ることにしました。

 それはなかなかに難しいことでした。でもやるしかないことでした。

 まち子さんは家に帰るため、来たときと同じく電車に乗ることにしました。

 駅に向かう道を歩いていました。

 大量のワゴンRが走り去っていくのを見ました。

 ワゴンR乗りはワゴンR狩りに対抗すべく、ワゴンR乗りで団結することにしたと聞きました。

 何十台のワゴンRがぴたっと、隙間を作らずに走り去っていきました。

 七月さんは一度は自分の家に帰りましたが、一人でいると混乱の渦が七月さんの世界を破壊してしまったことを感じました。

 オービタルも同じくでした。元の飼い主はもういないし、故郷に戻ることもできない。世界はぐちゃぐちゃになっていました。

 まち子さんは七月さんとオービタルと一緒に住むことにしました。

 ずっと一緒に住むわけではないですが、混乱の渦が収まるまでは生活することにしました。

 生活はしばらく続きました。

 混乱に悩まされながらも、その混乱の渦が弱まっていくのを待ちました。

 ジェットコースターの鉄骨がついに撤去されることになりました。

 その撤去の過程で、地下の制御施設につながる新たなルートが発見されました。

 白骨化した園長の死体が運び出され、そして鳴り続けていた音楽もついに止まりました。

 それからまたしばらくして、オービタルは故郷に戻ることにしました。

 七月さんも新しい生活を始めることにしました。

「またにゃ~」とまち子さんはそれぞれの生活に戻った二人を送りました。

 それからある日、まち子さんは目を覚ますと「野菜とお肉をじっくり煮込んだ美味しいシチューが食べたいにゃ~」とふとんに包まりながら思いました。

 シチューなんてあの日以来食べたいとも作りたいとも思わなかったのですが、突然そう思いました。

 まち子さんは歩いて近所のスーパーに行きました。

 道中で、焦げ臭い匂いがしました。

 ゲームセンターのプリクラが燃やされていました。

 最近行くようになったスーパーは規模も小さく、扱っている商品もそれほど多岐にわたっていなかったので、すぐに買い物を終えることができました。

 家に帰って、まち子さんは鍋に肉と野菜をいれ、少し炒めてから、ぐつぐつと煮込み、一旦火を止めて、ルーを入れて、また火をつけました。

  「白亜紀 ジュラ紀 インダス エジプト 地球はまわる まわるよまわる」

 まち子さんは久しぶりに相対性理論の『おはようオーパーツ』を歌っていました。

 ぐるぐるとシチューをかき混ぜながら歌いました。



 白亜紀 ジュラ紀 インダス エジプト 地球はまわる まわるよまわる

 白亜紀 ジュラ紀 インダス エジプト 地球はまわる まわるよまわる

 おーおー OPQRST UVカット

 おーおー OPQRST UVカット

 おーおー OPQRST UVカット

 おーおー OPQRST UVカット

 OPQRST UVカット



 歌い終わって、まち子さんはシチューにかけていた火をとめました。

 それから、横になって少しばかり昼寝をすることにしました。

 まち子さんは久しぶりに、本当に久しぶりに安心して寝ることができました。

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『Every day is Exactly the Same.(原題:ねこのまち子さん、業務スーパーへ行く)』 両目洞窟人間 @gachahori

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