第11話

「おぬし、死ぬところを好きなやつに見られたいか?」

白い梟がつばさを広げてほれほれと、うごかす。

「……そりゃあ、おとうさんおかあさんに、いてほしいにきまってる」

「違う。」

「好きな相手に見られたいか、と聞いている」

「好きな人がいないから、分からないけれど、いっしょにいてほしいよ」

「そこよ。」

「なにが」

「もういちど、わたしと一体になるかえ?」

「いやだよ、飛べるけど、自分じゃない気がして動物になった気分だ」

「ほう、勘が鋭い。いや、しかし、にぶい。その女の子はなあ、痩せ衰えたじぶんを好きなおのこにみられたくないじゃ」

「やせ、」

「やせおとろえた」

「やせおとろえた……」

森の中で木の棒を持ちながら、それを根に向かってトン、トンとうちながら。

「弱った自分を見せたくないってこと?」

「風邪とおなじにするな。一生分のうつくしさを見せるならまだしも、元気な姿をとどめておけない、やるせない思いがある」

木の棒の動きを止めて、ふくろうはおもう。

「それでも、とおくからなら、セーフだよ。かってにセーフにして、ミラにつたえるんだ。あと二日。明日。次は無い。ミラと会えるのは今日と。明日。」

木の棒を持ったまま森を出ていく。

十分歩いて汗だくになりながら、七月二十一日、木曜日。

「ミラ」

ミラが顔をこちらに向ける。目はハッキリとこちらを見ている。髪型は編み込まれてプリンセスのようだった。治療していたら髪はほぼ全部抜けていたらしいけど、だれもミラが病気だなんて気づかなかった。

「ミラ、ひみつがあるんだ。音二郎のひみつだけど、ミラに言って良いって」

ミラの顔に影がさす。この間は、そうだ。

「この間はとおくからみてごめんね。音二郎はね、火遊びを大人といっしょにするのが好きだよ」

ミラの髪が揺れた。

なぜ?と問いた気だった。

「仏壇のマッチでね、おじいちゃんおばあちゃんにあげる線香につけるマッチで、」

このとき、ちかくにミラのおかあさんはいなかった。台所でプラムの皮をむいてミラにあげようとしていた。

「水の入ったバケツを用意して、おとながいる場所で火遊びするんだ。あぶないけど、好きみたい。教えてくれたよ」

ミラの家にも立派な仏壇がある。

「あ…りが、と」

すきなひとの、すきなひとのすきなことを、しることが、できました。

ミラは、もうすぐにでも目を閉じて、眠ってしまった。

「おばさん、ミラ眠っちゃったよ……」

こわい。

ミラのおかあさんがとんできて、口と、首と、手首まで一気にさわって、ほっとする。

「ミラ、眠っちゃったから、かえるね?」

ミラのおかあさんは、ふかくうなずいた。

さいきん、ミラのおかあさんと、うちのおかあさんは交流がない。なんでなんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る