あかつき

匿名

赤月。

俺は赤月あかつき壮太そうた

田舎に住んではいるが、春にスポーツ推薦で神奈川の高校に行くことが決まっている。


教室では俺の話で持ちきりだった。

女子にも何人か告白されていて、誰かと付き合うか本気で悩んでいる。

「もててんなー。さすが壮太!」

「ミナちゃんにもコクられたんだろ!?くっそ。うらやましー!」

「つきあいたい気持ちはあるんだが、引っ越すことになるだろうしなぁ。」

頭を掻いていると、見慣れた顔が目についた。


幼馴染みの弘宮ひろみやあかつきだ。

家が近くて今年までずっと不思議と同じクラスだった。

縁ってやつか。


弘宮ひろみやはとことん運動音痴で、いつも怪我をしている。

何を考えてるかわからないし、俺の第一印象が最悪なはずなのに今日までそれなりに親しくしてくれている。

無表情ってわけではないが、表面上の笑顔みたいなうすっぺらい笑い方をするんだよな。

何度か怒らせてみようとしたが、拗ねたり不機嫌になる程度でキレたりとかはしなかった。

どう考えても俺が悪い時にまで自分の非を探して説明して謝ってきた時は……こいつとは友達にはなれないな、と心底感じた。


なんとなく、俺はあいつを信用することができない。


「聞いたよ赤月くん。おめでとう。」

弘宮ひろみやは感情が読めない声で祝った。

一応笑顔ではあるが。

「お前もあかつきなんだからそろそろ下で呼べよ。付き合いだけは長いんだから。」

「嫌だ。赤月くんがかたくなに私を苗字で呼ぶって意地はってる限りはこのままだよ。」

弘宮は意地悪く舌を出した。

こういう正直なところは気に入ってるんだが、取って付けたような適当な笑顔とすぐに謝る癖が気に入らないから帳消しだ。



俺が神奈川に行ったら、暫く会えなくなるか。


友達と言うには苗字で呼び合うし、趣味も価値観も合わない。

だが、弘宮は俺を祝う時は何の抵抗もなく祝ってくれる。

親しいと感じたものが勘違いだったとしても、嫌われてはいないはずだ。


なんでこんなに自信がないのか。


こいつの感情が読めないからだ。


腹が立ったので脇腹をくすぐってやった。


この瞬間だけは本物の笑いだ。


まず指が触れると一気に不機嫌になる。

その後、抵抗する。

俺は運動神経抜群。

弘宮は運動音痴。

避けられずくすぐられ、笑い出す。

長くやると辛いだろうし短時間。


真っ赤に照れて不機嫌になって俺から離れる。


ここまでがセットだ。


「赤月くんがこれをする時って怒ってる時だよね。何が気に入らなかったの?」

「笑顔がイマイチだった。」

「あー。いつものうさんくさいとかいう。

失礼だな。本気で祝っているのに。」

ここで止まれば良いのに。

弘宮は少し視線を落としてからまっすぐ俺と目を合わせた。

「そう感じさせたならうまく伝えられない私にも非があったね。ごめん。

でもこればかりはわざとじゃないんだ。」


ああ、ここだ。これは嫌いだ。


周りの空気も悪くなるし、そもそも弘宮は悪くない。

軽く怒って茶化して流してくれれば友達になれるのに。


「わざとな時もあるのか?」

「うーん。赤月くんが笑って許せる範囲のおふざけはわざとやってるよ。」

「なんだそれ。」

俺が大きめに笑い、周りの空気を誤魔化す。


その後は少しだけ暗い顔をした弘宮が俺から自然に距離をとって…暫くするといつのまにか元通りになっている。



責めるなら責めろよ。

俺は理不尽にお前の表情に文句をつけたんだ。

わかりやすく笑えなんて横暴だろ?


なら怒れよ。




そんな距離のまま、俺は引っ越しを終えた。



弘宮は見送りをしてくれなかった。

だが、弘宮家として菓子折りを頂いた。

親は俺らを友人同士だと思っているらしい。









所詮そんな距離なんだ。
















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