第12話 女神でも知らない事はあるよ。

 ハルカがアキラと幼馴染だった事を先ほど知った私は人の縁とは実に不可思議だと思えてしまった。しかも、生前からのハルカの思い人と知って意図せず本命を結びつけてしまって苦笑したほどである。それでも正妻は私だけどね。

 そのうえアキラが剣術経験者だと初めて知って職業的に失敗したと思ってしまった。後衛職はどうあっても剣に触れる事は出来ないから。

 ただね、私が思うよりも私の施した法には抜け穴があったようで、そこをアキラに突かれてしまいどうしたものかと考え込んでしまった。


(まさか製造魔法で仕込み杖を作るとは思いも寄らないよぉ。杖であるなら賢者の領分だし)


 出来上がった金属杖を持ったまま縦横斜めと振ってみて魔物を斬り伏せる姿が幻視出来た。

 しかも、中身に収めた刀身が尋常ではないほど魔力の通りが良く、アキラの魔力に呼応して魔力刃を生成するまでに至っていた。刀身そのものはミスリルと鋼の合金で出来ていたし。


(まさに魔剣そのものだね・・・)


 これが他者に奪われたならどうなるかって思ったりもしたけど、それは杞憂だった。


(製造者で固定化される製造魔法の特性が出ているね。本人が誰に与えるかで使用者を変更出来るのも、その魔法の特徴だし・・・というか)


 魔杖では反応しなくて魔剣で反応したってどうなの? やっぱり本命が剣だったから?

 私は神殿内の惑星管理の神器を思い出す。


(剣が本命だから鍵言は魔剣で反応したと?)


 この世界のあらゆる事象は全てそれで管理しているのだ。私が新魔法を認めると世界中に拡散されるのは私が管理者だから。以前ならミズキも対象だったけど今は普通の女子だからね。

 ハルカは剣士だからか羨望の眼差しを向け、


「普通にその魔剣が欲しいかも」


 私は時間指定で公開するしかなかった。


「これは認めざるを得ないよ」


 今回は衆目に晒された状態で作り出したから、アキラが狙われる事を想定しつつね。

 幸い、同じ食堂に賢者職の者は居らず、剣士達と神官達が呆然としていただけだった。

 私は周囲を探索したのち神器に指示を出す。


(なら賢者職に伝わる前に公開しておこうか)


 それは視界内にて行う管理方法だった。

 直接魔力膜を出しても良いけど、教会内で女神本人だと気づかれるのは良くないからね。

 接待が始まって出るに出られなくなるから。

 一方、ハルカは耐えきれず懇願していた。


「アキラ、私にも作って!」

「作るって得物があるだろ?」

「柄だけの得物よ、これ」

「ああ、魔力剣だったのか」

「魔力で剣身を作る柄だけど燃費が悪いから」


 確かに燃費は悪いよね。

 ハルカの装備は再構成時に割り当てただけの初期装備で駆け出しが使うなら問題はない。

 だが、ハルカの場合は高レベルだった頃の経験則が残っているので使い勝手が悪いようだ。

 一応、魔力がCランクなら使えない事は無いが、Aランクだった頃の使い方をすると、保たないだろう。総量から何からが異なるからね。

 アキラはハルカが剣身を示すと目を瞑って作り出していた。この魔法は空間魔力を使うから自身の魔力量は影響しない。影響するとすればイメージと魔力制御だけだろう。それでも魔力がCランクであれば問題なく作り出せるのだ。

 アキラは所有者を指定した上で無事に作り終えた。


「こんなのでいいか?」


 ハルカに手渡せた事がその証拠だから。

 指定せずまま手渡すと魔力に戻るからね。


「うん! 振ってもいい?」

「周囲に気をつけろよ」


 ハルカは周囲を確認しつつ、身につけていたスキル外の動きで細剣を振る。剣術スキルと違う動きは新たな剣技を作るきっかけになったかもしれない。名付けるならミズキ流だろうか。


(これはこれで別系統で登録かな? 今の使い手はハルカのみになってしまうけど・・・)


 ミズキと同名なのは仕方ない話だけどね。

 その間のハルカは何度か振っていたが、


「あら? 職業補正が加わった・・・?」


 私が登録した直後より威力が増した。

 補正無きままならそこまででは無かった。

 今のままだと死人が出る威力となったのでハルカは振る事を止めて細剣を納剣した。


「威力はともかくしっくりくるわ」


 伊達に元勇者ではないって事だね。

 表沙汰にすると狙われるから言えないけど。

 勇者の召喚が叶うまでは捜索は続行だから。


「それは良かった。これでパーティの生存率が引き上がるなら、俺としても大助かりだわ」

「そうね。私達にはフレア様が居るからどうあっても死ぬ事はないし」

「だな。フレア様々だわ」


 というか下手に敬称付けないでよ。

 教会外ならともかく教会内は危険だからね。


「様付け禁止。普通にフレアって呼んでよね」

「そ、そうでした。ごめんなさい」

「ああ、そういえばそうだったな」


 一応、私の同名を使う事は禁忌ではないのだけど過激派に聞かれると面倒なのよね。同じ名とは何事だって騒いで、改名を押しつけるの。

 そこであえて本人ですとは言えないし。

 毎回、無視して後で罰するまでがセットだ。

 その罰は三日ほど口がきけなくなる物だね。

 筆談も不可としているから、三日間の意思疎通も不可となり、執務が滞る罰となっている。

 それであっても懲りずに行うから面倒なの。

 ともあれ、そんなやりとりを行ったあとは、


「やっときた。魔物肉のサンドウィッチか」


 待ちに待った遅い昼食である。

 私達の換金後に調理された狼肉と魔物肉。

 肉は美味しいけどパンが味気なかった。

 ハルカはウエイターを呼び寄せて水を求め、


「黒パンだから水分が欲しくなるわね?」

「ここで白パンが作り出せたらいいけどな」


 アキラは私が知らない単語を口走る。

 ハルカはそれを知っているのか苦笑しつつ届けられた水を口に含んだ。


「ええ、果物、でもあれば可能よ?」

「だとさ、フレア?」


 私も気になっていたので次の方針を固めた。


「それなら次は果物が採れる街に向かおうか」


 このパーティのリーダーは私だからね。

 一時期は八八八のハルカも今は一だし。

 アキラは魔法行使だけでレベル三だった。

 賢者は魔法を使った分だけ向上するもんね。


「「賛成!」」


 ちなみに、換金額は魔石を含めて三千万レアだった。それは状態が最高品質だったからね。

 これらは時間の止まった空間内へと収める無限収納スキルによる恩恵が大きかったため、アキラ達も欲したので私の権限で与えてあげた。


「それで白パンが出来たら、次はどうする?」

「卵を使って、フレンチトーストかしら?」

「ああ、それもあったか。砂糖は高級じゃ?」

「高級品だね。果物から抽出する手もあるよ」

「そうなると自炊が捗るな?」

「自炊しないと肥っちゃうもの」

「そ、そうだな。肥るよな・・・やっぱり」

「今の二人の身体なら肥らないけど?」

「「え?」」


 換金額は枚数に換算すると白金貨三枚となるが、平民だったので銀貨三百枚で支払われる事になった。大半はギルド口座行きとなり、その日暮らしの貨幣を何枚か持ち歩く事になった。

 とはいえ全て懐に入れる訳ではないけどね。

 それらは全て無限収納スキルへと収めて、使う時だけ出すように指定した。


「健康体だよ? 肥る要素はないでしょ」

「「あー、そういう事だったのかぁ」」

「というかハルカの登録はどうするの?」

「ま、前の情報が残っているなんて事は?」

「色々と変化してるから大丈夫だと思うよ」

「前の情報ってどういう事だ?」

「実はね、前の子ってハルカの事だったの」


 装備品なども同じように収めているので私が僧衣を着る際に使っていたスキルと知って、アキラは大いに目を丸くしていたけれど。

 今は別の意味で目を丸くしているけれど。


「は? チ、チートマシマシってお前かよ?」

「わ、若気の至りということで・・・」


 ここで勇者の名称を出さないあたり、配慮は出来ているようだけど。




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