ぽんぽこりん、考察。
両目洞窟人間
ぽんぽこりん、考察。
たぬきがお腹を叩くってだけでも嘘なのに、その上に、ぽんぽこりんって嘘の擬音を乗っけた人、かわいいを作る才能がありすぎる。
しかし、いつからそしてどこから、たぬきに「ぽんぽこりん」ってイメージがついたのだろう。
あの高畑勲監督の映画よりも前に「ぽんぽこりん」というイメージがあったのだろうか。絶対あったんだろうなと思う。
そしてこういうのはだいたい調べたらすぐ出てくる。
しかしでもまだ調べない。これは億劫をしているわけではない。
知識として定着させる前に、まだ私は「ぽんぽこりん」とお腹を叩き鳴らすたぬきで遊んでいたい。
遊び場は私の頭のなかで、そこでたぬきがお腹を叩いている。
ぽんぽこりん。
起源はどうでもよいと思う。しかしどうしたって疑問が生じる。
ぽんぽこりん。この最後の部分である「りん」って音、これは一体なんだ?
明らかにこれまでとは違う音が入っているように思える。これまではたぬきのお腹を叩く音が「ぽんぽこ」だったはずだ。
しかし「りん」はたぬきのお腹を叩いて鳴るとは思えない。
「りん」という字面、そこから想像するに鈴の音のように思う。
そうなると、一つの推測が私の頭の中に生じる。
この「ぽんぽこりん」という音は、たぬきがお腹を叩く音に合わせて、誰かが鈴もしくはトライアングルを叩いているのではないのだろうか―――。
第三者の存在。そうここには誰かがいる。
しかし、それが「誰か」と追求する前に、整理しなければいけない部分がある。
それは「ぽんぽこ」という音だ。ここに注目してほしい。
「ぽん」と「ぽこ」。
これは二音なっているということではないだろうか。
そして音色から想像するに、たぬきが鳴らしている。
たぬきは自らの腹を叩き方を変えて二音鳴らしている
そう、これは叩き方の強弱の話―――。
たぬきは意識的に強弱をつけ音を変えている。パーカッショニストとしてのたぬきが明らかになったところで、前述した疑問点に立ち返ろう。
たぬきが強弱を付けてお腹を叩く、その隣で誰かが鈴かトライアングルを叩き鳴らしている。
誰が鳴らしているのか?
残念ながら「ぽんぽこりん」という字面だけじゃ誰が鳴らしているかはわからない。
しかし「ぽんぽこりん」という擬音に、私は今までしていた誤解を反省することになった。
これは音じゃない。音楽(ミュージック)だ。
そして彼らは音楽家なのだ。
と、ここで、思い出してほしいものがある。
絵本や童話で繰り返し伝えられてきたあの存在だ。
そうそれはあの集団。
「森の音楽隊」だ。
我々読者は森の音楽隊が登場すると、無条件で受け入れていたのではないか。
しかし、ここは立ち返るべきだ。なぜ彼らが存在するのか。森の音楽隊はいかなる存在か。
ここであなたに想像してほしい。森に生きている動物達を。
それは森の音楽隊ではない、ただ生きている動物たちだ。
彼らは生きている。生きるためには日々、何かを食さねばならない。食すためには、食べるものを探す必要がある。
生きるため、食べ物を探し、そして食べる。
生きるために食べる。
それが動物であり、彼らの生活だった。
しかし、それだけでは、ある時から生きていけなくなったのかもしれない。
生きるために食べ物を探すだけの日々に疲れたのかもしれない。
もっといえば、そんな生きるためだけの生活に飽きたのかもしれない。
そんな生活を変える……そんなつもりがあったのかどうかもわからない。
彼らは発見をした。それは「森の音楽隊」のスタートだった。
しかし、最初に生まれたのは「音楽」じゃなかった。
もっと純粋な「音」だった。
ある時、たぬきは自分のお腹を叩くことで「音」が鳴るのを発見した。
なによりもここで大事なのは、その「音」を面白いと思う感性だ。
「音」は他のたぬきも見つけていたかもしれない。しかしそのたぬきはそれを面白がる感性を持っていた。
だから叩いた。そして音が生まれる。そして楽しむ。
それは、たった一人から始まったのかもしれない。しかし、その熱は伝わっていく。音が空気の中を伝わるように。
彼らは叩く。自らの腹を。
そしてその過程で、力の強弱で「音」が変化することを発見する。
腹を叩き、「音」を作る。
最初に音を見つけた。
しかし、そこから強弱を見出す。そして連続して鳴らす。
その中で、彼らは「リズム」を発見する。
その瞬間、音はリズムになる。
リズムがすべてを変える。
音がついに音楽になり始める。
動物たちの生活が変わり始める。
森に音がなり続ける。
いや、もうそれはすでにリズムになっている。
リズムに身体を揺らしはじめる動物たち。
具体的なメンバーは、たぬき、きつね、ねこ、コアラ、ラビット、そして、虎―――。
突如現れた虎に、森の動物たちに緊張が走った。
食物連鎖の気配。食うか食われるか。命の取り合い。
しかし、虎は動物たちを襲わない。食べない。
虎が口を開く。
虎はリズムに合わせて、詩を諳んじはじめた。
虎が、まだ人間だったころ作っていた詩を、リズムに載せて諳んじ始めた。
人間だったころ持っていた臆病な自尊心や尊大な羞恥心はそこには感じられなかった。
この瞬間、すべてを変えるそんな瞬間、それが今だった。
虎はマイクを掴み、詩を諳んじる。
もう人間時代に書いた詩だけではなく、今思いつく、言葉を虎はマイクに向かって放つ。
その虎の姿に、森の動物達がフィンガーガンと歓声で興奮を伝える。
たぬきのリズムと虎の詩(ライム)が合わさり、森は今かつてないほどの熱気に包まれていた―――。
―――はじめにリズムありき
いとうせいこうは□□□(クチロロ)の楽曲『ヒップホップの初期衝動』の中でそうラップしている。
リズムとライムがあれば、たったそれだけのシンプルなものがあれば、それはもうヒップホップなのかもしれない。
そんなことをたぬきの「ぽんぽこりん」のリズムは教えてくれたのかもしれない。
ちなみに調べたところによると「ぽんぽこりん」の「りん」の音ですが、これはねこDJがサンプラーで鳴らしていた808のカウベルの音色だそうです。やっぱり調べないとわからないですね。
そうして今日も森にレゲエホーンが響くのでした。パパパパオーーーーン!!!
ぽんぽこりん、考察。 両目洞窟人間 @gachahori
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