第4話 出会いは冬の夜(2)


 男の子が「俺が転んで、怪我けがをしただけだから」と母親をなだめたので、落ち着いてくれた。


 しかし、服は血塗ちまみれで、頭部には包帯がグルグルと巻かれている。

 母親の顔色が一瞬で真っ青になってゆく。


 また、男の子の台詞セリフを聞きながら、なにか言いたそうな父親。

 その様子から察するに十中八九、犯人は父親で決まりである。


 事情を知っているのであろう妹ちゃんはなにも言わなかったので、私も黙っていることにした。


 そういえば、医者も――なにか硬い物で殴られた?――と聞いていた気がする。

 恐らく、父親がカッとなって、近くにあった物を投げつけたのだろう。


 妹ちゃんが「自分の所為せいだ」と言っていたので『彼女をかばっての負傷』という所だろうか? 他人である私は、ただただ気不味きまずい。


 むしろ、母親からは父親の再婚相手みたく思われていたようだ。

 別れ際に「この男はやめた方がいいわよ」とささやかれる。


 のちに誤解は解けたのだが、この出来事が原因で、私は喫茶店を開業することになった。なにを言っているのか分からないと思うので、もう少し順序立てて話そう。


 頭から血を流して倒れていた男の子はシュウ君。

 両親は離婚していて、月に一度、妹ちゃんは父親と会っていた。


 本来は外でだけ、会う約束だったのだが、妹ちゃんとシュウ君は仲が良い。

 父親はシュウ君が家に居ると言って、自宅にまねいた。


 恐らく、貧乏な母親と暮らすより、高学歴で役職にいている自分と暮らす方が『良い暮らしが出来るぞ』と見せ付けたかったのだろう。


 一方、妹ちゃんは中学二年生で受験もひかえている。

 そのため、少し神経質ナーバスになっていたようだ。


 兄が家に不在で、だまされたことを知ると口論になったらしい。

 典型的なモラハラ親父なのだろう。離婚もそれが原因だと思われる。


 母親から色々と愚痴ぐちを聞かされていた妹ちゃんは、父親へ暴言をいたようだ。

 どうやら性格の方は、父親と妹ちゃんは似ているらしい。


 二人とも、カッとなりやすい性格のようだ。丁度、学校から帰宅したシュウ君が二人の間に入り、妹ちゃんをかばって、鈍器で殴られたのだろう。


 シュウ君は怪我けがをしながらも、急いで家から妹ちゃんを連れ出したようだ。

 後は知っての通り、あの場で倒れ、私と遭遇そうぐう


 父親は不貞腐ふてくされて酒を飲んでいたようだ。

 仕事から疲れて帰ってきた母親のもとへ、病院から妹ちゃんの電話。


 父親と会う日にシュウ君が怪我けがをして「今、病院にいる」と言うのだからワケが分からないだろう。


 だが、人間性に問題のある元夫が「なにかやらかした」という結論に辿たどり着くのには時間が掛からなかったハズだ。


 母親と妹ちゃんは、もう父親に会おうとは思わないだろう。

 高学歴で社会的地位もあるが、問題だらけの父親。


 私もこれ以上、関わるつもりはなかったのだが『改めて一度会いたい』と言われる。


 息子と娘の件で『お詫び』と『お礼』をしたいのとの事で、彼なりのメンツがあるのだろう。


 モラハラ親父は、人前では『いい格好をしたい』と考えるのが特徴だ。

 経歴を自慢する父親に対し、私もある程度は自己紹介をしなくてはいけない。


 私も――無職です――と自己紹介するは嫌だったので、起業を考えているていで会話をした。


 モラハラ親父の言葉の端々はしばしからは、女性は男の言う事を聞いて家事をすべきなど、女性蔑視べっしの考え方が見受けられた。


 私は大人の対応をしつつ、良い条件の場所テナントがあれば、などと会話をぼかす。

 するとモラハラ親父はビルを紹介してくれた。


 正確には彼の父親――つまりはシュウ君の祖父の持ち物なのだが――ビルを所有しているらしい。


 結果、空いているテナントを三年だけ、無料で使わせてもらえることになった。

 それがシェアキッチンである。


 流石さすがにそれは悪いと思ったのが――


(つまりは息子の怪我けがに対しての【口止め料】という事か……)


 と私は解釈する。また近くに私を置いて、余計なことを言わないように監視する意味もあったのかもしれない。


 お店の大家となることで私よりも上の立場になる。性格は理解したつもりだったが、女性よりも上の立場にならないと気が済まないらしい。


 ただ、結果的に私も得をしているので文句はない。


(それにシュウ君も手伝ってくれるし……)


 人の縁とは、どう転ぶか分からないモノである。



 ❀ 続く ❀



 ✿ 次回の投稿は明後日7/14(金)の予定です。

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