第4話
白く変色した梟がやがて、
口から白いかたまりをだした。
「きもちわるいっ」
ふくろう君は下がる。だが、かりにもふくろうの名をいただく身であるふくろうだ。
「……ペリット……?」
ドラマで見た事がある。
梟は飲み込んだ餌の骨などのかたまりを吐き出す習性がある、と。
猫の毛玉吐きと似たようなものだろうか。
なんだか、きたないものをきたないと思えない気持ちで見ている気がする。
ミラは見なくて良かったかもしれない。
梟を捕まえようとは思わない。夜の狩人である梟だ。ネズミたちを捕まえるためのどんな爪をしているかわからない。
それよりも、
白蛇と一緒で、こいつは神の化身かもしれない。
フクロウ君は木の棒でつつくなんて無粋なこともしないまま、森の神様から離れた。
森の入り口まで来たところでランドセルを背負ったミラがいた。
小林ミラ。小林も多くておかあさんの友達はこのミラのおかあさん。ミラのおばあちゃんとも仲がいいから森、山田、小林達はもう、仲が良ければみんな、仲が良くなる。
何を言っているんだろう。
「ミラ、なんでまだランドセルしょってんの?」
学校では小林と呼んでいる。ミラはじぶんのなまえがだいすきなので軽々しく呼んでほしくないのだ。名前の由来、元々の意味、と言う話だと。英語の鏡のミラーから来ているらしい。英語はちっともわからない。鏡がミラーなんて、なんで?おまけにどうして人の名前になるの?
ほんとはアリスがよかったらしいけれど、家族に反対されて未来のミラ、と言う事でミラのおかあさんがみんなをだますようになっとくさせたらしい。
なら、自分はなんでフクロウなのか。
そうだ、さっきの梟。
「ランドセルにはね、必要なものがたくさん入ってるのよ!」
ミラがへんじを返す。
ミラが赤いチェックのワンピースにピンクの靴で宣言する。雨の日のためにミラはくつを二足持っているし、長靴もある。
「またリュックサックを家出リュックにしたの?」
ふくろうはミラのちょっと古いランドセルをのぞきこみながら聞いてみる。
子供はたまに、家出を考える。家出します、と言う手紙まで書いて。ミラはそれを何度も考えるお嬢様なのだ。ふくろうの家の三倍、ミラの家は大きい。まあ他にも大きい森家や山田家もいろんなところにあるので。いわゆる本家、大元の家。分家、本家から別れた家。みたいに大きさや規模、住んでいる人が違うのだ。ふくろうの家は分家。本家の森家は集まるといろんな血縁の森家でいっぱい子供同士でなんちゃってルールで花札や将棋をする。ルールがわたる大人が混じっても次会うときには全部覚えている子供は一人もいない。ゲーム機でゲームしたり、スマートフォンのアプリで将棋の駒の動かし方を自然に教えてくれるもので満足してしまうから。
あと家族同士で集まった時でもその親達が勉強をさせようとプリントやドリルを勝手に持ってくる。
かんべんしてよ。学校でも勉強して、家でも宿題やって、たまに本家に十五人くらいのいろんな子が集まった中でやるのが勉強会!
それも学校に通っている者たちだけ。
ぜったいに、やってやるもんかと思いました。
そう思い出を朝のスピーチで語ったら
「親御さんが君のためを思って勉強道具を持ってきたんだ。なにを勝手なことを言っている」と、ふだんの勉強ざんまいも知らないくせに、放課後呼び出されて夕日のベランダでお説教をくらった。何人かは笑ってくれて特別なネタだったのに。
ミラは笑ってなかったな。
ミラの方は勉強にうるさくない。ミラは昔から自分で勉強するからだ。小さいころは読んでいる本に飽きると、逆さまにしてひらがなの絵本を読んで勉強していた。
そんなミラは活発ではないのに、家出、どこか遠くへ行く、もしくは大人になる途中の事柄をとにかく考えているのだ。
「新しいランドセルは可愛いからおばあちゃんに感謝!古くて赤いのはおかあさんに、しないけど、あっかんべー!」
ここは田舎だけれど、ミラは都会までおばあちゃんと行って好きな色のランドセルをゲットしたのだ。学校に通う時はソレ。家出がしたくなったらおかあさんが与えた古い赤いランドセルに包帯とか、懐中電灯とか、水筒を入れて森へ家出する。リュックサックも持っているけれど、それは、電車の乗り方を覚えたミラがほんとうに本気で家出、どくりつしたい時のためのお菓子や地図やお財布が入っている。
でもこのことはミラのごりょうしんには筒抜けだ。
むすめのことは、誰よりもよくわかる。
だって、ミラのおかあさんとおとうさんは、ミラとそっくり。というか、ミラがごりょうしんににているのだから。やりそうなことはそうぞうがついている。
「ねえ、ミラ。神様みたくない?白蛇よりほんもの」
見せる気はなかった。案内する気はなかったのに。
つい。
「白蛇見たことない……、でも、目が赤くてちろちろしてなんかやなかんじだから神様とか神社で十分」
後ずさりしながらランドセルのベルトみたいなものを両手で掴んで怖がったように見せる。
「梟は見たくない?」
「フクロウ?!」
ミアがちょっと怒った感じに見える目を少し大きく、まぶたを見開いて黒目の部分が大きく見えた。ミアは目がつり目で怒ったみたいに見えるのだ。
「森にいるの?飛んでちゃった?!」
「わかんない。でも三メートルくらい近づいても動かなかった」
ミアは神様の話は忘れたらしい。
「つかまえちゃえばよかったじゃない」
「ひっかかれたらばい菌がこわいだろ、狂犬病とかさ」
「野犬とかは確かに怖いけど、梟って毒あるの?」
もう森の入り口に登り切って持っていた枝で地面にバッテンとかを書きながら
「どうだろ、でもネズミはばっちいだろ、そいつらを足の爪で掴んだり食い込ませてほかくする」
「げええっ」
ミラはお嬢様だけど言葉はお嬢様じゃなくていい。
「もっかい行ってみる?まだいるかも。さっきはペリット吐き出したから気持ち悪くて帰ってきちゃった」
木を森の真ん中に放り投げてカンッと音を立てさせた。いつも何もいない、しずかな森だ。
「ペリットって、あのネットみた食べかすのかたまりでしょ。どうやって吐いたの」
「わかんない。気づいたら出してたからそっちが強烈」
「フクロウ、見に行く」
「わかった」
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