第9話 時計が無いと不便でしかない。

 俺とフレアが宿場街に到着したのは太陽が天辺に昇った頃合いだった。二人で結構な距離を歩いてきたのに一向に疲れる気配もなく、到着した時には普通に空腹感を感じただけだった。

 するとフレアが一瞬で神官服を羽織って、


「そうそう、アキラには身分証が無いから、私がアキラの代わりに入市税を払っておくね?」


 目前に並ぶ人の列を指さして教えてくれた。

 そういえばそういう仕組みがあるんだっけ。

 知識として持っていても現物が無ければどうしようもない。フレア自身は割と頻繁に降りているからか身分証やらを所持しているようだ。

 フレアの右手には鉄製のカードが有った。

 大きさ的にはトランプのカードと同等か?

 それがギルドカードと呼ばれる物のようだ。


「え? ああ、そうか。草原からスタートしたから、身分証の類いは持ち得ていなかったか」

「これらのギルドカードは、街でしか発行していないから、初めて村から出た若者なんかは、同伴者からお金を借りて登録する事が多いよ」


 ふむ、俺が持っていなくても問題は無いのか。だから服装も村人Aのような格好なのか。

 それと入市税なる物はギルドカードを持っていない者やら商人達が支払う税金らしい。

 入市税は見たところ鉄貨二枚だった。

 俺はそのままフレアの隣に立って、


「罪歴を調べますので、水晶に触れて下さい」

「はい、分かりました」


 犯罪歴を調査する水晶に触れた。

 結果は白なんだけどな。ここで黒が出たら外に追い出されるか、捕縛されるそうだ。

 この犯罪歴を調べる水晶は神からの賜り物だそうで、提供主は俺の隣に居る女神様らしい。

 その後、入市税を支払ったフレアと共に宿場街へと入市した。

 なお、フレア曰く入市税は国毎に異なり、


「鉄貨二枚で済む場所もあれば銅貨五枚の国もあるんだよ。ここは比較的良心的なんだよね」


 今入った街は一番安い税を得ているらしい。

 ただな、枚数だけ言われても、貨幣換算が出来ないから高いのか安いのか分からなかった。


「それらの価値は幾らくらいなんだ?」

「そうだねぇ。アキラが知っている貨幣で言うと、鉄貨は紙幣の一番安い金額になるかな?」

「に、二千円の入市税だと・・・」


 だから問うてみたら想像よりも高かった。

 想定では二百円くらいかなって思ったのに。

 フレアは苦笑しつつ続きを教えてくれた。


「そうなるかな? あと通貨単位はレアだよ。鉄貨だと一レアで一枚だね。通貨単位と通貨は魔人種領でも同じだから、何処で取り出しても問題はないの。有るとすれば窃盗関係かな?」

「敵対種族だから盗っても良いって感じか?」

「それは両者共が同じ扱いだね?」


 一応、世界の基礎知識はあっても現物を見てみない事には理解するのも難しいもんな。

 主に使われる貨幣は鉄貨・銅貨・銀貨のみ。

 金貨と白金貨は王侯貴族が用いる貨幣で、平民では商人以外で見る事叶わずの代物らしい。


(つまり、銅貨は一万、銀貨は紙幣がないから精々十万ってところか。それ以上なら一枚が百万と一千万と換算すればいいな。まぁ金貨以上は触れる事、叶わずだから無視すればいいや)


 俺とフレアはそのまま教会支部まで向かう。


「そうそう、到着したら冒険者ギルドへの登録と素材の換金を行うからね。魔物素材はアキラが倒しているから、そのつもりで居てね?」

「え? いいのか? 俺が貰っても?」

「私はアキラのお嫁さんだもの。私が良いと言っているのだし、気にしないでよ」

「そ、そうか。うん、そうする」


 それらが一体幾らの金額になるのか今の俺には理解出来ていなかった。ただ、道中で聞いた盗賊共が狙う代物であるなら、かなりの高価値になるのではないかと思われる。

 俺はその際に不意に思った疑問を口走る。


「というか盗賊はどうやって換金してんだ?」


 するとフレアは苦笑しつつ答えてくれた。


「行商人だよ。稀に居るからね、悪人向けの」

「ああ、そういう・・・」


 俺の疑問は一瞬で霧散した。

 これは、あれだ、前世の職業と同じ。

 違法企業を飯の種とする違法企業。

 持ちつ持たれつを平然とやってのける、な。

 それらの行商人は直接悪事を働いていないから門兵達に捕まる事は無い。罪歴でも白と出るから、売った方も買った方も両得という訳だ。

 その中で大損するのは襲われた者だけ。

 そう思っていたら、


「ただそれでも不幸罪歴が存在するから最終的には行商人も処罰される側に変化するけどね」


 困り顔のまま一つの事実を明かしてくれた。


「ふ、不幸罪歴?」

「うん。それはね、他人の不幸で儲けている者達に付与される犯罪履歴なの。それを相殺するには孤児院への寄付だけになってて、相殺しなかった者は、一定の閾値を超えると悪人と同じように死亡時に魔石が出てくる事になるのよ」


 そう、遺体が残らず魔石だけが地面に残る。

 そのうえ悪人の魂そのものが魔石に変化するから転生などは起こりえないらしい。死して魔石となり、消費されて空間魔力として漂うと。

 ちなみに、この世界の魂はそういった魔力から生まれ出ずる代物らしい。例外は俺や女勇者のような異世界出身者や女神様達だけだった。

 何はともあれ、そんな世界授業の合間に教会支部へと到着した。


「教会に到着っと。ギルドへの登録は何も書かなくていいからね。登録時のお金も渡しておくから受付で、それだけ言ってきてね」


 フレアは言うだけ言って俺と別れ、入口奥にある祭壇にて祈りを始めていた。その女神像は半裸で胸が盛られていて両乳首が見えていた。


(自身の石像の前で祈りを始める女神様の図)


 尻は大きいが他は大きな布で見えなかった。

 顔立ちは本人よりも厳しい目つきだけど。

 一方の俺は入口から右奥にある受付に目を向けた。なるほど、教会内にギルドがあると。


(確か、受付で登録申請をして、登録料を払ったのち水晶に手を翳すんだったか。そのまま診断されてギルドカードが作り出されると・・・)


 ギルドカードは各国に点在する教会に存在する冒険者ギルドで発行される身分証だった。

 つまり冒険者ギルドは教会の下部組織であり内部の身分的には神官職が冒険者よりも上なのだろう。実際は神官職が上と認識する者は極少数で王侯貴族の方が上と思う者が多そうだが。

 俺は受付内のウサギ耳の受付嬢に声をかけ、


「すみません、登録をお願いします」

「はいはい、ただいま〜」


 フレアに言われた教えられた通りの手順で登録作業を進めていく。発行されたギルドカードはフレアと同じ鉄板だったが手渡されたギルドカードに記された俺のステータスに絶句した。


(職業が賢者なのは置いておくとして、Cランクの中にAランクが四つもあるだと・・・)


 それは体力と生命力、抵抗力と回復力。

 幸運だけはBランクであり、他はCだった。

 他にも細々とした情報が載っていたが、


(文字化けしている部分は偽装的な代物なのかもな。フレアが気を利かせてくれたのかね?)


 他者が触れては不味い部分は化けていた。


(加護とスキル、偽装はともかく完全制限とかなんぞ? それよりも、耐性の睡眠無効って)


 化けていても読めるから不思議だよな。


(ああ、眠らなくてもいい無効特性か。これは夜の暇潰しでも見つけるしかないかね・・・?)


 どうも化けているように見えるのはこの世界の住人だけで俺や女勇者なら普通に読める日本語で構成されていた。隠す部分は隠し、見える部分は自分で把握しろってことなのかも。


(そういえばステータスを現すような魔法は存在しないとか言っていたもんな。ギルドに登録するまでは誰であれ状態が不明なままと・・・)


 なお、ランクアップに関しては累計で十件の達成履歴が貯まると一つだけ上がるそうだ。

 鉄・銅・銀・金・白金等級へと。

 但し、一回でも失敗すると降格されてしまうそうなので依頼選びは慎重を期す必要がある。

 鉄等級ならば、どれだけ依頼に失敗しても降格はなく、登録の抹消も行われないそうだ。

 それ以上ならその限りでは無いらしいが。

 再発行は金貨一枚が必要なので無くさないようにと念を押された俺である。再発行、高っ!

 登録後の俺は祈りを捧げるフレアを待つ。


「長い祈りだな・・・」


 フレアは固まったように微動だにせず祈りを続けていた。フレアの邪魔をするのも悪いので教会の椅子に座って様子見を続ける俺だった。




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