第9話

ねえ、じぶんはどうしちゃったんだろう。

空を飛んでる。あそこはミラのうちだ。ミラ。

しばらく具合が悪くて会ってないなあ。このすがたなら、だめだな、寝ているところまでなんかんとっぱできないよ。


ふくろうは、白い梟になって空を飛んでいた。

悲しかった。この梟の中に入ってしまったようだけど、なんと、だれがいつ死ぬかわかってしまう。


白いふくろうはそれでも、いろんな人のところへまいおりた。天使のように、悪魔のこころをしらなきゃいけない。はじめに、ミラのうち。

ミラの命はあと少しだった。先天性なんとかという、むずかしいけれど、先天性とつくのは、生まれつきらしい。どうしていままで、病院で手術しなかったんだろう。薬飲まなかったんだろう。

それも、白いふくろうにはわかる。生まれつきだけれど、最初からあったわけではなかったから。

この、白い梟の中に入るといろんなことがわかる。

ミラは、自分のいのちがみじかいことをしらされていない。一年後も二年後も、十一年後も生きて、二十歳を迎えると思ってる。そして、山田の宗家の音二郎がすきだ。音二郎は自分の名前が好きな背の高いやつだ。そして、すきな女子はいない。ミラを好きになれ、音二郎。白い、梟になったふくろう君はそう思うことしかできない。はじめにじぶんの家じゃ無くミラの家に行ったのはこの二週間ずっと会えなかったから。

この白い梟は他人の心がのぞける。すごいことだ。ミラには宝箱があることを知った。宝箱はキラキラした飾りのストーンがたくさんついていて、なかにはヘアゴムやブレスレット。友達からのお手紙が入っている。そして、森百合先生からのお手紙が宝箱からはみ出して机の上に散らばっている。ミラは起き上がると気持ち悪くなるみたいだ。自分まで気持ち悪くなってきて近くの木に止まった。ミラはいま、好きな時に、好きな場所で眠っていて、いまは夏の大きな家の縁側で、家族とねむっている。こんなこと思いたくないけど、死ぬまでに好きな場所で寝て好きなものをたべるみたいにとっていたい。音二郎に教えてやらなきゃ。だけど、だめ。白いふくろうのとき、覚えているのは一個だけ。他人の秘密は覚えていちゃいけない。そんなのぜんぶだ。ひとのひみつを、白いふくろうのとき、じぶんはたくさん見ている。

森百合先生からの手紙はいじわるだった。

「ミラちゃん、きょうはすこしあしをのばしてとうげへ行ったよ。安全だからいけたの。みんなよろこんでた」

「ミラちゃん、きょうはすずちゃんとたおちゃんとおにごっこをしたの。六年生になるまで先生とおにごっこするっていつまでもらっちゃった」

「ミラちゃん、きょうのぐあいはどうですか?先生はみんなの朝ごはんをきいてなにを食べたかきいてみました。パンの子はすくなかったよ」

「ミラちゃんのおうちのちかくにじんじゃがありますね、先生おまいりに行こうかな」

森百合先生は意地悪だ。

ミラが行けないところにみんなで行く。

ミラができないあそびをする。 

ミラがふつうのごはんを食べられなくなっているのにごはんのはなしをする。

ミラの家にお見舞いじゃなくて、神社に行こうとする。

あの先生は、意地悪だ。

名前の作文の宿題をだしたのも、じぶんにたいするいじわるだ。

ミラは、あと三日で、テレビを見ながらおかあさんといっしょにいるときに目を開けたまま、とろんとねむりにつく。

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