出会い、思い出。
「あかつきー?」
聞きなれない大人が呼ぶ声に、俺と知らない子が顔を上げた。
それが初めての出会いだった。
「お前もあかつき?」
俺が聞くと、頭を小さく縦に振った。
「へー。下の名前は?」
「え?あかつき。」
「名前があかつき?俺、みょーじ。」
「そうなの?私はひろみやあかつきだよ。」
かっこいいと思った。
名前の音がかっこ良くて、正直嫉妬した。
「じゃあ俺とかぶるからお前はひろみやな!」
「うんいいよ。あかつきくん。よろしく。」
俺の名前を呼ばないのがさらにむかついた。
俺に興味が無いようでそのまま家に帰りやがった。
そのあと、ドッジボールに誘ったり鬼ごっこに誘ったりしたが、初回しか来てくれない。
2回目から何かと理由をつけて断るんだ。
律儀なことに、断った日は部屋に閉じ籠って体調が悪いふりまでしていた。
本当に体調が悪い日もあるかもしれないが、ずっとだとさすがにおかしいだろう。
そのうち誘わなくなり、学校で極端に運動音痴なのを知ってそれが理由なんだと悟った。
かっこいい名前なのにかっこわるいなんてもったいないな。
勉強はできるみたいで、休み時間もずっと本を読んでは先生に「昼休みくらい外に出ろ」と怒られていた。
恐ろしいことに弘宮は暇な時間に教科書を読んでいた。
何が面白いんだ。
同じページを食い入るように見続けている時もあり、かなり不気味だった。
だが、ノートが真面目だったから宿題をうつさせてもらう時は調子良く話しかけに行った。
他人の距離がずっと続いたある日、俺の誕生日にビーズの塊を持ってきた。
細い紐にビーズを通した腕輪のようなものだ。
自作らしい。
正直要らない。
「誕生日おめでとう。」
笑っていたが、俺はあいつと仲良くしていないどころか嫌いな運動に何度も誘った。
たまにわざと怒らせようとちょっかいもかけた。
なのに笑顔で祝えるのが良くわからなかった。
戸惑っていたら友人達が弘宮のプレゼントを茶化した。
弘宮の鼻は赤く熱を持ち、目を潤ませて謝って逃げた。
プレゼントは正直要らなかったが、手作りというのもあって受けとるだけ受け取ろうか悩んでいたら……「捨てづらいなら捨ててあげる!」と女子が勝手に捨てた。
呆気にとられ、ゴミ箱を漁るほどほしいわけでもないし放置した。
ああ、思い出しても出会いから本当に良い印象がない。
中学に上がり、弘宮が不気味がられて友達が居ないのを知った。
でも何もしなかった。
弘宮のペンケースがゴミ箱に捨てられていた時だけ、さすがに届けてやった。
ペンケースについているストラップが少しだけ気になった。
ビーズがいくつか紐で繋がれているだけのストラップだが……弘宮はどうやらものを作るのが好きらしい。
「また捨てられたか。可哀想に。」
他人事のように弘宮がペンケースを受けとり、ストラップを撫でた。
「それも手作りか?」
「……あー。うん。拾ってくれてありがとう。
あんまり私の傍に居ない方がいいよ。」
ムカついた。
ムカついたから次の日の朝の出席の時に言ってやった。
いじめなんてダサいってな。
そしたら、俺の見えるところではそういうのは無くなった。
どうやら俺の発言力は思ったより強いらしい。
その後、別に何の進展もなかった。
まあきっと、弘宮はまだいじめられてはいるだろう。
引っ越し後にひどくなっていなければ良いが、今は連絡先さえ知らない。
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