第1話

ここは人が少ない少しさびれた路地裏の喫茶。

窓から見える景色は曇ってかなり薄暗い。もうすぐで雨も降りそうだ。

店の中には一番暖房が効く席にご婦人4人と隅のテーブル席に大男1人、そしてかなり齢のいったマスターだけだった。

「ねーえ。聞いた?殺人鬼のハナシ。」

「ええ、聞いたわ。怖いわよねぇ」

「大きな銃を持って人を殺しに来るらしいわよ」

「しかも一番恐ろしいのが目らしいわ。鋭くとがって、顔にはいくつもの切り傷があるらしいの。」

俺は近くのご婦人の言葉に耳を傾ける。

「ねえ…あそこにいるのって…」

ご婦人たちは店の隅に座る大男を指差しながらこそこそと話し始めた。

「わたしも思ったわ…鋭くとがった瞳、いくつもの切り傷。そして背中には大きな袋…」

気付かれてしまったようだ…。

俺は少しだけ格好つけてゆっくりと椅子から立ち上がる。

ご婦人たちはみるみる顔を真っ青にして

「キャー」

と叫び、我先にと店を出て行ってしまった。

店の中には

格好つけて立ってみたはいい物のこの後のことを考えておらず、立った手前座るのもどうかな…と考えている大男が一人と、一部始終を見ていたが顔色を全く変えないマスターだけになってしまった。

「とりあえずこっちのカウンターに来てみてはいかがですか?」

「…なんでもお見通しってわけか。さすが経験豊富なだけある」

マスターの提案通りにカウンター席に移った。

しばらく粋な音楽だけがさびれた喫茶を包む。

「…それで、話ってなんだ?」

静寂に耐えられなくなったのは俺だった。

マスターはさみしそうな顔をして、俺に一枚の写真を差し出してきた。

「わたしには一人娘がおりました。と言っても遅くに出来た子だったので孫と間違えられることもありましたが…。

妻は娘を産んですぐに亡くなり、私が男手一つで育て上げた子です。

すくすくと、成長してくれました。」

マスターの目が少し潤っていた。

「そりゃあよかったじゃねえか。」

俺は相槌代わりに少し茶化してみた。

でも、マスターは首を小さく横に振った。

「よくなかったのです。

ある時、娘は病にかかりました。

凄く大きな病でした。

普段なら私が看病をするのですが、

さすがに限界を迎えたので医者に診せることになったのです。

その医者は悪徳と評判でした。

私も診せに行くのが怖かったのです。

ですが、行かなければ娘は死んでしまう。そんな状況でした。」

少しうなだれるマスター。

その雰囲気からこの話のエンドがハッピーではないことは理解ができた。

「結果を先に言いますと、娘は死にました。

アイツが娘を診なかったからです。

会食があるから診れない、他の患者がいるから診れない。

しまいには

お前は貧乏だろう。だから診れない。貧乏が移るし、何より気持ち悪い。

お前のせいで娘は死ぬんだ。食い扶持が減って、よかったなぁ?

そう、言われました。」

マスターは怒りで顔を歪ませながらこぶしをカウンターにたたきつけた。

体感では数時間ほど、実際では数十秒が過ぎる。

「だから、お願いです。

お金ならいくらでも払いますから、

娘を死なせたアイツを…

エイブラハム・アーノルド・カウリングを

一番最悪なやり方で殺してください…」

お願いします。と父親は頭を下げた。





 標的ターゲット エイブラハム・アーノルド・カウリング

年齢 57歳

身長 167.2cm 体重 128kg

独身だが、愛人が多い。子供はいない。

週末は必ず自宅に人を招く、もしくは愛人宅へ向かう。

備考 金の亡者、貴族のご機嫌取りのし過ぎで嫌われている。

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