第6話 惚れた弱みとでもいうのかな。

「喜んで!」


 私はついにアキラと心が通った気がした。

 先ほどは『一目惚れ』とポロッと本音を発してしまったけれど、私が理由を述べたからか心の壁が取っ払われて、受け入れてくれたのだ。

 私はアキラに抱きつきながら微笑んだ。


(心から嬉しいってこういう事なんだね)


 私は神だから、言わなくてもいい事は言わなくてもいいのだけど、アキラに隠し事をする事は真摯ではないと思えて伝えてしまったのだ。

 アキラは恥ずかしげにそっぽを向いた。


「さ、さてと、それなら、どちらに向かうか」

「それならさ、歩きながら話さない?」

「歩きながら、か。場所は分かるのか?」

「一応、探索魔法を使ってるから問題ないよ」

「探索・・・ああ、それで狼が肉塊と?」

「うん、あれも鉄串で焼けば美味しいよ」

「そう、なのか」


 説明の順序がバラバラとなった理由は、残り数十分で彼が旅立ってしまい、二度と会えなくなるから慌てた結果である。私が『間に合った』と言ったのは、それがあったためだ。

 そうしないと、こうやって抱きついて隣を歩く事も叶わなかったしね。


(一目惚れしたのに直ぐに失恋とか辛いし、お礼すらも出来ないってモヤモヤするもの)


 しかも神としての私を視認できて、会話も出来て、しかも触れる事が可能な魂って滅多に現れないからね。打算があったのは確かだけど、


(普通の人間が相手なら、今のように肉体へと宿っていないと、触れる事も会話する事も不可能だもの)


 それを素で行った彼が如何に貴重であるか理解は容易いだろう。

 神に触れる事が可能な魂を持つ者は修行の末に亜神へと変化する候補者でもあるからね。


(かつての私達がそうであったように)


 私も人の身では十五才前後で死亡して、見初められて、亜神として二十年間修行した。

 正規の神となって七年だから、精神年齢で換算すると実質は・・・四十二になるのかな?

 それでも人の年齢を加味する訳にはいかないから最初の十五年は無視する事になっている。

 その十五年間も壮絶な人生だったけど。


(そういう意味では年上女房になるかもね)


 一応、アキラには対人的な言い訳を発したが私が行った予防策は対女神でも適用される。


(上に申請して許可が得られたもんね。条件は自分の世界へ転生させる事。幸い、地球神は男神だったから、あっさり手放してくれたけど)


 これは門を潜る間に得られた許可だけど。

 ただこれも、女神が相手ならそうはいかなかっただろう。囲うくらいはやってのけるもの。

 私のように既成事実を作ったうえで、ね。

 その女神と同類なのは釈然としないけど、


(ミズキに奪われるのだけは絶対にダメ!)


 この世界にはもう一柱の女神が居て・・・ミズキに干渉されると奪われてしまう恐れがあったため、先んじて手を打っておいたのだ。


(私の旦那様として並び立ってもらうために)


 今は人の身で、魂だけが高位の男性だけど、私と共にあることで修行にもなるから、亜神になった際に改めて、説明しようと思っている。


(今はまだ出来ない話なのだけどね)


 それはミズキ自身が女勇者へと行った事と同じで説明には時期が必要なのだ。亜神になる前に説明すると欲が出たりして頓挫するからね。


(高潔であればあるほど変化し易いから)


 私の言う高潔とは魂が奇麗かどうかである。

 仮に本人の考えが利己主義だとしても、魂の色が奇麗ならば高潔なる扱いとなる。魂が穢れている利己主義なら、私に触れる事叶わずだ。

 その色は薄紫、紫色が濃ければ濃いほど亜神に近い状態となっている。亜神になると魂の色が変化して、自然属性が表に出てくるのだ。

 私なら火属性、ミズキは水属性が出てきた。

 それと世界神である私達の属性とは異なるが世界の魔力も自然属性で構成されている。

 それは火・水・土・空・闇・光の六属性だ。


(アキラには火と空を与えているし、追々だけど魔法も教えてあげないとね。戦闘は私が行うとしても生活するうえで必要な事でもあるし)


 この属性は属性魔法を使ううえで重要になる属性だ。一応、他の属性魔法も使えない事はないが、威力が極端に半減して意味が無いのだ。

 精々、生活魔法で使う程度が一般的である。

 治療魔法も生活魔法の中に存在するし、ね。

 ちなみに、ミズキが唾をつけた女勇者は全属性持ちだったが、それが祟ってか知らないが今では高潔とはほど遠い状態となっている。

 魂の色も玉虫色に変化していて、元に戻すのは容易ではないだろう。これもチートなる代物を求めて傲慢になった弊害なのかもしれない。


(近いうちに救ってあげないとね。ハルカも)


 何はともあれ、私はアキラと何処に向かうか話し合いながら街道を進んでいた。

 私は探索魔法の範囲を拡げ、


「一応、近場にも宿場街はあるけど、治安が少々悪いのよね」


 視界に映る地図を読み解いていく。

 これは自分の魔力で構成されているからアキラからは見えない事が難点なのよね。

 これもあとから改良しておかないと。

 するとアキラはきょとんと問いかけた。


「治安が悪い?」

「実は半年前に大きな戦があったばかりでね」


 それは人魔大戦があけて半年しか経っていないからだ。宿場街には怪我した者や弱腰で戦線を離脱した不良の貴族兵などが寝泊まりしていて、身ぐるみを剥がされる恐れがあるのだ。

 剥がしたあとの男は殺し、女は犯される。

 反撃する事も不可能ではないが、貴族兵を相対したくはない。私の立場を明かすと神殿騎士が駆けてくるし、信仰心にも影響が出てくる。

 大変不本意だが今はそのような世の中だ。

 すると戦と聞いたアキラは困惑していた。


「こ、この世界でも戦があるのか?」

「ええ、まだ幼いって言ったよね?」

「幼い? そういえば・・・言っていたような」

「幼いから文明を高度に発展させるために、ある程度の流血は必要なのよ。自分の用意した子供達が殺し合うなんて・・・不本意過ぎるけど」

「か、神も神で大変なんだな」

「大変なのよ」


 本当に大変なのよ。度を越した殺戮が出てくると直接出向いて罰を与える事も稀にあるし。

 あとは魔人種との小競り合いが起きると、


「同僚なんて何度も魔王を作り替えているし」


 平然と干渉して罰を与える事もある。

 私は行った事がないけどミズキは頻繁に行っていて魔人種に畏怖されるまでになっている。

 それを聞いたアキラは怯えが見えた。


「つ、作り替え?」

「人族種に負けるような魔王は要らぬって。神罰で滅して作り替えて新しく国を興させるの。無駄に何度も作り替えるから畏怖の象徴にもなっているね。まさに魔神って感じだけど他の同僚から残念美神って呼ばれる原因でもあるの」

「そ、それで残念美神、か」

「気が短いのか、気分屋なのか、付き合いの長い私でも、まだ性格が分かっていないからね」


 なお、私が管理する人族種は種類が豊富だから同じように出来そうにない。それがあるから多少の流血沙汰も仕方ないとして諦めている。

 ミズキと共に残念美神と呼ばれたくないし。

 この惑星の名も種族の総数から私の姓が選ばれているけど、ミズキの管理する種族が増えたら名称が変化するようにもなっている。

 これも本当なら、種族の均衡を保つ事が叶ったら、両者の姓で惑星名が統一されるそうだ。


(惑星サネェス、本当ならそうなる筈なのに)


 ミズキが頻繁に国家と種族を滅ぼしているから、今では私の姓で固定化されつつあるけど。

 ともあれ、その後もあれこれと探したが、宿場街は何処も似たような状態だったので、野宿する事にした私達だった。


「さて、狼肉でも焼きますか」


 私は収納庫こと無限収納スキルから狼肉を取り出し浮かせたまま空間切断で細切れとした。

 そのまま鉄串を空間魔力で作り出して肉へ刺し空間魔力で作った塩を振っておいた。


「ち、血抜きはしたのか?」

「それは問題ないよ。この世界では倒した瞬間に肉塊や素材に変化するからね。これは魔石」


 私はそう言いつつアキラに小さな赤い魔石を手渡した。アキラは魔石を受け取り、光に翳して楽しげに見つめていた。魔力は見えなくても魔石のような結晶体なら見えるもんね。


「ま、マジで? ゲ、ゲームみたいだな」

「確かにそうかもね。でもこれって、解体スキルを用意していなかった、救済措置なんだよ」

「そ、そうなのか?」

「表沙汰には出来ない話だけどね。それにこういった鉄串も製造魔法で自在に作り出せるよ」

「製造魔法・・・鍛冶要らずかよ」

「そうでもないよ。製造魔法を使うには組成知識とイメージが必要でね、使い手を選ぶんだ」

「ああ、誰でも使えるわけではないと」

「そういう事だね」


 私の場合は神だから、使えて当たり前だ。

 アキラならば見せるだけで使えると思う。

 今は鍵言を教えていないから使えないけど。

 私はそのまま火だけを熾し、地面に鉄串を刺して焼き始めるのであった。




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