#6




駅前に向けてカズと共に歩く。



「…………」



いつもやかましい程に五月蝿いカズだが、今日は珍しく口数が少ない。



「カズ、どうかしたか?」


「……なにが?」


「なにがって、なんか今日は大人しいなと思ってな」


「……別にいつもと変わんないけど」


「カズ……オマエ……」


「……なんだよ」


「まさかとは思うが、今になってこれからキスすんの緊張してきたか……?」


「は、はぁ……!?べ、べべべ、別に……!き、緊張とかしてないよ!?するわけないけど……!?」


「そんなどもりまくりで言われてもなぁ」


「してないの!してないから!キス……キスだろ……!そんなキスするぐらいで僕が緊張するわけないだろ!なんだったら予行練習で今ここでちょっとチュッとだって出来るし!?余裕だし!?」


「よし。なら予行練習してくか」


「ちょぉおお!?待って……!待って待って!予行練習でもキスはキスでしょ!?何言ってんの馬鹿なのサツキ!バカサツキ!ホントなに考えてるんだよ!バカ!アホ!」



カズにバカって言われるとマジでムカつくなぁ。



「だいたいだよ?キスなんてアレでしょ?アレ!ちょっと口と口が触れるだけでしょ?肌と肌が触れ合ってるだけで、そんなん握手とかそんなんとかと変わんないじゃん?それなら余裕じゃん?挨拶みたいなもんじゃん?アメリカ人とか挨拶でちゅっちゅっしてるわけじゃん?だったら僕でも余裕なわけ?アメリカ人が当然のようにしてることなんて、僕が出来ないわけないじゃん?マジキスするぐらい余裕なんだが?緊張?してるわけないじゃん?それを言うならサツキが緊張してるんじゃないの?これから僕とのキス想像しちゃって童貞らしくガッチガチに緊張してんじゃないの?はー、マジでだっさー!キスぐらいで緊張してるとか童貞丸出しでマジでダサいんですけど?はい童貞童貞マジ童貞キショいわー!キスで緊張しちゃう童貞ホント無理!あーあーこんな雑魚童貞とこれからキスするとか人生の汚点だよ!なんでこんなキスすることになったのかなー。あー、そうだったわー。童貞野郎が僕に土下座で「このまま行けば俺は一生キスも出来ずに死ぬことになる雑魚童貞です!どうかお願いします!キスしてください!」って頼みこんできたからだっけ?いやホントあの時のサツキホント無様だったよね?あまりにも無様でダサくてキショくて可哀想だから、心優しすぎる僕が仕方ないなーってオッケーしてあげたんだったよね?本当にキスしてやる僕にちゃんと感謝しろよ雑魚!おらっ!ボサっとしてないで地面に顔面擦り付けて土下座してありがとうございますって感謝しろよ!どっげっざっ!どっげっざっ!」



クソほど早口で捲し立てたあげく、記憶の捏造まで始まり、最終的に土下座しろと急かしてくるんだけど、なんなんコイツ?頭おかしすぎるだろ……。



「なんかもう帰りたくなってきた……」


「は、はぁ……!?い、今さら帰るとか無いからね……!絶対に……!今日はキスするまで帰んないからね……!」


「はいはい。わかったわかった。それならさっさと行くぞ」



カズの手を取り引っ張るようにして先を歩き始める。若干、遅れてカズも歩き始めた。



「…………」



それから駅前に着くまでカズは無言だった。




◇◇◇




駅前広場。



クリスマスに合わせた装飾が施され、煌びやかにライトアップされている。そこには俺ら2人の他はカップルばかりで、それぞれ自身の恋人とイチャつきあっている。



「ねぇサツキ。こんなん見て何が楽しいの?」


「オマエ、そういうとこやぞ」



イルミネーションを前にしてのカズの反応。きゃー!綺麗!素敵!とかカズが言い出してもキモイはキモイが、まったくなんの感情も湧かないのもどうかと思う。まぁ、カズの場合は花より団子である。



「よし。それじゃ目的地に着いたわけだしキスするか」


「待ってサツキ」


「なんだ?」


「……ちょっともっかい歯磨いてきて」


「ここで?流石に歯ブラシ持ってきてるわけないんだが?」


「……ならもっかいちょっとガム噛んで」


「まぁ、さっき買ったの残ってるから、オマエがそう言うなら噛むが」


「僕にもガム頂戴」


「はいはい」



もぐもぐ……くっちゃくっちゃ……。



クリスマス・イヴ。とても綺麗なイルミネーションを前にしてガムを噛む2人……。



「ブレスケアもあるでしょ?それも頂戴」


「はい」


「サツキもブレスケア」


「はいはい」



ブレスケアも飲んだ。



「もういいか?」


「……待って」


「今度はなんだ?」


「…………」


「カズ……?」


「……や、やっぱり……今日、キスすんの……やめとかない?」













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