第4話 通学路、寝ぼけ眼で、花盛り


 休みが明けて、月曜日の朝が始まる。

 天気予報では晴れ間が多く、過ごしやすい日になるとのことだ。


 そしてマンションのエントランスを出てすぐ、燦々と照らす空に釣られて、

 やかましい声が隣へと飛び込んでくる。


「ユウちゃん、おっはよー!」

「お前はいつも、朝からエンジン全開だな」


「ユウちゃんの元気が足りてないだけだよ、それは」

「月曜日の朝ってのは、これが通常の反応だ。

 今日から五日間続けて、早起きをしないといけないんだぞ」


「うへっ、何かユウちゃん、朝から怠けモードを漂わせてる。

 あっ、もしかしてまた夜更かししたでしょ!」

「ぐぅ……耳元であまり叫ばないでくれ、頭に響く」


「寝不足は身体に悪いって、いつもあたしは言ってるじゃん!」

「いや~、面白い試合が続いてな。中々終われなくて」


「そういうのはしっかりと寝て、早起きして遊べばいいじゃん!」

「あの興奮は、あの時だけしか味わえないものなんだよ。ということで、

 ちょっと歩きなら寝るから、転びそうになったらフォローしてくれ」

「ユウちゃんのバカ! 怪我するからしっかり歩いて!」


 少しでも寝不足を解消するため、瑠菜の肩を借りつつ、通学路を歩く。

 そんな風に登校していると、ポンッと軽く反対側の肩を叩かれた。


「おはよう、雄太くん。何だかフラフラしてるみたいだけど、平気?」

「おう、おはよう真白」


「マシロンおはよう! もうっ、ユウちゃん重たいから真っ直ぐ歩いて!」

「えっと……一体どういう状況なのかな?」


「マシロン聞いて。それがユウちゃん昨日夜更かしをしたみたいで、

 さっきからこの調子なんだよ」

「なるほど。……だったら、眠気覚ましに――えいっ」


「痛っ!?」

「目、覚めたかな? どう、雄太くん?」


 真白にギュッと握られる手。

 しかも、なぜか手の平を強く指圧されているので、

 痛みで否応もなく眠気が吹き飛ぶ。


「痛い痛いって、真白! 手を離してくれ!」

「雄太くんがちゃんと目を覚ますまで、離したくないかな。

 それに転んだら危ないから、私が手を繋いでおくよ」


「うぐぅ……だったらちょっとだけ力を緩めてくれ。ズキズキして痛ぇ……」

「雄太くん、瑠菜ちゃんに甘えて迷惑掛けちゃったでしょ?

 うふふっ、その罰だよ」


「瑠菜からやられるならともかく、真白からやられるのは理不尽なんだが」

「ねぇ、瑠菜ちゃん。実は眠気覚ましのツボがあって、

 手の平を力強く押すと血行が良くなって目が覚めるらしいの」


「えっ、そうなの! だったらあたしもユウちゃんで試してみよっと!」

「イタタタタッ! ギブギブ! ゴメンなさいゴメンなさいっ!

 ちゃんと歩くからもう勘弁してくれっ!」


 こうして両方の手を拘束され、拷問に近い所行を、

 幼馴染みの女子二人に味わわせられる。


 おかげで寝不足は解消され、通学路の中間地点に差し掛かった段階で

 すでに意識がはっきりとしていたのが……。


「二人とも、いい加減離してくれもいいんだぞ?」

「油断は禁物だよ、雄太くん。目が覚めたあと、気が抜けた瞬間に

 もう一度睡魔に襲われることがあるんだから」


「そういう睡魔あるあるを持ち出されると、何も言い返せなくなるな」

「あたしも同じ理由で繋いでおくね」


「お前は別に離してもいいだろうが。ぶっちゃけ、恥ずかしいから二人とも

 手を離してほしいのが、本音なんだが。今も周りからジロジロ見られているし」

「雄太くんに何か問題があるの?」


「色々噂されたり、変に茶化されたりしたら困るだろ」

「私と雄太くんの仲なんだから、あまり問題ないと思うな」


「真白……お前、何か昔と比べて、だいぶアグレッシブになっていないか?」

「そんなことないよ。それと雄太くん、結局私の通信ケーブル返してないでしょ」


「マジですまないと思っている……」

「あれ? ユウちゃん返してなかったんだ。だったら今返せば?」


「……実は、昨日までカバンに入れようと思っていたんだ」

「ユウちゃん、また忘れたの? もしかして、夜更かししたせいじゃ……」


「人間誰しもミスをする。普段入れないもの、入れ忘れるのは仕方がない」

「……ユウちゃんってホント、ゲームとか好きなこと以外が、ズボラすぎるよ」


 瑠菜は俺に対して、呆れた様子でジトーと、冷たい視線を送る。

 ど正論だから、反論のしようがない。


「おいおい、朝から見せ付けてくれるな、鈴木」


「おっ、コンタンじゃん、おはようっ!」

「よう、小坂。……って、何だよお前のその顔は?」


 現れたのは、初音学園に入学した当初に友達になった、小坂小太郎。

 俺や瑠菜と同じクラス。


 しかも俺の前の席に座っていて、よく一緒に昼飯を

 食ったり駄弁ったりしている友達だ。


 ただ、一つ欠点……というか、何とも言えない趣味を持ち合わせている。


「いやさ、お前の隣にいる子は、一体誰なのかなって思ってさ」

「ああ、そうか。そういえば真白は今日が初登校というか、転校初日か」


「うん、そうだけど、えっと……ねぇ、雄太くん。この人は?」

「俺の友達の小坂だ」


「小坂小太郎です、よろしく」

「その、古月真白です」


 初対面の二人は、短い自己紹介を交わす。

 フランクな調子の小坂に対して、真白はススッと

 俺の背中に半身を隠すように数歩下がった。


「ははっ、シャイな子だな。安心してくれよ、

 別に君のことを、とって食べることなんてしないだから」

「は、はぁ……」


「小坂、真白が反応に困ってるだろ」

「そうだよコンタン。マシロンはあたしの友達なんだから、

 変なこと言わないでよっ」


「おえっ!? 急にオレが悪者に!?」

「……あの、雄太くん。何だかこの人、軽薄そうで苦手、です」


「真白、気を付けろ。こいつは男子女子問わず、

 どん引きするくらいにゴシップネタを収集する、変態だ」

「言い方言い方! 間違いじゃないけど、もう少し言葉を選んでくれっ!」


「だけど、コンタンが変態なのは事実でしょ」

「へへっ、真っ向から女子にそう言われると、流石のオレでも傷付くぜ」


「んで、お前のその悪趣味を踏まえて、どんな呼ばれ方をされたいんだよ?」

「情報屋の小坂もしくは、リーカー小坂と呼んでくれ」


「ってな感じで、真白もこいつと関わる際は注意しろよ」

「うん、雄太くんの言うとおりにする」


「何だよ、オレに冷たく当たりやがってよ。欲しい情報があっても、

 教えてやらないぞ。オレを優しく扱えよ」


 小坂は不満を訴え、待遇改善を要求する。

 しかし、元よりカラッとした性格なので、特にそんなことを引きずることなく、

 学園まで一緒に登校したのであった。

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