第13話 黒幕はいつの世も暗躍すると。

「なーにが、若気の至りなんだか」

「うっ」


 先の戦争中、猪突猛進で敵対種族に奇襲をかけて勝ったという某勇者がハルカと知って何となく理解が出来た俺だった。


「ま、まぁ、ね。それも全て過去の事だし」

「う、うん、そうだね」

「それで過去の事って?」


 そのハルカは引き籠もりを続けていたと聞いていたが、今は二人の間で何らかの取引があって、俺の前に姿を現しているって事だろう。

 取引というかフレアの強制だったようだが。


「私が強引にステータスをリセットしたんだ」

「そうなの。少し惜しい気持ちもあったけど」


 勇者として各国に狙われるよりはマシと小声での呟きが続いた。それは処刑から逃げた事ではなくフレアの助言によって捜索が行われている事案の話だろう。その件は、改めて各国家の奴隷に戻れと言われている事と同じだものな。

 高品質な魔石目当てで処刑するような国家と賛同する国家。国家のために精一杯戦って勝ったのに、怪物を見る目で怯えて、一方的に裏切ったのに、今更何をって感じだ。

 ハルカ自身も勇者の力を捨て去る事が出来なかったから引き籠もっていただけだろうしな。

 それが無ければ普通の女性でしかないから。

 俺はフレアに対して褒める事にした。


「あらら、さすめがだな」


 本来の立場は表に出せないから短縮しただけだけど。ハルカも苦笑しつつフレアを褒めた。


「そうね、さすめがよね」


 それがどのような単語の短縮なのか気づいていないフレアはきょとんとなっていたけれど。


「そ、それって褒めてるの」

「「褒めてる、褒めてる」」


 この流れで貶す真似は出来ないだろう。

 ただまぁ、その後に聞いた話では、やっぱり神なんだなって、呆れてしまったけれど。


「で、結局、助けてもらうことになったんだ」


 それらの会話は表沙汰には出来ないのでフレア自身が遮音結界で覆ってから行ったけどな。


「こ、この世界から見つけ出すには手間暇もかかるものね。全て陸続きだから総動員すれば見つけ出す事も可能だけど、場所によっては魔人達が跋扈する地域も通らないといけないから」

「それで一時的な拉致を敢行すると・・・」


 かつての常識を介在させると、あり得ないと断じたくなるが、今はこちらの世界の住人だから、あちらがどうなろうが知った事ではない。

 とはいえ、ハルカの二の舞を赤の他人に丸投げするのも良くないと思う気持ちもあって事後だというのに何故か悩んでしまった俺だった。


「い、一応はね、二人と同じような身寄りのない子供を対象としていて、全て夢だったと思わせるように戻す予定なんだよ。仮に死んだとしても悪夢で終わる経験的な、ね?」


 悪夢、か。数十年の経験を夢として認識させるとなると人格が良い意味でも悪い意味でも変化しそうな気もするが、それしか手がなかったのも確かだろう。仮に失踪しても違和感のない人物を寄越すならば最適解ではある。


「大々的な処刑事案を起こした状態で、勝っても死ぬ・負けても死ぬと決定されていたらな」

「よほどの自殺志願者以外はやりたがらないわね。あとは戦闘狂くらいかしら?」

「どちらにせよ、この世界から見つけ出す事は困難になっていたんだよ。処刑という前例が完全に消えない限り誰もがやりたがらないから」

「完全に消える事はないだろうな?」

「ええ、伝承として残っているしね」


 元勇者が言うのだから間違いはないだろう。

 実際に噂程度でもハルカの英雄譚が各地に残っているそうだから。肝心のオチは死に際の魔王に操られて、仲間達を皆殺しした大罪で処刑されたとなっているけどな。


「当の公爵次男はピンピンしてるし女神官も聖女だと呼ばれているしね。元気過ぎて死んでないじゃないってツッコミを入れたくなったわ」


 本当の事を伏して嘘を振りまくか。

 これらは、怪物であるハルカを処刑するために用意された道具だったのだろうな、きっと。

 最終的にフレアが処刑案を提示した者を悪と断じて、真相は闇の中へと消えていったけど。


「そうなると、焚書とかは出来ないのか?」

「一度でも書物になったら流石に無理だね。私の神炎でもってしても燃やせないから・・・」

「ふむ。口伝までなら改ざんは可能と・・・」


 ただ、書物として残ると、素材やら何やらが原因で制限が付くって事なのかもしれない。

 フレアの神炎でも消せない遺物となると。

 話題は終わった事から今後の話に移った。


「ただね。いくら成長倍加が付いていても何をどう成長させるか、記録が残っていないから」

「ああ、元勇者以上に育てないといけないか」

「新魔王は元勇者以上に強化されてるからね」


 ハルカ以上に強化されて生まれた新魔王。

 それを聞いた当人はきょとんだったが。


「え? あの時でもギリギリだったのだけど、あれ以上になったの? 魔王が? 嘘でしょ」

「「え?」」


 完勝したと聞いていたが、本人の言葉ではギリギリとあった。これはもしかするとハルカの悪い癖が表に出た結果かもしれない。


「まさか負けず嫌いから無理してたんじゃ?」

「うっ」


 やっぱりか。無理して痛みに耐えていたと。

 気丈に振る舞って、完勝した事にしたと。

 それほどまでに人族種と魔人種の種族の壁は高いのだろう。

 それこそ俺が思うに、


「それなんて魔人種の方がチートでは?」


 どんなに上げ底を増やそうがギリギリだ。

 一体、どれほど強大なのか想像が出来ない。


「人族種の基本ステータスにチートマシマシでもギリギリだったからね。先を急いだ当時の案内者を見つけ出したら、絞め殺したいほどよ」


 ハルカはそう言って強烈な殺気を飛ばした。

 今はレベル一なのにこの殺気って相当だな。

 これらは経験則から出せる殺気なのかも。


「おぅ。殺気が漏れてる漏れてる」


 というか案内者? そんな奴がいたのか?

 沈黙中のフレアも興味があったようだ。


「案内者? そんな者が居たの?」

「ええ、居たのよ。それは何時だったか、武者修行中、私の寝床に現れて『もう十分過ぎるくらい強いから戦いませんか』って囁いてきて」


 その後も頻繁に現れては魔王との戦いを薦めてきたそうだ。まだ早いと思っていたハルカ。

 最終的には後ろ盾である国家と仲間達まで焚き付けて魔王討伐に向かわざるを得なかった。

 それを聞いたフレアは真剣な表情となり、


「その案内者の容姿ってどんなのだった?」


 苦笑するハルカに対して質問していた。

 ハルカは目を閉じて首を傾げる。

 そして思い出しながら呟き始めた。


「容姿・・・顔は薄暗くて、分からなかった。声音は男性、ぽかった。ああ、でも輪郭だけは女性だったわ。胸がお化けかってほど大きくて小尻だった。あと、髪が真っ青だったわね」


 それを聞いたフレアは、


「真っ青の髪・・・あんちくしょう」


 赤い闘気もとい炎の魔力を纏ったように怒りが大いに表れていた。お、怒らせると不味い相手だって嫌でも分かるわ。容姿から髪色までの間に真剣・苛立ち・怒りに変化したからな。

 ハルカはフレアの様子に気づかないまま続きを語る。


「ただ、妙な親近感もあったかも。今思えば不快なんだけど当時は心地よい感覚だったわね」

「あー、それは加護が作用したんだね」

「「加護?」」


 加護というとフレアが与えてくれた、あの?

 そういえば、女勇者へと加護を与えたのはもう一柱だったはずだ。そうなると・・・あっ。


「ハ、ハルカって利用されたのか?」

「利用!? ど、どういうことよ?」


 ハルカは与えられた側だから、事情は知らないと。加護と聞いて普通は気づくはずだから。


「おそらくね。どのような意図があったか今は分からないけど、自身の用意した最強と戦わせて、負ける姿が見たかったのかもしれないね」

「負ける姿・・・」


 ああ、結果は勝ってしまったから滅ぼした。

 前より強い魔王を拵えて再度戦わせようと?


(そうなると、その女神は悪意の塊なのかも)


 そう思うとフレアは安堵の表情に変わり、


「なら、堕神させて正解だったね」

「「堕神?」」


 俺とハルカがきょとんとする不可思議な言葉を口走った。これは一体、なんの話だろうか?




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