#5



「カズオラァ!テメェのファーストキスは俺の足の裏だボケコラァ!どうですかぁカスモさん!ファーストキスのお味はぁッ!?」


「うえっぷっ……!まっずっ……!くっさッ……!?ザヅギごのぉ……や、やめッ……うぅ……!」



カズ縛る用の縄でカズをぐるぐる巻きに縛り上げて床に転がす。そんでもってカズの口に足裏を押し付けるようにして顔面を踏む。


流石に力は込めていない。足裏を当てるだけだ。ぐりぐり。



とりあえずカズを泣かせた。




◇◇◇




「んでサツキ。キスどうすんの?」


「もうなんか別にしなくてもよくね?」


「やーだー!高校行ってキスマウント取りたいからキスするぅー!」


「はぁ……」



普段は飽きっぽく、何でもかんでも直ぐに投げ出すことが多いカズではあるが、たまに変なところで頑固さを見せることがある。その時は自分の要望が通るまでひたすらに駄々を捏ね続ける。面倒くさい。



「じゃぁもうさっさとチュッとやって終わらせようや」


「やーあー!それじゃマウントとる時に微妙なんでしょ?サツキが言ったんじゃん!もっとちゃんとした奴ヤる!」



余計なこと言わない方がよかったと後悔したが時すでに遅し。もう適当にちゅっとやって済ませるつもりがなくなっている。



「……幸いにも明日はクリスマス・イヴだな?」


「そうだね。サツキ今年は何くれんの?」


「参考書」


「寒いし暖かくなるには良さそう」


「燃やして暖をとる一択か……そうじゃなくてな。クリスマスで駅前にイルミネーション飾られてるだろ?」


「あー、あの無駄に電気代かかりそうで、無駄に邪魔な、無駄なヤツね」



煌びやかで綺麗なイルミネーションみても何とも思わないんだろうなコイツ。女子力皆無。



「クリスマス・イヴの夜、ライトアップされた素敵なイルミネーションを見ながらロマンチックな雰囲気でのファーストキス……どうだ?」


「うっわ……めっちゃスイーツ女子にマウントとれそう……マジサツキの頭ん中お花畑じゃん。えっ、サツキ普段そんなくっさいシチュエーション妄想してたりするの……?」


「なんでオマエちょっと引いてんだよ」


「いやー……別に……」



カズの反応は著しく悪かったが、何はともあれファーストキスマウントを取るために、明日12月24日ーークリスマス・イヴに俺とカズでキスすることになるのであった。




◇◇◇




翌日。12月24日。クリスマス・イヴ。



日が沈み暗くなってきた時間帯。



「んじゃ行こっ」



カズと共に家を出る……。



「ちょっと待てカズ」



玄関を出て1歩踏み出したところで、一旦、待ったをかけた。



「カズ、オマエ、歯は磨いたか?」


「磨いてないけど?そういやさっきサツキはめちゃくちゃ歯磨いてたけど……えっ?磨く必要あんの?」


「一応、キスする時のマナーじゃないのか?」


「そうなの?」


「そうだと思うが……」



若干、自信はない。なんせキスしたことなど無いのだから。でもやっぱり歯磨いておくのはマナーだとは思う。



「んー……まぁ、わかったわ。磨いてくるよ」



そう言ってカズは俺ん家の中へと戻っていく。カズはよく俺ん家に泊まるのでカズ用の生活用品はだいたい揃っていた。勿論、カズ用歯ブラシも常備してある。


しばらくしてカズが戻ってくる。



「歯磨いてきたわ」


「よし、なら行くか」



改めて出発。



「待ってサツキ」


「なんだ?」



今度はカズが待ったをかける。



「これ歯磨いたばっかでキスしたら歯磨き粉の味ふんじゃない?」


「確かに、それはある」


「歯磨き粉味のまっずいキスとかしたくないんだけど」


「それはそうだな」


「なんかもっと美味しい味がいい」


「ガムでも噛んで味の上書きしとくか」


「そうだね。コンビニ寄ってこ」



コンビニに寄ってから目的地に行くことになった。



「カズ、何味がいい?」


「うーんとね……これ!青リンゴ味!」


「ふむ。まぁいいんじゃないか」



青リンゴ味のガムを買った。ついでにブレスケアも買っておいた。



「もぐもぐ……」


「くっちゃくっちゃ」



コンビニを出て買った青リンゴ味のガムを2人で分け合って噛む。



「くちゃくちゃ……これで味上書きされたかな?」


「カズ、ちょっとハァーってやってみろ」


「はぁー」



俺の鼻に顔を寄せて、ハァーっと息を吐き出すカズ。生温い吐息が俺の顔面にかかった。青リンゴの匂いがした。



「大丈夫そうだな」


「そう?んじゃサツキもハァーして」


「あっ、ちょっと待て」



ガムと一緒に買ったブレスケアを開け中身を口に放り込む。



「それなに?」


「ブレスケア」


「……そこまでやんの?サツキちょっと気合い入りすぎじゃない?そんなキスすんの楽しみなの?」


「別に……オマエ、なんかちょっとでもツッコムとこあったら死ぬほど煽るだろ?それをさせない為にちゃんと準備してんの」


「ふーん……まぁいいわ。それじゃサツキ、ハァーしてよ」


「ハァー」



さっきとは逆に俺が顔の顔にハァーっと息を吐いた。



「……どうだ?」


「…………」



感想を聞くもカズは何故かじっと俺の顔……というか唇を凝視して黙っている。どうしたんだコイツ?



「……カズ?」


「……ま、まぁ……い、いんじゃないかな……?」



ワンテンポ遅れてカズが俺の問いに答えた。








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