第6話

七月七日。

きょうはふくろうのたんじょうびだった。

だというのに、しその天ぷら。そうめん。麺つゆにつけたナスの煮浸し。きゅうりとシーチキンの和え物。

ケーキもアイスもプレゼントもない。

それが森家のたんじょうび。

べつだん、さびしいことはない。しその天ぷらはだいこうぶつだ。めんつゆと、ナスのじゅわりと吸ったかつお節のかかったのも。

「おかあさん」

ふくろうが呼ぶ。

「なんかあった?」

「え!べっつに、なにもないわよ?!」

夏なのに冬のくつしたをはいたおかあさんが、おかしい、というよりは。

いったとおり、なにか?あった?と言うところだ。

「ふくろう、他にほしいのは?プチトマトはどうだ」畑仕事を終えておかあさんのとなりにすわるおとうさんがいう。

「いらない、プチトマト、なんか、あきたわけじゃないけど、なんかいい」

おべんとうに入っていればこうかくりつで食べるのだが、あんまり、おいしいもんだとおもえないのだ。

それでも、おとうさんは、となりにいるおかあさんの肩に手をかけてから立ち上がり、プチトマトを二十個ぐらいタライと手でばらばら洗い、ざっくりと水を切って持ってくる。

この地域の水は夏でもつめたいのがでる。

今目の前にきたプチトマトもつめたくておいしいだろう。

お父さんは食べやすいように緑のそりかえったかたいヘタを取ってから、そうめんにぽん、ぽん、といろどりをいしきしてのせていく。

(いいのに……)

それでも、用意されるとはしをのばしてしまい、冷たくて甘い汁の出るトマトの味を舌でみずみずしく感じる。

つぎはきゅうりとシーチキンの和え物だ。

おかあさんが女の子が姿勢をよこにずらしたような、でも、おとうさんにしなだれかかるわけじゃないすわりかたで

「おたんじょび、おめでとう、ふくろう。ケーキはないけどスーパーでホットケーキミックスと!」

のところでおかあさんが、くちもとをおさえて、ちょっとはいたみたい。

わけが分からない。

「あーあ、あー!よしよし!いいんだ気持ち悪い食べ物のことは!」

わけが分からない。

ホットケーキミックスでホットケーキをやいて、生クリームをでろーんとかけるのが、わがやのおいわいごとみたいなところがあるのに。

べつに、きもちわるいたべものじゃない。

「ふくろう、かあさん、ふとん行くから」とおとうさんはなれたような、なれてないようなようすでおかあさんを寝床のある部屋へ連れて行く。

だれかがちょっと具合わるくなったところでわけがわからなければふくろうもなんとも思わない。

とりあえず、めんつゆにつけてそうめんを食べて、お腹いっぱいなので、そのそうめんのすっぱい汁もごほうびとばかりに飲み切った。

ふくろうはラーメンでもうどんでも、汁はさいごまでのみきる。

やがて、テレビを見ようとしてどれも食べ物番組なのでおとうさんになぜか止められ、けっきょく、いまはかわいてなんともないけど翌朝ベタベタするからおふろはいっとくか!

と、追い焚きしてきのうのゆぶねにはいる。ちょっとぬめるけど、三人家族。

おふろのお湯を一回ですてるのはもったいない。

ほんとは1日の疲れを流すために風水とかじゃ一日一日で変えた方がいいんだろうけれど。

髪の長いおかあさんは、きょうたいへんでおふろ入れないかも。

それより、いまごろになって、かあさんがはいたの思い出してきた。ちょっとノドとハラが、だめだ、きもちわるくなんて、なっちゃだめだ。他のこと考えろ。

そうだ。

じぶんはきょう、九才になった。

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