最愛の人のもとへ

かいばつれい

最愛の人のもとへ

 彼は最愛の人を取り戻すために走った。

 彼にとってかけがえのない大切な人がもうすぐ、自分以外の他の人間と結婚してしまう。それを阻止するために彼は走っていた────。

 

 二人は幼い頃から恋仲だったが、二人が結婚することを、時代は許さなかった。やむなく二人は別れることになり、数年が経ち、恋人の結婚式の招待状が彼のもとに届いた。

 式の招待状が届いた時は欠席に丸をつけたが、やはり彼はその人のことを忘れることができなかった。

 そして結婚式当日、愛する人の華やかな姿を思い浮かべて酒を飲んでいた時、二人の理解者である友人が彼のもとを訪れた。

 「何をやってんだ。そんなんでどうする!」

 「放っといてくれ。俺はあいつのそばにいてはいけない」

 友人が彼の胸ぐらをつかむ。

 「馬鹿野郎。あいつはな、今でもお前のことが好きなんだよ。世間のせいで、思い人でもない人間と仕方なしに結婚するんだ。あいつは本当は心の奥で苦しんでる。愛する人が苦しんでるのにお前は何とも思わないのかよ?あいつと結ばれたくないのか?」

 「俺だって、そうできるならそうしたかったさ!でも世の中が」

 「世の中がなんだ。本当にあいつのことが好きなら、周りの連中の戯れ言なんか耳に入らないんだよ!いか、昔の恋人を自分の結婚式に呼ぶってのはな、その人にまだ未練があるって相場が決まってんだよ!」

 友人はテーブルに置きっぱなしの招待状を彼に突きつけた。

 「これはお前に与えられた最後のチャンスだ。さあ、どうする?」

 「俺は・・・俺は・・・」

 

 こうして彼は再起した。彼は友人と共に走り出した。

 「会場はどこだ?」と友人。

 「ええと、住所はひたちなか市って書いてある。ひたちなか?ひたちなかってどこだ」

 「茨城だ茨城!そんなことも知らないのか」

 「どうやって行くんだ?」

 「電車だ!常磐線に乗れ!勝田がひたちなかだ」

 「どの電車が常磐線だ?」

 「あーもう!青だよ青!急げ、今ならまだ間に合う。これ使ってとっとと行け!」

 友人からICカードを借り受け、彼は改札口へ急ぐ。


 「待ってろよ、大輔!!」


 彼は愛する人の名を叫びながら、青いラインの電車に乗り込んだ。

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