第5話 出来た神と思えばポンコツか。

 異世界に生まれ直して、女神の嫁が出来た。

 俺自身も理解が追いついていないけどな。

 いや、ホントに何が起きたらそうなるのか?


(単に前の世界で、行き倒れた彼女を助けたお礼・・・の理由だけは分かるが、そ、それで俺に嫁いでくるって、少々重すぎるだろう?)


 そもそもの話、俺が彼女を愛しているかというと、実はそうでもなくて、彼女から一方的に好かれているだけだ。俺の何処が好みなのか俺自身も分からないし、彼女も語ろうとしない。


(というか、神だったか。彼女の考えを理解しようと思う方がおこがましいか? でも・・・)


 そんな恋愛すらしていない状況で、突然嫁を貰うって状況に認識がついていけなかった。

 俺に自分を差し上げると言った、当の女神様はるんるんと前を歩いているがな。

 大きな尻をプリプリと揺らして、途中で草をちぎっては、右手でブンブンと振り回す。


(何も無い異世界の草原を行くあても無いまま前に進むだけ。彼女なりに考えて行動しているとしても未だに状況が読めないのは不安だな)


 それこそ何処かで情報のすり合わせが必要に思えてならない。この世界の情報は降りて来る前に、彼女からさらっと流されただけだしな。


(流したというか、強引に詰め込まれたよな。脳内に圧縮された世界の情報が頭痛なく収まった事だけは驚きでしか無かったけど・・・)


 この異世界は生まれてから数千年が過ぎた惑星。惑星名は彼女の姓でもあるサジェースだ。

 大きさは地球と同等で暦も似通っている。

 唯一の違いは、海水が一切存在せず、陸地の全てが全体を通して繋がった大地らしい。

 それでも大地の高低差は存在していて海水の代わりに目に見えない魔力で満たされている。


(目には見えないなら、どうやって判別しているのだろうな? 呼吸か? 呼吸法で違いが出るのか? ああ、生物の群生地が鍵かもな?)


 その魔力にも濃淡があって、魔力の薄い地域は人族種と普通の動植物が育っているという。

 魔力の濃い地域では魔物やら魔人種が徘徊しているらしい。この徘徊と例えたのは彼女の管轄外だから・・・としか教えられていないから。

 彼女を奉る人族種と呼ばれる者達は主に亜人族と人族・獣人族なる者達の事を言うそうだ。

 あとは太陽が一つ、衛星が二つ、太陽系のような複数の惑星も存在していて、神は違うらしいが、そこでも人々が生活をしているという。


(だから同僚って言葉が出てくるのかね?)


 惑星系で複数の神が各々の惑星を管理していると。この星だけは、新神たる二柱の女神で賄っているようだけどな。その一人は彼女だが。


(あとで色々、聞いてみようかね。相手を知らずに付き合っていくなんて出来そうに無いし)


 まだ彼女と知り合って数時間が経っただけ。

 出会って直ぐに結婚しました・・・だからな。

 恋愛を飛ばして嫁いできた赤髪の女神様。

 彼女は恋愛未経験なのではと思えてしまう。

 そんな俺も恋愛の経験だけは皆無だけども。

 何はともあれ、そんな俺の独白も彼女には伝わっておらず、あの神殿があった謎の空間とこの大地は相当なまでに違いがあるようだ。


「そもそもここは何処なんだ?」

「草原だよ〜」

「草原って見たまんまじゃん」

「そうだね〜」


 この場所を知るのは、この世界の主神たる彼女だけだろう。迷いなく草原を一直線に進んで街道まで出てきたから。一応、途中で狼とも出くわしたが近づいてくる前に手を翳しただけで肉塊に変化していたのは驚きでしかなかった。


(せめてチュートリアルが欲しい。いや、冒険するために、この世界に来た訳じゃないから)


 チュートリアルもなにも無かったわ。

 単純に生まれ直して、世界を延々と旅行する事だけが目的なのだから。そこで新たな出会いがあれば関わったり別れたりを繰り返すだけ。

 国家へと定住する事が目的となると、しがらみに縛られて、何も出来なくなりそうだしな。


(とはいえ目的も無しに歩くのも・・・)


 という事で俺は改めて彼女に問いかける。


「ここは何処の国の領土なんだ?」


 問われた彼女はチラッと視線を交わすとプイッと前を向くだけだった。


「・・・」


 てか、なんで沈黙してるんだよ?


「もしかして、知らないとかじゃないよな」

「ギクッ」


 今、ビクッとなったな。

 この女神、予想よりもポンコツなんじゃ?


「知らずに降りてきて、何処に向かうんだよ」

「そ、それは気の向くままに・・・って事で!」

「つまりノープランなんだな?」

「うっ」


 おいおい、そんなのでよく・・・。

 俺は立ち止まり、大きく溜息を吐いた。


「いったん休憩。目的も無しで街道を歩くとか先が思いやられるぞ?」

「う、うん」

「たちまちは何を目的とするか、すり合わせを行わないか?」

「そ、そうだね・・・一応、目的はあるよ?」


 目を泳がせてから言う事じゃないだろ?

 目的があるなら先に話してほしいぞ。

 俺は機嫌が悪い素振りで彼女を睨む。


「で?」


 彼女は女神の威厳もへったくれもない子供っぽい素振りで苦笑しつつ語りだした。


「た、食べ歩きの旅をしたいなって。私と趣味が合っていたし一緒に居て楽しめるんじゃないかって、ね? 一人で出歩くとつまらないし」


 あー、それが本来の目的と。

 だから、あちらの世界で行き倒れて・・・。

 事の経緯はどうであれ、彼女が語った目的だけなら、受け入れる事は出来そうだ。

 俺の前世の未練とも合致するしな。

 ただな、嫁とした理由が重すぎたので、俺は困惑顔のまま再度問うてみた。


「それで、嫁に・・・なら、普通に友達からじゃダメなのか? 旅仲間だけでもいいと思うが」

「うん、ダメかな。アキラを私の友達とすると掠め取る子達が現れないとも限りないからね」

「か、掠め取る?」


 それはどういう意味なのだろうか?

 困り顔の彼女は首を傾げる俺を見つめて続きを語る。


「先ほどもチラッと言ったけど、私達って扱いのうえでは平民と同じでね、姓を持つのは王族と貴族だけなの。王族はともかく貴族達が厄介でさ、教会を介して夫婦と成していない者、親友同士のままだと、気に入った途端に、ね?」

「ああ、横恋慕から囲ってしまう・・・とか?」

「うん、そんな事を平然とやってのけるの」

「それはまた・・・だから予防策として?」

「うん、教会を介した婚姻関係なら相反する宗派を除いて罰が下ると恐れられているからね」


 その罰を下すのは彼女自身ではなかろうか?

 相反するとは魔人種の女神を祀る宗派かね。

 

「私も頻繁に罰を下す事はないけど、最初に設けた経典がそれだから、神といえど自分の決めたルールを自分で覆す事は出来ないの」


 ああ、予防策を用いた理由は自分達の目的を妨害させないための措置と。ポンコツと思ったけど考えているところも一応はあったんだな。

 確かに王侯貴族に囲われると自由が無くなるとか前世で読んだ小説などにもあったもんな。

 それらはフィクションだから本当かどうかは不明なのだけど。


「あとは・・・私の一目惚れも、あるよ?」


 って、それが本命かい!

 てへぺろとか可愛すぎだろぉ!?

 とはいえブサイクな俺の何処が?


「つか、俺に惚れる要素なんてあったのか?」

「あったよ?」

「尻を踏んで菓子を恵んだだけなのに?」

「踏まれたお尻はともかく、貴方の高潔な魂と清い心に惚れたのは本当だもの」

「俺が高潔で清い・・・ねぇ?」

「ああ、自覚が無いんだね」


 そんな苦笑しながら言わなくても。

 清いなんて自覚するものでもないだろうに。

 単に可哀想だから恵んだだけなんだけどな。


「まぁ好かれた理由が分かっただけいいか」


 顔で選ばないって俺の理想そのものだし。

 すると彼女は真剣な表情で問いかけた。


「なので、私と一緒に旅してくれませんか?」


 俺は問いかけで気が抜けた表情になった。


「それを最初に聞きたかったかも・・・」

「うっ」


 勧誘の理由は単純に異世界へ来てだったし。

 この肉体お礼も、俺がたまたま死にかけだったからっていうのも、あったかもしれない。

 ただまぁ、俺が混乱したままの転生だったから、あのような強引な手段になっただけ、なのだろうけどな、きっと。


「あ、あの時は転生時間が差し迫っていたし」


 彼女はそうブツブツと呟いて言葉を濁した。

 ああ、やっぱりか。時間がどう差し迫っていたのかは、聞かない方がいいだろう。

 俺は表情を改めて彼女の問いに答えた。


「それなら、俺と一緒に旅してくれますか?」


 答えたというより同じように問いかけた。

 それを聞いた彼女はプッと吹き出して可愛い笑顔で応じてくれた。


「喜んで!」




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