#4



12月23日。



「サツキ、キスしようよ」


「は?別にいいけど。急になんなんだよ」


「僕らもうすぐ中学卒業する訳じゃん」


「そうだな。オマエがいくらバカでも卒業は出来るからな」


「え?今僕のことバカって言った?」


「いいや。カズは天才だから卒業余裕だなって」


「まぁあねぇえ!だよねぇ!僕ってマジで天才だよねぇ!」


「うっさ……」



嘘で褒めても高速で調子に乗るじゃんコイツ。まぁいいか。



「で?なんで急にキスとか言い出したんだ?」


「サツキさー。ファーストキスの平均年齢って知ってる?だいたい高校生ぐらいでみんなファーストキスしてるらしいんだよ。情弱のサツキは知らなかったでしょ?」


「おー知らんかった知らんかったー」


「つまりだよ。高校上がりたての新入生って大概がファーストキスまだしてないわけ。中学気分が抜けてないケツの青い弱弱の雑魚ばっかりってわけ。それで考えてみてよ。その中でだよ?僕が既にファーストキスを済ませていたら……」


「そいつらにマウントが取れると?」


「そゆこと!つーわけで、ほらサツキ!キスしよ!」



言いながら口をすぼめてタコみたいな表情で顔を寄せて来るカズ。そのアホみたいな表情やめろ。わろてまうやろ。


俺は一旦、ガシリとカズの顔を鷲掴みにして止めた。



「まてカズ」


「おい!なんで止めるんだよ!さっさとキスしろよ!」


「冷静になれ」


「僕、冷静だけど?それともサツキは僕とキスしたくないわけ?そんな事ないよねっ!?サツキもファーストキスしといて高校に入ったら他の奴らにマウントとりたいよね!?」


「いや俺はマウント取るとか、そこら辺はどうでもいい。とりあえず離れろ。そして俺の話を聞け。キスはそれからでも遅くないはずだ」


「たくっ……焦らさないでよ……」



渋々と言った感じでカズは俺からちょっと離れて対面に腰を下ろした。



「カズ、おまえはファーストキスを済ませといてマウントを取りたいと言ったな?」


「うん」


「キスするのは別にいい。だがキスするにしても、ただ、とりあえずでキスするだけでいいのか?」


「どゆこと?」


「高校に入り、そこで出会った人と友達になる。まぁカズに友達が出来るからどうかはかなり怪しいが」


「は?僕だって友達ぐらい出来るが?」


「どうだろうなオマエ性格悪いしな。友達出来るかかなり怪しいが、とりあえず友達が出来たとしよう」


「なんかすっごいバカにされてる気がする……」


「それでオマエの当初の目論見通りファーストキスの話になる。そこでオマエは「ファーストキスとか中学の時に済ませたけど?えっ、まさかみんなまだファーストキスをしていらっしゃらない?遅れてるーwww」とマウントを取りに行くわけだ」


「そうそう!それめっちゃヤリたい!」


「で、だ。友達はオマエにこう聞く「えっ、カズちゃんキスしたことあるの!?すごっ!それでそれで?どんなファーストキスだったの?」となるわけだ。それにオマエはなんて答えるんだ?」


「…………カレピーに告られた時にその場で抱きしめられて、なんか勢いでされた……とか?」


「カレピーってなんだ。オマエのそれ完全に柿ピーの発音じゃねぇか。普段使わない言葉無理して使おうとすんな。そしてカズ、オマエはバカだから自覚ないと思うが、オマエの嘘は死ぬほど分かりやすい。そんな嘘は一瞬でバレる。それで「あぁ、なんだカスちゃんキスしたとか嘘なんだ……カスちゃん無いわー」って逆にバカにされるだろうな」


「ぐぬぬっ……!で、でもキスは本当にするわけだし?そこに嘘はないわけだし!?」


「ならオマエは体験談を話す時「ファーストキス済ませとけば他のしてない奴らにマウントとれると思ったから幼なじみととりあえずキスしといた」って答えでもするのか?」


「いやそれは無いでしょー。それじゃまるで僕がマウント取りたいがためだけにファーストキス無駄にしたバカな奴みたいじゃん」


「まさにソレなんだよなぁ……」


「だったらどうするんだよキス!僕、高校に入る前にヤッときたいんだけど!」


「知らんがな。なんかそれっぽい感じで適当に雰囲気作ってやっとけばいいんじゃね?」


「むぅぅっー!サツキ!それならほらっ!なんかそれっぽい雰囲気作って!それでキスして!」


「俺がやんのぉ?ヤダけど?」


「いいから!雰囲気つーくーれーよー!」



ジタバタと暴れ始めるカズ。今この状況で?キスする雰囲気を作れと?マジで無茶なんですけど……。



「あーもー!わかったから暴れんな!大人しくしろ!」


「それならおらっ!さっさと雰囲気作ってキスしてよ!」


「はぁ……」



仕方ない。


グッとカズの腰に腕を回して引き寄せ、もう片方の手をカズの顎に持っていきクイッと上を向かせる。今にも唇が触れそうな至近距離まで顔を寄せて、一言。



「……愛してる」


「ぶほぉっ!?」



カズが吹き出した。今にも唇が触れそうな至近距離で。めちゃくちゃ唾が顔面にかかったんですけど……。



「あひゃははははっwww愛してるwww愛してるってwwwさっむwwwサツキ寒すぎwwwやっばぁwwwサツキに愛してるとかって言われたら、めっちゃ鳥肌たったんですけどwwwうわっマジでサツキきっしょいwwwあひゃははははっwww」


「…………」



カズ、コロス。







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