第10話 何事も知らぬは亭主だけだね。

 教会支部へと到着した私は自身と似通っていない石像前に跪き、祈りを捧げた。


(毎回思うけど、おっぱい盛りすぎでしょ? 私の乳首は埋没してるからほとんど見えていないのに、どうしてこんな形になったんだろう)


 祈りを捧げる前に少々愚痴ってしまったが、こればかりは芸術家の妄想の範囲で作り上げられた石像なので、仕方ないとして諦めている。

 その後、肉体との連動を切った私は女神としての体で肉体から出ていく。石像のような半裸ではなく、神官服と同じ僧衣を着た状態で。


『アキラの登録も順調みたいだね。さて、私も自分の仕事をさっさと済ませてきますかね?』


 そのまま空間内に神界への門を開けて、アキラの身体を拵えた、私達の神殿へと舞い戻る。


「私が戻ってきた時に、ミズキがここに居なかったのはそういう事だったのね。さて、報告をあげて、ミズキの処遇を決めましょうかね?」


 それは残念美神が行った過干渉、積もりに積もった始末書を私達の親神に届ける事だった。

 親神、私達を他の世界から拾い上げてくれた男神様の事である。私とミズキの付き合いは同じ世界出身で義姉妹であった事が所以である。

 私達は血の繋がりの無い姉妹、腹黒姉がミズキで、私は妹として辛い人生を歩んでいたね。

 それがどういう訳か二人で事故に巻き込まれ死して亜神となる道を選んだ。亜神を選んでからもミズキの腹黒さは留まる所を知らず、


「果ては残念美神と揶揄されるようになった」


 女神ならば善神であるべきなんだけど、ミズキは生来の性格からか邪神に類する異端者になっている。親神様もそれが改善されるように願って私と共に世界運営を行わせたのだけど自分の好き勝手に世界運営が出来ると思い込んでいる所為か干渉が過ぎてしまった。


「魔人種にとっては敬うべき神ではあるのだけどね。畏怖されて機嫌を損ねると消される恐怖心を与えるというのは少々度が過ぎているよ」


 アキラには性格が分かっていないと言ったがその本質は自分本位な邪の部分を言ったのだ。


「世界を立ち上げて過干渉してきた回数は三万を軽く超えている。気に入れば残すと思ったのに、気に入っていても、ダメなら滅するとか」


 そういえば人形遊びでも平然と破壊を繰り返していたね。私が泣けば泣くほど喜んで、実の父親に甘やかされて育って、私に対して新しい人形を放り投げて、壊して笑って。

 そんな根性腐れでも高位の魂を持っていた。

 結局、個人の性格とは、その者が育った環境に影響されると、思い知らされた私だった。

 一先ず、報告書を認めた私は親神様直通の配達箱に投函した。

 そこには例の件の提案書も含まれている。


「あ、権限変更が届いた。全権を私が所持してミズキは堕神となってしまうのね・・・」


 堕神、神の地位を完全に剥奪する事。

 亜神でもなく神から人へと堕とされた。

 高位の性質も堕神と共に消え去り、そこらの人族種と同等になる。一応、レベルなどはカンストでは無いにせよ本人が指定した状態で固定化される。こちらから見たところレベル四〇で気配隠蔽等のスキルを所持しているみたいね。


「さて、加護だけは与えないといけないから」


 私は堕神のミズキに、成長阻害の加護を与えた。それは簡単に成長させないための措置だ。

 

「あ、気づいて、怒ってる? どこまでいっても自分勝手なんだね。こうなると・・・駄女神の称号も与えてあげようかな?」


 それを与えたら怒り心頭になって酒場で叫んでいたミズキだった。今のミズキは神の身では無いから、恐くも何ともないけどね。

 そして次に行うのは、


「次は保管されたミズキの神体・・・中身の人格は従順になるよう弄らないと」


 私達が緊急用として保持している神としての身体の措置だった。堕神となった者の神体は本体とのつながりが消えた所為か不安定だった。

 擬似的に存在する人格を弄り、願われた通りに動く人形としてあげた。

 それは脱げと言えば脱ぎ、


「というか、おっぱいが育ち過ぎでしょ」


 寝転べと言えば寝転ぶ代物となった。

 子供を成せと言えば生理も起こす的なね。

 私は人形に対して布を着せて親神様へと送り届けた。肝心の提案は無事に受け入れてくれていて見返りでミズキを与える事になったけど。

 しばらくすると召喚陣が届けられた。

 私は召喚陣を解析して、陣に空白がある事に気がついた。ここに勇者職を当てはめるのね。

 それと与えるスキルやら属性は固定なのね。


「それなら勇者の職業をハルカから剥奪する必要があるからハルカをここに呼び出して・・・」


 引き籠もっているはずの女勇者ことハルカを神殿へと招いた。容姿は青髪のボサボサ・胸は無くお尻が大きな二十九才・処女だった。


「ふぁ? あれ? フレア様?」

「久しぶりね、ハルカ?」

「お、お久しぶりです」


 格好は当然ながら裸なのよね。

 今は魂が神殿に来て、身体は死んだように眠っているだけだから。否、死んだんだけどね。

 私が呼び出した際に不死属性と職業が消失して高濃度の魔力を肉体だけが浴びたから。

 肉体はそのままアンデッドと化していた。

 不死属性は消えたけど凶悪な肉体だけは残ったって事よね。邪神の加護付きの肉体だけが。

 それはレベルとスキルを宿した凶悪な肉体だ。職業だけは魂に不随しているから弄れないけど、他は肉体に与えているから凶悪なモンスターと化しても不思議ではないのだ。


(もしかすると新魔王は、アンデッド目的でハルカを小屋に隔離していたのかもしれない?)


 それはともかく、私は事の経緯をハルカに打ち明ける。


「誠に勝手な話なんだけど、勇者の職業は他者に引き継いでもらうことになったから、今後は魔剣士として生まれ変わって貰えないかしら」

「え? わ、私は勇者ではないので?」

「ええ、ここに呼んだ際に剥奪していてね、肉体からは不死属性が消え失せて、魔力中毒で亡くなった事になっているの」

「え? な、亡くなったんですか? 私」

「亡くなるに決まっているでしょ? 普通の人族種が留まるには危険な場所だったのよ?」

「あ、そういえば、そうだったかも・・・」


 意外とポンコツなのよね、この子。

 勇者の頃は形を潜めていたから気づけないけど、亡くなった理由も卒業証書が飛んでいって拾うためだけに車道に飛び出したらしいから。

 そのまま十八才で転生して、およそ十一年の月日をこの世界で生きてきた。


(実年齢で言えばアキラと同年代かしら?)


 最後は処刑前に逃げ延びて生きてきた。

 勇者だった期間は九年ほどだったけど。

 残り二年は引き籠もり生活だったのよね。


「それでどうする? 生まれ変わるなら新しい身体を用意するし、転生したいなら魔力に」


 戻すと言おうとしたら、恐怖心からか即座に返答が出た。


「い、生きたいです! 勇者だった頃に出来なかった事への未練もありますので・・・」


 私もこの個性を無くすのは惜しいのよね。

 高位の色合いは失っても候補者であるのは変わらない。というよりミズキの加護が消えたからか、魂の色合いが薄紫に戻っているのよね。


(そうなるとミズキが全ての元凶だったと?)


 このまま私の加護で護ってあげる方がいいかもね。墜ちた神になったとはいえ、知識だけは残っているからね、あの水の駄女神も。

 私は新しい水晶を用意して、アキラを元にした性質ステータスでハルカの肉体を再構成した。

 スキルは剣術と限界突破(一時間限定)を与えておいた。成長倍加等は付けないでおいた。

 今後は地道に成長していって欲しいからね。

 属性は火と光、加護はアキラと同じにした。

 魔剣士は賢者と同じく無詠唱が使えるから。

 これは剣術経験があるかどうかが鍵だったから、アキラには与えられなかっただけである。

 一通りの準備を終えた私は思い出したようにハルカへと提案する。


「そうそう、ハルカもあれなら嫁いでくる?」

「は? な、なんの事ですか?」

「私ね、実は最近、婚姻したのよ」

「え? め、女神様が婚姻!?」

「ええ、実はハルカと同じ世界からの転生者でね、一目惚れだったのよね・・・」

「そ、そうなんですかぁ!?」


 やっぱり女神が婚姻する事自体が珍しいのかしら? 割と頻繁に婚姻しましたっていう同僚が多いから当然だと思っていたけど。

 私はそのうえで過去の事例を口に出す。


「それでどうする? 以前、婚姻の誘いを断って、貴族の子息に襲われそうになっていたでしょ。身を守るためなら必要な事だと思わない」

「うっ・・・は、はい。そう、ですね」

「何も無理してまで夜伽をしろなんて言わないわよ。書類上、そういう関係で居た方が安全ってだけでね?」

「そういう意味だったんですね。良かったぁ。好きでもない人に開くなんて出来ませんので」

「追々、好みの男性が現れたら離縁してもいいわよ。たちまちは身を守る術でしかないから」


 ただこれも、アキラには事後報告となってしまうけどね。これも何かの縁なのだから関わりを持った方が得策だろう。両者は亜神と成り得るだけの潜在能力を持っているのだし。

 こうしてハルカは側妻として隣に立った。

 その後、召喚陣を神託で教会へと降ろした。




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