第11話 想定外は突然やってくるのな。
それからしばらくして、フレアがようやく立ち上がった。それは俺の主観時間で言うところの三時間は経過しただろうか? 時計が無いから実際はさらに時間が経過したように思える。
俺はフレアが立ち上がると隣へと移動し、
「昼飯を食べないままだったから腹減ったぞ」
腹を押さえながら困った顔で詰った。
フレアは思い出したように苦笑したが。
「ごめんごめん。昼食代を渡して無かったね」
「本当だぞ。お陰で腹と背中が・・・はぁ?」
するとその直後、フレアの背後に妙に見覚えのある顔立ちをした女の子が姿を現した。
「・・・」
格好的には女剣士なのだが、赤髪ロングのポニーテール、キリリとした表情と白い肌。
(立ち姿が様になる・・・ハルカ、だよな?)
細剣使いで高校総体に出るほどの実力者の。
というか何故、ハルカがここにいるのか?
俺は空腹すら忘れてしまい呆然と眺めるだけしか出来なかった。
一方、仮称:ハルカの方も、
「は? ア、アキラ?」
俺に気づいたらしい。
(ああ、仮称が取れてハルカで確定したわ)
そういえば先ほど鏡で確認したのだが、痩せた俺の姿は高校時分と同じ容姿になっていた。
赤髪で褐色肌、赤い瞳という差はあれど、昔の自分と御対面した時は驚きだった。
それもあってかハルカは何故か涙した。
「アキラだぁ!」
涙して勢いのまま俺に抱きついてきた。
「おぅ」
「本物、本物だぁ」
「は? はい?」
そんなハルカの様子を見たフレアだけは何故かきょとんとしたままだった。一体、どういう関係なのだろうか? フレアの後に出現していたから、何か関係があるとしか思えないが。
ハルカはひとしきり泣いたあと、俺から離れた。涙と鼻水でグシャグシャじゃねーか。
「ほい、洗浄っと」
「あ、ありがとう」
「ところでなんでハルカがここに?」
「それは私の言い分なんだけど?」
「というか二人って知り合いだったの?」
三者三様にきょとんとなった。
その後、昼食を兼ねて自己紹介をする羽目になった。今更、自己紹介も何もないけどな?
「えっと、ハルカです。職業は魔剣士で、実年齢は二十九才のしょ、処女です!」
「そこまで言わなくてよろしい!」
「だってぇ、一番大事な事だもの!」
どう大事なんだよ?
昔からそういう所は隠さないよな、こいつ。
その手の言葉を下手に口にすると、周囲の下品な野郎共が黙っていないと思うのだが?
いや、ここは教会の中だから居ないのか。
「はいはい、次は私ね。フレアです。職業は見れば分かるけど神官で、アキラの嫁です!」
うん、嫁だな。嫁という関係ではあるな。
寝床を共にしていない仲間ってだけだが。
ただ、ハルカの反応は尋常ではなかった。
「嫁!? あ、まさか先ほどの話って?」
「そうなるね!」
「そうなんだ! よ、良かったぁ〜。これなら安心して開けるよぉ」
「あ、安心って・・・?」
「だってぇ・・・だったし」
「そ、そうだったのぉ!」
一体何が良かったなんだ?
二人してコソコソと話し合う姿は妙に仲がよさげに思えた俺だった。
「一時期は諦めていたけどね。諦めて邁進して酷い目に遭って。でも、耐え忍んで良かった」
「こうなるとは思えなかったのに?」
「うん。でも、結ばれた縁って簡単には解けないじゃない? 私は生まれて直ぐだったから」
「あー、うん。それはあるね」
いや、何の話をしているんだ?
俺だけ放置とか流石に泣くぞ?
一先ずの俺は咳払いして話題を戻す。
「「あっ」」
「最後に俺だな。アキラです、年齢は二十九才でフレアの夫で、職業は賢者だな」
「賢者! 賢者なのぉ!」
ハルカは勢いよく立ち上がり抱きついた。
「お、おぅ」
「やっぱり相性的なものもあるのかな?」
今度はフレアが妙な嫉妬を燃やしていた。
賢者だから何なのかって話なのだけど。
するとハルカは俺のきょとんを余所に、
「賢者職って魔法が作り出せるから羨ましいって思っていたの。昔の知り合いにも居たには居たけど、魔法研究よりもバカスカ撃ちまくる脳筋賢者だったから、一人で戦う羽目になって」
俺の知らない賢者事情を打ち明けた。
最後だけは尻すぼみで俯いたけれど。
へぇ、脳筋賢者なんてのも居るのか・・・。
(それよりも一人ってどういう意味だろう?)
フレアは思い出したようにそれを口走る。
「そういえばそうだったかも。もしかすると何かしらの新魔法を作り出せるかもね。女神様が認めたら新魔法だけが世界中に拡散されるし」
その女神様が何を言ってるんだか。
「へぇ〜。女神様が認めたらって、名前は?」
「そこは伏せられるよ。貴族のやっかみ対策でもあるからね? 平民が新魔法を作り出したとあれば殺してでも自分の功績としたがるから」
この言い草を見るに過去にあったのかもな。
それを修正して名前を隠すようになったと。
いつの世も、何処の世界でも、特権階級の暴走で法改正が成されるのな。世知辛い話だわ。
俺はそんな二人の苦笑を眺めつつ、
「ふ〜ん。まぁでも俺の知る魔法はまだ少ないから、作るとなったら結構先かもしれないな」
思った事だけ口にした。
今出来る事なんてたかが知れているしな。
「ただまぁ、その最中に何らかの巻き込まれが発生したら解決に尽力はするけどな? 各地の食べ歩きの旅を延々と邪魔されたくないし」
賢者職がある意味でのチートならそういう物が有っても不思議では無いが、こんなのはチートに入らないとフレアも言っていたし、今は出来る事から行うしか無いだろうから。
「俺の目的はあくまで食べ歩きの旅だからな」
「アキラって相変わらず外食が好きなのね?」
「それだけが唯一の楽しみだからな!」
「それで病気を作っていたら世話無いけどね」
「うっ。それは言わないでほしいぞ」
「へぇ〜。病気なんて作ってしまったの?」
「ハルカの忠告を無視してすみませんでした」
「まぁいいわ。それで再会が叶ったのだし」
「忠告なんてしてたの?」
そうそう、忠告があったよなぁ。
口走ったのは毎度の言い訳だったけど。
それらは全て十年前の話だった。
ハルカはもう亡くなった者として整理していたからあれだけど、目前で若い頃の生きた姿を見せられると色々と思い出すよな。
ハルカにとってもそれは同じのようだ。
「学生時代から行っていたからね。若い頃は基礎代謝が高かったから今のようにスラッとしていたのだけど、卒業前だったかしら? 剣術部を辞めてフラッと食べ歩きの旅に出たのって」
「そういえばそんな事もあったなぁ・・・」
「は? け、剣が使えるの?」
おや? フレアがきょとんとしてる。
俺とハルカは顔を見合わせ、首を傾げた。
女神だから知らないなんて事は無いよな?
俺はどうしたのもかと考えながら、
「実質、ブランクが十年以上だから、使えたとしても立ち回りだけだと思う。今は身体が付いていくか分からないし・・・」
自分の身体と相談してみた。
一応、出来ない事はないと思う。
だけど得物が無いから無理かもな。
「確かに、空白期間があるなら勘を取り戻さない限り無理かもね。とはいえ職業補正が効かないから剣術が使えたとしても・・・」
「ああ、そうか。剣を持つ事は叶わずだね」
ここで職業補正が出てくるか。
後衛として魔法補助を行う者が前衛に出てくるのはおかしな話だものな。ハルカのように遊撃が可能なら話は変わるけど俺とフレアはどうあっても後衛から離れる事は出来ないだろう。
ただな、
(そういえば製造魔法で作り出せないかね? 俺の愛刀を杖に仕込むのもありかもしれない)
久しぶりに剣の話をしたからか振りたくなったんだよな。今の身体なら問題は無いだろう。
職業補正は効かずとも魂が技術を覚えているはずだから。
俺は昨晩フレアに聞いた鍵言を思い出す。
(製造・・・だったか。魔法名がまんま鍵言だったのは驚きだったけど)
そして自身の愛刀をゲームなどで使っていた長杖へと仕込むイメージを思い浮かべた。
触媒の魔石はフレアの色を参考とした。
大きさは振っても邪魔にならないサイズで。
鞘の部分も含めて総金属製とした。
(金属は一番固い金属と次に固い金属で)
組成だけは分からないから、ゲームで知った金属をイメージしてみた。最後はイメージを固めたうえで、製造魔法の鍵言を発した。
「製造? あ、魔杖、製造? 魔剣製造?」
だがここで、通常の鍵言だと上手くいかなかったので、単語を追加して発してみた。
「「あっ」」
すると二人の目前で一本の魔杖が出現した。
いぶし銀の長杖と小さな赤い魔石付きのな。
但し、柄の一部と鞘の一部は木製だったな。
そして浮遊状態から俺の前まで降りてくる。
唐突に現れたから周囲も騒然としていた。
俺は周囲を無視して杖を取り、立ち上がる。
試しに型を流すとスムーズに動かせた。
「長杖でも振ることは可能みたいだ」
次は杖を捻って鞘を取り、鋭利な刃を表出させた。試しに魔物の骨を刃に置いてみたらスパッと切れて落ちてしまった。
「切れ味が滅茶苦茶いいな、これ?」
「普通にその魔剣が欲しいかも」
「これは認めざるを得ないよ」
ただまぁ周囲の騒ぎが酷すぎて二人の会話が聞こえなかったけれど。
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