なぞの空間

「うん……?」

目が覚めると、俺は摩訶不思議な空間に寝転がっていた。

周囲は神秘的なベールで覆われ、床はぼんやり白く輝いている。見渡すと、まるで玉座のような豪華な椅子がひとつだけ置いてあった。


助かった?

とてもそうとは思えない、底知れない予感がしていた。


『なんと嘆かわしい、そなたは自ら命を絶ったのです』


声がする。

さっきまで誰もいなかったはずの玉座に、一人の女性が座っていた。

高級そうな、まるでファンタジー世界の聖女が纏っていそうな衣服を着た彼女は、こちらを見据えながら告げたのだった。


『本来なら次の転生先を決めるところですが……命を粗末にする者には、相応の道に進んで戴きます』

「……?」


転生?相応の道?

なんの事だかサッパリ分からない。

そもそも俺は死んだのか?

己の姿をまじまじと見つめる。

玉座の女と同じような衣服を着せられている事に気づいた俺は、恐怖で顔を引きつらせていた。


「待ってくれ!俺は一体どうなったんだ?知ってるなら教えてくれ!」

『……そなたは確かに死にました、愚かにもトラックに飛び込むという自殺によって。そのような愚か者は、新たな世界に転生など許されはしません』


『しかし……今は愚か者の手も借りたい状態であることも事実。よってそなたには我が権能の一部を貸し、我が仕事のひとつを引き受けてもらいたい』


『此処にはそなたのような迷える転生者の魂が流れ付く。その者たちに正しき力を授け、異なる世界を魔の手から救うのです』


……話が突飛すぎる。

そんな刑罰みたいな感覚で、神の真似事をしろと?


『出来ないというなら、そなたの魂には消滅してもらう。命とは偶発的なもの、それを投げ出したそなたはむしろ消えるが自然か……』

「や、やります。何だか分からないけど……」




こうして俺は、わけもわからぬ内に転生を司る女神の一部となったのだった。


『大丈夫、そなたの疑問にはちゃんと答える。我が名は女神ウーイア、よろしく頼むぞ』

「そりゃいいんですがウーイア様、俺はこれから何をすればいいので?」

『じき一人の男が流れ着く。そなたはその男の願望を聞き取り、然るべき能力を与え、元いた世界と別の場所に送り届けるのだ』


そこまで言うと、女神ウーイアの姿は玉座から消えていった。

幾分の居心地悪さを感じながら、俺はウーイアのいた玉座に座る。


しばらく経つと、ウーイアの言葉通り一人の男がコツコツ歩いてきた。


俺はその男に見覚えがあった。


その男は、俺が飛び込んだトラックの運転手だった。

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チートマスター【転生神は逃げ出したい】 黒岩トリコ @Rico2655

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