第13話

お通夜。それに、告別式。

生きていく上でそれを知った。お焼香のやり方もお辞儀の順番も分からなかった。

今夜、森ふくろうは、また、白い梟になる。

ふしぎとふくろうが梟の中に入ると白くなるのだ。

昼間も試してみた。やはり茶色から白くなる。

燃えてしまったはずのミラが、元気な姿のまま、小林家の縁側で足をぷらぷらしていた。赤いチェックのワンピース。

白いふくろうはミラの目の前に降り立つ。

ミラは喋れないようだった。

でも、中身が森ふくろうだってわかってくれて、抱きしめてくれた。

やがて、ホタルのような蛍光色のミラの色になった。赤いバラのようでもあるし、黄緑の発光体のようにもなれる。近づくとやっとしゃべってくれた。

「言いたいことがたくさんあるの」

火遊びはだめ。

それはこのさき無くなるだろうし、やるようならふくろうが止める、なにより、音二郎とすこしならはなしができる、と話し合った。

「かなしくはない?」

「かなしみはね、からだがたくさん持って行ってくれた。いまあるのは森と、白いふくろうへのあこがれだけ。なくなったら消えるからね」

「きみはミラなの?」

「ふくろうがそう呼びたいならミラになる。名前なんてたくさんあってもひとつでも、いるのはひとりだよ」

「むかえにきてよかったよ」

「しばらくは梟といっしょに森にいるから、ふくろうのほうから、会いたければ会いにきて。それよりこのからだ、すごいんでしょう。みんなのひみつがたくさんわかる。森はいだいだね」

「音二郎のところ行ってみる?」

「白い梟が行きたければいくけど、ふくろうはどうしたいの?」

「ミラの森への思いのままに行くよ。未練はひとぎきわるいもの」

「じゃあ、いいかな。それよりね、森百合先生のところへ行きたい、かな。確かめたいことがあるし。

あ、そうだ、ふくろう、おめでとね」

「なにが?」

「ふくろうのおかあさん、ミラが死んじゃうからえんりょしてたでしょ?ミラはもういない。でもしばらく、どうなるのかな」

「なんのことかわからないけど、とりあえず飛ぼう」

空気をかんじる。ヒカリのミラもついてくる。

「じぶんのいえはみてないの?ふくろう?」

「ミラの具合の方が気になったからね」

夜風を感じながら、電気がまばらにつく家々の上空を一箇所めがけて飛び続ける。

「ひとがしぬ、ってこういうことだよ」

「……うん」

「ふくろうはまだ泣いてくれないとおもった。ううん、これからさき、ないてくれないかもね」

チカチカとヒカリが抗議する。

「九才まで、いっしょにいたのに、ごめんね、ミラ」

「いいよ」

ミラのいいよは夜風にピッタリだった。あとくされがない、みたいな。

やがて、よるの、森百合先生の家に着いた。

小さくて人一人が暮らせればそれでいい家、そんなこじんまりした小人の家のようでかわいかった。

窓から先生を見る。

でも、先生は。

「あーあ……」

先生は悩んでいた。明日からなんて顔して学校行こう。それより、服は喪服のままの方がいいかしら。

こども、いたことないからわからない、なんて、ひどいこと思いたくもないし。そもそもひどいこと、なのかしら。ああ。ミラちゃん。まさかこんなにはやく死んじゃうなんて。どうしよう。

先生は、夏なのに、あつあつのラーメンを食べていた。

「なんだか、悲しんでいないね」

「先生は冷たい人なの」

「どうしてそう思ったの?」

「ミラのことをすこしも心配しなかったから」

「先生なら、死んじゃうかもしれない人を思って、応援したり、共に悲しんだり、そのあとは落ち込んだりするのがふつうなのかな」

「……ミラはもう、ミラじゃない。だから、先生がどんな先生だろうとかまわないけれど、もし、クラスメイトがまたもう一人、死んでしまうかもしれない時に森百合先生は、どんな先生としてふるまうのかきょうみがあるわ」

「悲しめない病気かもしれない」

「ふくろうも、悲しまなかったものね。でも、先生は別」

夜でも蒸し暑い。そろそろ家に帰ろう。白い体が目立つのもまずい。

「ふくろう、ふくろうはほんとうに、悲しまなくてもいいからね。ふくろうは、ミラをかなしみのむこうがわまでつれていってくれたから」

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