第12話

翌日。ミラが、今日か、それとも自分の知らない時間帯に死ぬ。テレビを見て。おかあさんの目の前で。深夜、という時間かもしれない。三日前にどう言う状態で死ぬ、とわかっても時間がはっきり分からない。

「おぬし、死にそうなむすめのまえで、仏壇のはなしは気をつけろ」

「……はい。」

素直な!と梟が白くなっておどろいている。

でも、音二郎のおじいちゃんは亡くなっていて、マッチはそのじいちゃんのことを、言っているのだ。せつめいするのにとっさに仏壇がでてしまった。じいちゃんのためにマッチの火で線香をつけるので。マッチはおじいちゃんの化身なのだ。

「土と風でミラを助けられない?」

「助けるとは?」

「寿命がのびるとか」

「わたしのようになるとかか!」

梟が白くからだをふりふりする。怒っているようにも見える。

「なんとなく、ぜんちぜんのう、っぽいから、聞いただけ」

「きもちを一個だけのこすことはできるぞ?」

「なにそれ」

「未練という」

「じゃあだめ!ミラが成仏できない!」

「自然と一体になるほうか。それなら、森が好きならその気持ちを森の力にして残すこともできるぞ?」

ふくろうは目をぱちくりとする。

「森のちから?」

「まあ、わたしのお供か、ともだちだな」

「それは、ミラなの?それとも違うたましい?オーブ?」

「試してみんとわからん。わたしにもな」

片足で片足をかいかいする。

「なんでも知りたければわたしになればよいのに!知りたいことが山ほどわかるぞ!」

「もうわかってるよ。ミラが死んだら、音二郎はお線香を供えに来て、火遊びがバチ当たりに感じてやめるんだ」

「なんと、それは未来か!はやくミラのところへ行ってやれ。今頃はもう、夢の中。音二郎も素直にお見舞いについてくる。おぬしは未来をちょっと変えたぞ。いいか悪いかはわからないが!」

白い梟はいつも通りすかしたたたずまいだ。

「おまえは、どういう化身なんだ。ほんとは、死神なんじゃないか」

言って、全力で走り出す。そうなら怖いと言った瞬間思ったからだ。

息をするのが苦しかった。色のついたTシャツに、汗のぶんだけしみをつくった。デニムの半パンはもう、重ったるくて夏は二度とはきたくない。

そんな思いで十分だ。十分走りおわったところで。

ミラの家族が、全員、集まって泣いていた。

ミラの呼吸が、ふしゅうー、ふしゅうー、と今にも途切れそうだった。

ミラの宝石箱が浮かぶ。大切なもの入れ。あれを近くに置いてあげたいけれど、おとなの輪のなかへはいって、ミラの持ち物をあさるわけにはいかない。

テレビでは、有名な魔法使いの映画のアトラクションが映っていたり、食べ物を食べる番組に切り替わったり、そのうちうるさくて誰かが消した。

消した?

ついているあいだにミラは死んでしまうさだめだった気がする。それに、こんなにも家族が揃っていたかな。いまが、お昼休みだから、みんな家へ自然に集まってきたのかもしれない。お見舞いに気の向いた花の一輪でも持ってきたかったけど、きょうがお別れだって知っていたから、別れの花になるかもと持ってこられなかった。

村中のみんながやってきた。すずも、たおも、音二郎も、森家も山田家もすべて。小林家も。

ミラは、これを望んでいるだろうか。

ミラは夏なのに病気の間はずっと寒いと言っていた。ご飯が満足に食べられない分、熱や力になるもの、がからだにはいらないのかな、と思った。点滴もしてた。みんなが、ミラに、ミラちゃんはかわいいねえ、ミラちゃんはいいこだよ、またあそびにおいで、ミラちゃんのすきなものつくっとくよ。

誰もミラちゃん、さようなら、他まだ言えない。ミラのおかあさんはいやだ、だいすきよ、とくりかえしいろんなことばを、くりかえしている。しばらくするとおかあさんが、ゆったりとやってきた。なんとなく、いまのおかあさんは走っちゃダメな気がする。やがて、森百合先生がやってきた。

森百合先生が言う。

「ミラちゃん、先生、ミラちゃんにお手紙、たくさんかけて、しあわせだった」

ミラはふうぅー、といちばん、ながい、息を吐いた。

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