第4話 読者モデル

 つかさに声を掛けてきた男性、カメラマンの彼は、女性のグラビアを主に掲載している雑誌だった。女性向けのファッション雑誌という意味で、ただ、その雑誌も最近は、男性読者もターゲットにしているところでもあった。

 つかさは、その雑誌をほとんど見たことはなかった。名前は訊いたことがあったが、

「私には無関係だ」

 と思っていたからだ。

 別に正社員としてOLをやっているわけでもなく、パートとしてファミレスのウエイトレスをしているだけで、制服を着ての仕事なので、別にファッションを気にする必要もなかった。

「どうして、私なんかに声を掛けてきたんです? 服装だってそんなに目立つのを着ているわけでも、OL風のスーツを着ているわけでもないのに」

 というと、

「いえいえ、私はそんなあなたにグラビアを飾ってほしいと思っているんですよ。衣装はこちらで用意します。まずは、一度、モデルとしてお願いできませんか?」

 ということだった。

 その人は、見た目はカメラマンというような風体ではなく、彼自身もそれほど目立つタイプではなかった。カメラは持っているが、カメラがなければ、普通のサラリーマンという感じなのか、来ているスーツはラフなものであった。

 名刺を見ると、

「平成出版社:京極武人」

 と書かれていた。

 肩書は、

「スカウト兼カメラマン」

 ということで、出版社の名前はあまりイメージはなかったが、彼らの発行している雑誌「ミルキー」というのは、本屋の雑誌コーナーでも、コンビニの書籍コーナーでもよく見かけていたので、それなりの出版社なのだということは分かっていた。

「裏に、私の連絡先を明記しておきますので、よかったら、こちらにお電話ください」

 と言って、名刺の裏を見ると、彼のケイタイの場号が書かれていた。

 その男はその日はそれだけいうと、素直に引き下がった。いきなり声を掛けてきたので、まったく予期していなかっただけに、戸惑っている相手をこれ以上攻めても逆効果だということを分かっているのだろう。そういう意味では、

「さすが、スカウト兼カメラマンだわ」

 と思わせたが、アルバイトも終わって一人きりになったつかさは、帰りに寄ったコンビニで、問題の雑誌「ミルキー」を買って帰った。

 雑誌ミルキーは、隔週発売のファッション雑誌で、表紙はいつも女性モデルが飾っている。

 しかも、それはプロのモデルというわけではなく、素人の大学生であったり、主婦などであった。プロのモデルのようにモデルらしい服装をしているわけでもなく、どちらかというと自然体がよかったのだ。

 中を見ると、巻頭を飾るのはプロのモデルの、いわゆるグラビアページで、いかにも撮りおろしという印象であった。

 カメラマンを見ると、本当にプロのカメラマンが撮影しているようで、京極氏の撮影ではないようだった。

 巻頭のグラビアページが終わると、目次があり、そこの上部に、表紙モデルの名前が書かれていて、カメラマンとして、京極氏の名前があった。

 それを見ると、なるほど、京極氏が探しているのは、表紙モデルであって、毎回人気の素人モデルを探していることはよく分かった。つかさもこれを見ると、

「これなら私でもできるかも知れないわ」

 と思った。

 さっきはあまりにも突然だったので、意識はしていなかったが、今ではカメラマンの顔を思い出しながら雑誌の表紙を見ていると、

「悪くない」

 と感じるようになった。

 その回の表紙を飾っている女性は主婦のようで、大人の魅力を感じさせる女性だった。笑顔が何と言っても素敵で、これなら、女性うけもするであろうし、男性に対しても癒しになるのではないかと思うのだった。

 さすがに、元々は女性向けの雑誌だったが、最近では男性もターゲットにし始めただけのことはある。

 ただ、まだ男性に対しての知名度は薄いようなので、表紙モデルに力を入れて行こうというところではないのだろうか。

 もっとも、この話は、先ほどバイト先で、

「平成出版の記者に、雑誌『ミルキー』のモデルにならないかとスカウトされた」

 と話をしたことで、その人が結構雑誌に関しては詳しい人で、よく知っていたことでの知識から判断したものだった。

 バイト先で、いつも相談に乗ってくれる人で、その人は主婦なのだが、それだけにしっかりしていて、

「頼りになるお姉さん」

 というところであろうか。

 そのお姉さんの話によると、

「平成出版というところは、それほど大きな出版社ではなくてね。というのは、地元の出版社で、地元のニュースが中心だから、出版社の名前よりも、雑誌の名前の方が有名なところなの。規模が大きくない割に、雑誌の売れ筋からすると、なかなかなんじゃないかしら?」

 という話だった。

「信用して大丈夫なのかしら?」

 と、少し不安な感じで話してみると、

「別に、プロになるためのスカウトではないんでしょう? だったら、そんなに深く考える必要もないんじゃないかしら? 気楽に構えていればいいと思うんだけどね。せっかくだから、最新号を本屋かコンビニで買って帰って見てみればいいんじゃない? そのスカウトの人が、そんなに強引ではないような話だったので、後はつかささんの気持ち次第なんじゃないかしら?」

 ということだった。

「でも、私のような地味な女に、モデルなんて」

 と、自信がないようなことをいうと、

「それは私にも分からないけど、スカウト兼カメラマンの人が、名刺を渡してお願いしているんだから、自分の雑誌に似合う人だと判断したからなんじゃない? そこを疑うというのは、ある意味その人に失礼な気がするわ」

 と言われた。

「そうね、そうよね。私、雑誌を買って帰って、読んでみるわ」

 と言って、実際に買って帰ってから読んでいるという次第だった。

 雑誌の中身は、まず最初の方のページには、今週の特集コーナーということで、

「春のデートスポット」

 として、大学生から、新婚さんまでをターゲットにした、地元のデートスポットを特集している。ここには、大学生の男女が、読者モデルという形で参加していて、その表情は実に楽しそうだった。

 特集によって、二組のカップルが載っているが、この二組は果たして本当のカップルなのかどうか、つかさには分かりかねるところがあった。しかし、その表情は、表紙モデルの主婦の人に負けず劣らずの表情で、ホクホクした気持ちにさせられるのは、

「ある意味カメラマンである京極氏の力なのだろうな」

 と思わせた。

 そして、特集ページが終わると、連載の料理コーナーのようで、ここではモデルというよりも、お料理の先生が出てきて、おいしい料理の作り方を指南していた。

「ここはきっと、結婚が決まった女性や、主婦をターゲットにしているんだろうな?」

 と思ってみていたが、結婚はおろかまだ相手もいないつかさにも興味がそそられるページではあった。

 その後は、地元の有名レストランを特集していたり、映画やテレビなどの紹介がされていたりと、いわゆる、

「地元発行の情報誌」

 というイメージの内容になっていた。

「なるほど、これなら、本屋でもコンビニでも売れるはずだわね」

 と、今まではほとんど見たことがなかった雑誌「ミルキー」を改めて見ると、結構いけているように感じるのは、贔屓目だからだろうか?

 次第につかさの気持ちは、

「私がモデルというのも悪くない」

 と思い始めた。

 どんな内容になるかにもよるが、再度話を訊いてみるくらいはありかも知れない。そう思うとつかさは、さっそくカメラマンの京極氏に連絡を取ってみる気になっていたのだ。

 さすがい今日の今日では、あまりにもがっつぃているような気がして、気が引けた。

 翌日になって、午前中、部屋を片付けたりして、一度落ち着いて考えてみると、

「やはりやってみよう」

 と思う気持ちに変わりがなかったことで、午後になってから、京極氏に連絡を取ってみることにした。

 そもそも、つかさというのは、

「善は急げ」

 と感じる方で、自分の中で行動しようと考えた時、すぐにやらないと、意外と冷めるのが早いのではないかと自分で思っていたからだった。

 しかし、実際にはそんなに冷めるのが早いわけではなかったのだが、つかさとしては本当に、

「思い立ったが吉日」

 という思いが強くあったのだ。

「私にとって。閃きって結構大切なのかも知れない」

 と思ったのは中学の頃で、それまで結構悩んでばかりいたのだが、思春期の中学時代、好きになった男の子に告白できなかったことで、気が付けば違う女の子と仲良くしているのを見せつけられるようになったことを、今でもトラウマのように思っているからだ。

「あんな思いをするくらいだったら、ダメで元々と思って、玉砕覚悟で告白してればよかったんだわ」

 と考えていたのだ。

 それだけに、今回の決断は度胸がいるのは確かだったが、

「もう後悔したくない」

 という思いへのリベンジだと考えれば、容易に決断できるということにも繋がってきているように思えた。

 電話にはすぐに出た京極氏だったが、声の様子は確実に喜んでくれていた。それは、つかさが電話してくれるという予想をしていなかったことから、

「予期せぬ回答に、嬉しい誤算」

 だったのかも知れないが、つかさのもう一つ考えているのは、

「私が回答するのを最初から分かっていて、自分の予感が当たったことへの喜びから、声が弾んでいるのかも知れない」

 とも考えられる。

 要するに、その声からだけでは判断できないが、京極氏の目論見に沿っていることは間違いないのだから、喜んでくれたことを、つかさも素直に受け止めればいいのだろう。

 そう思っていると、

「さっそくですが、いつお会いできますか?」

 と言われたので、

「そうですね。バイトがない時であれば構いませんよ」

 と言って、そこでスケジュールを合わせてみた。

 考えてみれば、誰かと待ち合わせをすることもほとんどなかったのだということを思い出させるものだった。待ち合わせをするとしても、バイトの飲み会などなので、逆にスケジュールは分かっていることだけに、いちいち調整する必要などなかったのだ。それだけに、自分で調整しているスケジュールを、次第に楽しんでいる自分に気づいたつかさであった。

「じゃあ、明後日の夕方五時頃に待ち合わせしましょうか?」

 というので、

「ええ、お願いします。待ち合わせは駅でいいですか?」

 というと、

「いいですよ、つかささんが都合のいいところでですね」

 ということで、待ち合わせも即決だった。

 電話を切ると、その楽しみな余韻がまだ残っていたが、

「服装はどんなので行こうかしら?」

 と急に考えた。

 まあ、別にその日は打ち合わせというだけなので、普通にラフな服装でいいような気がする。きちっとした服装よりも、少し可愛らしさを出したような服の方が好きだし、

「何よりも好きな服を着ていくことが一番いいのではないか」

 と考えたが、それが正解なのだろう。

 久しぶりに洋服ダンスの扉を開けて、持っている服を引っ張り出して見てみた。

「思ったよりも、可愛い洋服を持っていたんだ」

 と、自分でもいつ買ったのか覚えていないような洋服が揃っていることにビックリしていた。

 好きな服装としては、やはり清楚な服がいいだろう。白いワンピースなどいいかも知れない。お揃いで買った帽子もあるので、それを着ていくと、喜ばれるのではないかと思った。

 しかし逆に思ったのは、

「もう私も三十歳。もう少し落ち着いた服の方がいいのかな?」

 と思ったが、そう思って洋服箪笥を見ると、意外と落ち着いた系統の服はなかった。

 かといって、派手でケバい服があるわけではない。清楚系の少女を思わせる服が多かった。そう思うと、化粧も薄くしていく方がいいのではないかと思うのだった。

 待ち合わせの駅に着くと、彼が待っていてくれた。

 まるで本当のデートのような気がして、考えてみれば、デートらしいデートというのはしたことがなかったような気がした。大学も女子大で、友達は合コンに明け暮れていたが、つかさはお呼びがかからなかった。

 もっとも、つかさの方も自分から行こうとも思っていなかったので、声が掛からなくてもすねるようなこともなく、

「自分には関係のない世界なんだ」

 と思うことで、落着していた。

 結局白いワンピースに、白い帽子という、まるでお嬢様風の服になったのだったが京極氏はそんなつかさを見て、

「なかなか、いいですよ」

 と言ってくれた。

「つかささんは、パスタは好きですか? パスタが自慢の馴染みのバーがあるので、ご一緒したいと思いましてね」

 というではないか。

 まずは食事なのかと思ったが、バーというと、お酒だけではなく、食事を楽しむためのところであることは知っていたので、京極氏の提案に反対するつもりはなかった。

 そもそも、つかさはバーというものに行ったことがない。どんなところなのか興味があった。

「こじんまりとしたお店なんですが、まだこの時間だとそれほど客もいないので、ちょうどいいでしょうね」

 と言っていた。

 時期的に、伝染病も大きな波を超えたこともあって、時短営業も解除されていた時期だった。

「やっと、再開できてホッとしているんですが、なかなかお客さんが戻ってきてくれるという保証もないので、不安の方が大きいですね」

 とマスターが言っていたが、バーの入っている雑居ビルの他の店では、すでに閉店を決めている店もあるようで、一抹の寂しさがあるようだった。

「つかささん、お好きなものを選んでくださいね。この店の自慢h自家製の麺なんですよ。タマゴやホウレンソウ、カボチャなどを練り込んだ麺になっているので、いいですよ」

 と言っているその横に、麺を裁断する機会があった。写真では見たことがあったが、実際に見てみると、結構いいものだと思えてきた。

 店は確かにこじんまりした店だった。カウンターには十人も座れないくらいで、テーブル席は二つあるだけだった。入ってきた時にはあまり気にはならなかったが、カウンターの奥には一人で呑んでいる客がいて、よく見るとバーというよりも、居酒屋が似合いそうな初老の男性で、背筋を丸めて飲んでいる姿には、哀愁が感じられた。

 居酒屋だと寂しさを感じるのだろうが、バーだと寂しさというよりも、別の感じがしてくる。

 調度の具合からなのか、その男性の影が壁にくっきりと映っているが、その男性の姿の数倍くらいはあるのではないかと思える影の大きさが、本人よりも印象深く感じさせ、それが寂しさを逆に感じさせない魔力なのではないかと思うのだった。

 つかさと京極氏が入ってきた時、一瞬、こっちを見た気がしたが、すぐに目線を下に逸らしたようだ。それだけに最初は印象があまりなかったのかも知れないが、座って落ち着いてみると、その男性の視線が気になってそちらを覗いてみたが、こちらを見ている感じがしない。

「気のせいなのだろうか?」

 と思ったが、やはりこちらを気にしているようだった。

 店のカウンターは「L字」になっていて、斜め前を見ると、その男性を見ることができる位置に座っていることになる。気にするかしないかというだけで、視界には入っているのであった。

「このお店は、時間を食べるんだよ」

 とその男性がボソッと言った。

「えっ?」

 とつかさは思わず声に出したが、隣の京極さんは、何も言わずに、これでもかというほどに目をカッと見開いて、その男性を見つめていた。

 その視線は、相手に対して何かを制しているかのように見えて、驚愕の表情だと思っていたが、次第にそうでもないかのように見えてきたのだ。

――まるで、余計なことをいわないでとでも言っているかのような形相だわ――

 と感じた。

 その様子を見ると、京極氏がこの不思議な老人とはまんざら知らない仲ではないかのように思えた。

 京極氏は、少しこの雰囲気を和らげるかのように、敢えて何も言わなかったが、つかさの意識がその老人から少し遠ざかってきているのを、まるで見計らったかのように話しかけてきた。

「ところで、グラビアの件なんだけどね」

 と言って本題に入ってきた。

 時間的にはそれほど経っているわけではないと思ったが、話はあっという間についてしまったかのように思えた。時計を見ると、実際に時間も想像以上に経過していた。時間に対する意識と実際の時間とにギャップがあることはあったが、その二つに差がないのに、実際に感じている時間との間に差があるというのは、どこか不思議な感覚を覚えるのであった。

 そんな不思議な感覚を今までには感じたことはなかった。だが、普通に話が終わっているだけなので、

「そんなのは錯覚だよ」

 と言われてしまえばそれまでであり、すぐに違和感は解き放たれた気がした。

 それよりも、その後に感じた時間の方が不可思議であり、後から思うと、違和感以外の何者でもなかった。不思議な空間に、怪しげな人物、京極氏はつかさをただスカウトしただけではなく、この店で何かを教えようとしているのかも知れない。

 そのことを感じると、果たして、

「この人が私を選んだのには、何か特別な理由でもあるのではないか?」

 と、勘ぐってしまうのも無理のないことではないだろうか。

 お店には、マスターと自分、そして京極氏と怪しい老人の四人しかいない。それぞれに空間を持っていて、隣に座っているはずなのに、必要以上な距離を京極氏に感じるのは、京極氏がわざと演出しているせいではないかと思ってしまう。

 つかさは、

「時間を食べるというのは、どういうことか?」

 を考えていた。

 幸い、グラビア関係の話を京極氏がしなくなったのも一つの理由ではああったが、きっと京極氏としては、

「今日はこれくらいにしておけばいいだろう。しつこくしてしまうと、却って相手を冷めさせてしまう」

 と考えているからではないかと思っている。

 確かに、あまりしつこいと興ざめしてしまうだろうし、しかもせっかくいい雰囲気のバーに連れてきているのだから、気分よく帰ってもらうのが一番だと思っているに違いないだろう。

 それを思うと、つかさの方も、

「必要以上に嫌な気持ちにはなりたくないからな」

 と感じていた。

 そのあたりは百戦錬磨のスカウトのプロである京極氏には当然のことだった。

 しかも京極氏はカメラマンでもある。次回にはきっと自分の本職であるカメラマンとしての話をしようと虎視眈々と計画しているかも知れない。

 スカウトとカメラマンを兼任しているということは、元々の本職はカメラマンのはずである。確かにスカウトもプロといえばプロだが、実際に技術的なことと精神的なことの融合を大切にするのはカメラマンの方だろう。スカウトも営業という意味ではエキスパートでなければいけないが、技術と精神的なものを分けて考えるというわけにはいなかい仕事だ。一緒に考えていかなければいけない分、確かに誰にでもできるわけではないが、天性の才能と努力の融合という意味では、カメラマンに適うものではない。

 そんなことを考えていると、今の彼が、精神的にカメラマンの気持ちになっているような気がしてきた。つまりは、営業としての気持ちとカメラマンとしての気持ちが葛藤しているとすれば、それは少しの時間でしかないと思うのだ。その時間が経過し修了すれば、そこから先は、もう気持ちはカメラマンに戻っているに違いない。

 そう思うからこそ、彼は、必要以上のことを話さない。

「これ以上話をして、せっかく自分のカメラに収まりたいと思っている相手の気持ちをそぐようなことをする必要はない」

 という思いとm

「ここから、先は純粋に、彼女を被写体として見ていたい」

 という思いがあるのだとすれば、そのうち、彼の痛いほどの視線を感じることになるかも知れないと感じたのだ。

 そんなことを考えながらお酒を飲んでいると、

「あれ?」

 と、思った。

 先ほどまで一番奥で飲んでいたはずの老人がいなくなってしまっているではないか。トイレに立ったのであれば、自分の視界に入ったはずである。そもそも、視界の中にいたはずなので、少しでも動いたとすれば意識に残るはずだ。

 しかも、カウンターの一番向こうは壁しかない。トイレに行くとしても、自分のすぐ後ろを通らないわけにはいかない。それを思うと、老人がいなくなってしまったことはまったく理解できることではなかった。

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