魔女と僕の選択②
確かに彼は僕の中へと入ってくる感覚はあったが、心の中で声を掛けてみるも反応はない。
試しにもう一度剣を出そうとするが、当然出すことも出来なかった。
このまま彼女の元へ行くかは迷ったが、行かないと何も進展しないと思い当初の予定通りいくことにはした。
だけどこの日は思った駅へは辿り着けなかった。
学校への最寄り駅に着くまで、結局駅に停まることはなかった。
試しに往復してみたが、結局その駅に停まることはなく、そのまま遅刻して学校へ行った。
特に理由もなく遅刻したからなんだか教室に向かうのは気が重かった。
無意味に電車で往復しただけになってしまったし。
学校に着くと1限目が終わった直後の休み時間だった。
席に着くと後ろの席の奴に声を掛けられた。
「おい、今日はなんで遅刻したんだよ。お前が来ないと目の前に壁がないだろ」
「僕を壁にするな、授業をまじめに受けないお前が悪い」
「おいおいそりゃないぜ、とっつぁん」
冗談交じりに言ってくる佐野を横目に僕は机に突っ伏した。
「だりぃ~」
僕はため息を机に吐いた。
「――――」
佐野が後ろから何か言っているが、それらを無視して僕は突っ伏して寝る。
昼休みにいつも通り、彼女の元へいく。
着くとすごく上機嫌な彼女が居た。
「明日楽しみね」
僕と彼女は明日、水族館へい行く約束をしている。
それに浮かれているのだろう。
僕は今朝の出来事が教室で寝ているときもずっと夢でリフレインされていた。
何度も何度も夢で蹴られて、刺される瞬間に目が覚める。
僕は彼女に何とか答えるように
「僕も明日楽しみ」
とだけ返した。
なんとなく膝を抱えながら空を見ると、雨が降るほどどんよりとはしていないが少し曇り空。
「まぁた、君は何かに悩んでいるんだねー。吹っ切れたのかと思ったのに」
「んー、まぁ。いろいろなぁ」
僕はそんな彼女に曖昧な返事しか返せなかった。
彼女もいっしょに空を見上げながら。
「別の日でもいいのよー」
彼女は投げやりに僕にそう言った。
「約束は守るよー」
僕もその投げやりに返した。
「ハイハイ、じゃあ明日エスコートよろしくね」
「うぃー」
僕らは昼休みが終わるチャイムが鳴るまで、二人して空を泳ぐ雲を眺めていた。
学校からの帰り、まっすぐ帰る気にならなくて駅から少し離れたところを少し歩いていた。
めったに来ない場所だからなんだか新鮮味がある。
開いたりしまっていたりする店の前を通り、ウインドウショッピングをする。
周囲には学生らしき姿はなく、時折僕の隣を車が通るくらい。
久しぶりに一人で歩く道はなんだか淋しさも覚える。
普段学校と家との往復しかしてないのに、その間でいろいろなことが起きたなと思いをはせる。
魔女の彼女、白髪の男、剣、病院、そして彼女を殺す。
彼女を殺す――
僕にしか出来ない、と言われたこと。
何故僕なんだろう。
彼女に惹かれてしまったからなのか……。
彼女の後姿を思い浮かべる、彼女は地雷系ファッションを好み、見かけるたびに髪型や服装がちょっとずつ違った。
その変化をなんとなく眺めているうちに話しかけたくなった、それだけなのに。
「なんか、とんでもないことに巻き込まれたなぁ……」
独り言を呟くも当然周りに人はいないから、誰も反応はしてくれない。
何度も同じフレーズを繰り返すトラックが僕の横を通る。
そのトラックのピンクの看板を見ると彼女を想う。
「好き、なんだろうなぁ」
でも、僕の恋心は殺意ででしか届かない。
刃だけが彼女の
彼女を知らないから、出来ることもあるのかもしれない。
俯き加減に歩いていると、僕の目の前に立ち尽くす厚底ブーツを履いた華奢な足があった。
顔を上げるとそこには魔女もといちづらがそこには居た。
「やぁ」
少しぎこちない表情で僕に笑いかける。
今日はピンクを基調にしたファッションでツインテールではなく、帽子を被っていた。
彼女と初めて駅以外であったことに少し驚いた。
それから僕はなんでもないような顔で、どうしたのと彼女に問うた。
「君とでーとをしようと思って」
今度はにぃっと笑顔でそういう。
ずるいよなぁ。
僕は心の中で思わず呟くと、何故だか笑えた。
彼女は僕が突然笑ったから、驚きと戸惑いで、わ、わたし何か変な言い方したのかなぁと気まずそうに言う。
「ごめん、行こうよ」
僕は彼女にそのまま笑顔で言った。
「もー、大丈夫なら不安にさせないで」
と、顔をむくれさせていた。
それから彼女と少し歩いた。
彼女から行きつけのカフェがあるからそこにしようと提案をされたからだ。
僕は何も考えずにいいよと答えて彼女の隣を歩く。
しばらく歩くとある店の前に着いた。
店の名前は――で、店の前にはメイド
隣を歩く彼女を見つけると「おかえりなさいませ、お嬢様」と彼女は声を掛けてきた。
「ここは……」
僕が言葉に困っていると。
「私の行きつけのコンカフェよ」
コンセプトカフェ――
通称コンカフェに連れてこられた。
店に入るなり色とりどりのメイド服を着た女の子が「おかえりなさいませ、お嬢様」と口々に言う。
「ちなみに私はVIP会員なのよ」
と、ドヤ顔をする。
僕はそんな彼女と店の雰囲気に圧倒されつつ、案内された席に座った。
「あのさ、全然落ち着かないんだけど」
僕は少し困惑気味に言うと
「まぁそのうち慣れるって、気にしない気にしない」
と悪びれることもない。
テーブルの上にあるメニューを手に取る。
中を見ると、普通のカフェメニューもある。
メニュー表はこんな感じだった
・王様のポチョムキンオムライス
・女王様の滅多打ちチャーハン
・姫様のグーパンチハンバーグ
・王子様のサマーソルトステーキ
・宰相の地団駄カレー
・執事のお抱えパフェ
+チェキ指名料2000円
その中で彼女が選んだメニューはコンカフェ嬢とチェキを撮れるメニュー。
僕は無難におそらくオムライスだと思わしきメニューを頼んだ。
「私は毎回おきにの子と、チェキ撮るのよ」
そう言うとどこからともなく、たくさんのチェキを取りだした。
「これはねー、――ちゃんで。これは――ちゃん、この時は――ちゃんと撮ったんだけど変な奴が乱入してきたり……」
彼女は一つ一つの思い出を僕に語る。
5,6枚のチェキの思い出を聞いている途中に僕の頼んだオムライス擬きと彼女の頼んだパフェがテーブルに並べられる。
パフェもなんだかこれ食べ物なん?って色をしていた。
「お嬢様、旦那様お待たせいたしました。こちらがご注文の品でございます。こちらのオムライスには何をお書きしましょうか」
彼女はそのオムライス擬きをオムライスと言った。
やっぱりオムライスだった!!
彼女のケチャップお絵描きのテーマを考える。
「んー、じゃあ。可愛い女の子でも描いてもらおうかな」
彼女はかしこまりましたー、といってケチャップで描き始める。
しばらく描いているのを見ているとものの1分程でデフォルメされた女の子の絵が出来上がった。
「うまっ」
彼女の描いた絵はお世辞抜きにもうまかった。
「ありがとうございますみゃ、ごゆっくり、お召し上がりくださいです」
彼女は注文の品を置いて立ち去った。
折角女の子を描いては貰ったけど、描いてもらったキャラクターが全くわからない。
そのパフェをそっちのけで店内の女の子を物色している。
「うふふ、どの子がいいかなー。あの子も捨てがたいなぁ……」
ブツブツと女の子を物色している姿はちょっと呆れるくらいには、見た目と一致している年齢に思えた。
店内の女の子に向けていた視線をオムライスに向けると
「それってあの子だよー」
といって前に居る女の子を指さした。
僕はオムライスに描かれた絵と彼女を見比べて首を捻った。
「このお店に在籍する子には、それぞれの姿をデフォルメされた妖精がくっついているという設定があってね。それがあの子の妖精なの」
僕は嬉々として語る彼女の顔に見蕩れていた。
「それでね……」と、このコンカフェの設定を楽しそうに語る。
僕は彼女の説明を聞きながら店内を見回す。
あちこちで給仕している女の子が目に入る。
どの色の服も彼女に似合いそうだなと思った。
「で、本題なんだけど」
彼女は少しまじめなまなざしをして話し始めた。
「もう、あの病院へ君は近づいてはダメだよ」
少し強い口調で念を押すように僕に言う。
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