#7
予想通りだった。
ギリギリでヘタレる、実にカズらしい。
キスしようとか、またアホなことを言い出した時から、だいたいこういう結末を迎えるであろうことは予想ができていた。
こうなるであろう事を予想出来ていたからこそ、俺はカズの突然のキスしよう発言に対して平然を装って対処出来ていた。どうせ、するする言っても最後の最後でコイツはやっぱ辞めたって言い出し逃げ出すだろうという事がわかっていたからだ。
変に慌てたり、緊張したりしていれば、それを肴にカズが俺を煽り散らしてくることは予想に難しくない。ならば極力平然を装い、キス?それぐらい何ともないが?と構えていた方がいい。どうせ本当にキスするわけじゃないだろうしな。
「えっ……キスしないの?」
「んーっと……なんて言うか……今日はちょっと日が悪いような……悪くないような……それにほら、今日……寒いし……」
なんとかキスしない言い訳を捻り出そうとするカズではあるが、しょうもない理由しか出てこない。
この流れは、このまま何もせず、何もしないで直帰する事になりそうだ。
さて、ここですんなりと提案を受け入れて帰るのはいいが、すんなりカズの言い分を了承するのは、それはそれで面白くない。
ちょっと煽ってから「たくっ……しょうがねぇな。帰るか」で行こう。
「カズまさか……今さらキスするの怖気付いたんじゃ……」
「は、はぁ……!?そ、そんなことないけどっ!?き、キスとか余裕だし!?それぐらい何ともないし!?ただちょっと急にそういう気分じゃなくなったっていうか……なんていうか……」
「やっぱりオマエ怖気付いてんだろ?いざキスするとなって恥ずかしくなったんだろ?それでやっぱ辞めるってなったんだろ?おらおらどうなんだよ言ってみろよー」
「そんなことないけど!キスぐらいでビビってないよ!恥ずかしくなんかないよ!余裕だよ!ただなんか今日寒いし!寒いから!ほら!なんか寒いと微妙っていうか!寒いとキス微妙じゃん!寒い時はあんまキスしない方がいいって言うじゃん!だからだし!寒いからだし!」
「いや逆に寒いから触れ合って暖かくなるとかなんじゃないのか?」
「はー!?なにそれキッショっ!なんかよくわかんないけど、とりあえずキッショ!サツキキショい!マジキツいわー!」
「はいはい。分かった分かった。それならキスしないでいいんだな?本当にキスしないでいいんだな?」
「うぐっ……」
「キスしといて高校行ったらマウントとるのもやらなくていいんだな?」
「いや……それは……したい……」
「でもキスしないんだろ?だったら出来ないな」
「キスしない……だけどマウント取りたいから……今日2人でキスしたことにしとこ……?」
「まぁオマエが誰にどう嘘つこうと俺に被害が無ければ別にいいけど。オマエの嘘は秒でバレるからな?」
「うぐぅ……」
なにに葛藤してるのかカズは苦悶の表情を浮かべる。コイツは何故そんなにファーストキスマウントを取りたいのか、バカの思考回路は理解不能である。
「わかった……」
カズは悩んだ末に結論を出した。これはまぁマウントとるの諦めるってとこだろう。
カズも寒い寒い言ってたし、帰るとするか。本当に無駄足だったなぁ。まぁ、いいか。いつもの事だし。
「それじゃ帰ーー」
「やっぱキスする……」
「えっ……。すんのっ!?」
「マウントとりたいからする……!」
「えぇ……」
コイツの他人に対してマウント取る事のモチベーションどうなってんだよ……。
「本当にキスすんのか……?」
「な、なんだよその反応!サツキこそキスすんのビビってたんじゃないの!?」
「は、はぁ……!?ビビってないが?キスするぐらいなんでもないが?全然余裕なんだが?」
「だったらほら!さっさとキスしろよ!」
カズは両目をぎゅっと閉じて口を突き出してきた。
あれ?え?これ本当にキスするの?カズと?あのバカでアホでバカなカズと?キスを?
マジマジとカズの顔を見る。なんだかんだで生物学的には女性のカズ。顔の造成は悪くは無い。むしろ黙っていれば少し可愛いまである。いやカズが可愛いとか無いから。何を考えてるんだ。
緊張からかカズはぷるぷると僅かに震えている。
突き出された唇はぷるっとしてて触れたら柔らかくて気持ちよさそうだと、そんなことを考えてしまって……。
吸い寄せられた。
「んっ……」
あっ、柔らかい。
カズが目を開ける。
「さ、サツキ……いま……した……?」
「…………」
「サツキ……?」
「……した」
「…………」
「…………」
「……よくわかんなかった」
「…………」
「もっかい」
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