第8話 均衡維持は必須の仕事なのよ。

 その日はそのまま草原で横になって様々な出来事を話した。それでも話せる範囲は限られているから、主に話したのは私が見てきた人魔大戦の出来事だったけど。


「一騎当千かぁ。一人で魔人領域に突撃するとはな? 他に仲間とかは居なかったのか?」

「居たには居たね。公爵次男の賢者とか、教会から派遣されてきた女神官とか、冒険者の中からも屈強な男性達が付いていって・・・」


 それでも各人のレベルの差があったから速攻で敗北して、女神官も治療に専念するために後衛に残った。彼女はハルカは一人で頑張る事しか出来なくて、泣き言を発する余裕すら持つことを許されなかった。勇者だからって理由で。


「だから一人で特攻したと・・・」


 ここで私の加護が加わっていたなら手助けも可能だったのだけど、既に与えられたミズキの加護が邪魔をして見る事しか許されなかった。


「特攻して勝って帰ってきて畏怖されて処刑」


 それもあって他人事的な認識になってしまうのよね。第三者として世界の行く末を眺める。

 中立的立場で戦後処理を行って処刑しようとした者達を罰した。まだ終わっていない戦いを既に終わった事とした甘い考えを正すために。


「神も神で結構、大変なんだな」

「そうね。大変かもね。思考パターンの分からない不可思議な同僚が居ると特にそう思うよ」

「そ、それはなんとなく、理解が出来るかも」

「え? 理解が出来るの?」

「前世の女上司がそんなだったから。気分屋なのか前に命じた事と後に命じた事が異なって」

「ああ、それはよく似てるかも」


 本来なら私の管理下だった勇者が、魔人種の女神の管理下にあるとかね。ミズキは何を思って、そのような事を行ったのか不可解だった。

 それなら魔人種で転生させた方が都合が良いと思うのだけど、その選択はしなかったから。

 そんなこんなで太陽が出てきて、


「結局、寝ずに朝が来てしまったか」


 私は明るくなってきた草原をぐるりと眺めながら自分達に近いところから回収に向かった。


「それでもさ? 夜襲してくる魔物を狩ることも出来たのだし、一石二鳥でしょう? 流石に回収だけは明け方になってしまったけど」


 私は肉塊を拾い集めつつアキラに応じる。

 それは夜行性の魔物達だった。

 昼間の草原は狼などの動物が現れるのだけど夜間は狼から進化した魔物達が徘徊するのだ。

 アキラは魔石を拾いながら困惑していた。


「それは、そうなのだが」

「どうかしたの?」

「初めて魔法を使った時は驚いたけど」

「けど?」

「一発撃って範囲瞬殺ってチートなんじゃ?」


 ああ、チートを求めていないのにチートを得ていたと困惑中なのね。


「残念ながらチートではないわ」

「チートではない?」


 これは私の捉えるチートとアキラの捉えるチートのすり合わせが必要かもね。この世界基準で言えば、こんなのはチートですら無いのだ。


「今のアキラはレベル一しか無い。でも、今のアキラには職業補正が加わってしまうのよ」

「しょ、職業補正・・・?」

「そうよ。無詠唱はともかく、賢者職は自動照準と広範囲照準がパッシブで働くの。元々は勇者の補佐で働く職業みたいなものだもの。自分の持つ魔力を効率良く使う必要もあるからね」

「おぅ」


 それだけで驚かれると苦笑するしか無いが。

 元々の健康体ならオールAランクとなっている。それをCランクにまで落とし込んでいるので、ちょっとした魔物が相手なら簡単に狩れてしまうのは仕方ない話だった。そもそもこのCランクは一般的な冒険者と同等だからね。

 出来の悪い者なら最低のEランクとなり、駆け出し冒険者ならDランクが一般的だ。

 Bランクは第一線で戦える猛者となる。

 勇者のお供などはBランクがほとんどだ。

 これがオールAランクならハルカと同等になってしまうので、チートを求めない彼の願いにも十分当てはまるのだ。


「だから、チートと思う必要はないんだよ」

「そ、そうか。職業が影響していたのか」


 私のレベルはともかく、他はアキラと同じランクにしているしね。制限解除は任意だけど。

 なお、ステータス偽装では、私とアキラのランクを駆け出しのDランクで表記している。

 あまり高ランクが過ぎても絡まれるからね。

 このステータス偽装は看破スキルですら完璧に誤魔化すから調べられる事は一切無いのだ。

 私は最後の肉塊を回収したのち蹴伸びした。

 真面目な顔を作ったのちアキラを見つめる。


「一応、言っておくけど」

「け、けど? あっ」


 アキラは挙動不審で魔石を落とした。

 まだ動揺から抜け出ていないみたいね。


「女勇者のお供は今のアキラより強いからね」

「へ?」

「全員がレベル二〇〇前後、職業補正が付いたうえで魔人種に負けたから後は分かるよね?」

「こ、これが、チ、チートじゃない、だと!」

「だから言ったじゃん。違うって」


 私はアキラから魔石を受け取って片付けた。

 ちなみに、ハルカはカンストまで達してはいないもののレベル八八八まで急成長している。

 ハルカ達が同じように魔物を狩ったなら、ここらの魔物共はリポップする事すら許されないだろう。それだけの差がアキラとの間に存在する以上はチートではないと理解出来るだろう。

 そんな魔物共よりも厄介なのが魔人種なのだけど、その魔人種も気分屋のお陰か知らないけれどハルカを超える魔王を生まれさせたから、


(今の人族種だと、太刀打ちが出来そうにないよね・・・下手に干渉出来ない事がもどかしい)


 それこそ、新しい勇者となるべき者達を見つけて教会で保護するくらいしないと割に合わないかもしれない。とはいえ処刑事案があるから得られたとしてもやりたがる者は居ないよね?


(それかアキラ達の居た世界神に手助けしてもらう?)


 でも、男神様に借りを作ったら後が恐い。


(ああ、それならミズキを差し出しますって言えば受け入れてくれるかな?)


 おっぱいが大好きだったはずだから。


『私を勝手に差し出すな! 爺の元とか嫌!』


 何か聞こえたけど差し出してもいいよね。

 パワーバランスを崩そうとする駄女神だし。

 均衡を取る事を是としないといけないのに均衡を取らないで、片方だけ強化するのは困りものだもの。たちまちは異世界から喚び出して死亡または魔王討伐が完了したら元の世界の元の時間軸に戻すようにすればいいかもね。


(各種チートもハルカを例とすればいいしね)


 そんな思案もそこそこに、私は街道の焚き火を消して焚き火跡を無かった事にした。

 誰かが休んだ形跡だけは消さないとね。


「やっぱり神って凄いなぁ」

「そう? 原状回復しているだけなんだけど」

「元に戻す必要あるのか?」

「盗賊対策と思ってくれると助かるよ」

「ああ、休んだ形跡から追われると?」

「うん。野宿した者の多くは曰く付きの金持ちと認識する悪人共が多いからね、困った事に」

「せ、世知辛いなぁ」


 私とアキラは街道を南に進み、距離はあるが比較的安全な宿場街まで向かう事にした。


「金持ちではないけど、魔物肉とか魔石を持っているだけでも狙われるからね。それらを換金すれば大金が簡単に得られるから分かるよね」

「い、命の扱いが軽い世界なんだな、ここは」

「軽いんだよ。だから同じと思わない事だね」

「ああ、気をつけるわ」


 その街には私の教会があるので換金ついでにちょっとした仕事を片付けようと思ったのだ。

 先ずは私とミズキを拾ってくれた男神へと報告を入れ提案ののちにミズキを差し出す準備を行う。そのまま惑星の全管理を私が引き継ぐ。

 各主祭神の名と惑星名もそのままとした。

 いきなり私に全て変えると大騒ぎだからね。

 なお、肝心のミズキの動向は、


(あらら、地上に降りてきてる。平の冒険者として人々の中に隠れるつもりなのね)

 

 私の場所とは異なるが、地上に降りて小国の冒険者ギルドにて大酒を飲んでいた。やたらと声が届いていたのは地上に降りていたからか。




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