魔女と僕の選択③
彼女のその言葉に食べていたオムライスの手が止まる。
「どうして?僕が行かないと君の願いは叶えられないじゃないか」
僕は彼女の言葉に食いつくように返した。
「君は彼とあってしまったんだろ?」
彼とはきっと白髪のあいつのことに違いない。
「あの病院を建てたのは私の協力者でね、私を助けるために建てたのが始まりなのさ。でも、そういうことも含めて君には関係ないことなんだよ」
少し寂しそうに優しく笑って僕を諭す。
「ふざけるなっ!!」
僕は思わず激高してしまい、拳でテーブルを殴りつけていた。
そのように周りの客も騒然となり、コンカフェ嬢たちも心配そうにこちらを見る。
その様子に彼女は周りに謝り、コンカフェ嬢たちにも両手を合わせて謝るジェスチャーをした。
「なんで、そんなことを言うんだ。なんの為に僕は……」
そう言って食べている途中のオムライスを残したまま席を立って、お店を出た。
衝動的に口と体が動いてしまった、普段ならこんな風に感情的になって動くこともないのに……。
僕はお店を出たところで立ち尽くしてしまった。
少し歩いて、建物の影になっているところで座り込んで両手で顔を覆い俯く。
「はぁ~、今日はいったいどうしたんだろ……」
突然の彼女との会合、デート、病院に来ないように言われ。
僕の中の『感情』が衝動的に蠢く。
自分が少し、自分ではないような気がした。
少しそうしていると、遅れて僕を追いかけてきた彼女に缶のジュースを差し出された。
「どうして、どうして……!!」
僕の口は周囲を憚ることなく、叫ぶように叫ぶ。
体は彼女に詰め寄り、眼前の彼女に叫ぶ。
「良いから、少し落ち着きなよ」
彼女のは受け取らない缶ジュースをそのまま差し出し続ける。
僕は感情的にその手をはたくと、ジュースは鈍い落下音をさせプシュシュシュシューという音中身が漏れ出るをさせた。
「あーあ、もったいない」
そう言うと地面にシミを作る缶ジュースを拾い上げ、プシュッと正しい音をさせて口をつけた。
飲みながらも、うぇー手がべとべとじゃんとか独り言を言いながら。
今度は彼女の飲みさしの缶をぼくに差し出す。
「もったいないから、君も飲んで」
それにも反応しない僕にイラついたのか、彼女は僕の頭上にそれを持ってきて頭からかけた。
「これでちょっとは頭冷えたでしょ。あそこ私のおきになのに行きづらくなったらどうしてくれるのよー」
なんて、僕の気持ちの在りかとは全く関係のない、自分の話を続ける。
「それにせっかく今日は推しの子が来てたのにチェキも撮れなかったし最悪~」
そこまで言われて流石にカッとなった僕は顔を上げて、彼女を見る。
彼女は僕の顔をまじまじと見ながら、大きくまあるい瞳を僕の瞳に移すように凝視していた。
その彼女の瞳に同調するように、僕の目も同じくらい見開かれるのを感じる。
僕の体はそんな彼女に掴みかかった。
「この手は何?」
彼女は驚き僕にそう尋ねる。
僕も僕で咄嗟に動いてしまったことに驚いた。
彼女に瞳に映る僕と数舜見つめあう。
きっと彼女らも僕の瞳を通して見つめあっているだろう。
それくらいの距離感で彼女の顔に僕は顔を寄せた。
「私は、ずっとあなたの願いを叶える為だけに生きていたのに……」
僕の口から僕の声とも、僕の言葉でもないものが出た。
それに彼女はただでさえ大きく見開いていた瞳を、眼球が落ちそうだなぁとどこか他人事のように思うほど見開いていた。
「あなただけは、私を裏切らないと信じていたのに……」
僕の口からなおも、僕のものではない何かが出ていく。
「私を拾い、愛してくれた恩返しがしたかった……」
それを聞いた彼女は――なのか、と僕に向かって僕とは違う名前を呼んだ。
――?それは僕の名前じゃないよ、そう口にしようとするが思った言葉が口から出てこない。
どうしよう……体も思うように動かなければ、言葉すら出てこないだなんて。
彼女は一つため息を吐くと、僕を突き飛ばして距離を取る。
「彼を返しなさい」
彼女は僕に向かっていう。
「今はまだ、返すことは出来ない。約束を果たすまで……」
「約束なんて、もういいの。その約束を終わらせるために今日私は彼に会いに来たのよ」
彼女は少し怒ったような口調で言う。
「それじゃあ、あなたの願いを叶えることにはならない……。彼には必ずそれを成してもらう。そうしたら、私は帰る……」
彼女はその言葉に何も返さなかった。
その何も答えないことを返事と捉えたのか。
「少しだけ会えて、よかったよ。またね、かあさん……」
そう言うと僕の体の力は抜け、倒れそうになったところを彼女に抱き留められた。
抱き留めた僕の耳元で彼女は「バカ……」と一言だけ呟いたのを僕は聞かなかったことにした。
僕が自分の足でちゃんと立てるようになり、彼女から離れると彼女に頭を下げられ謝られた。
「ごめんなさい。私たちの親子げんかにあなたを巻き込んでしまったみたい……」
彼女は頭を下げたまま、何度も僕にごめんなさいと繰り返した。
僕は、もういいですから彼のことを教えてくれませんかと彼女に聞いた。
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