第4話 画策で得られた出会いに感謝。
それは私の世界に向かう前に行う大切な儀式だった。彼の遺灰から作り上げたダイアモンドの表層に私の神名と彼の人名を刻みこみ、後に再構成させる肉体の
「ただの健康体を基本として構成するわね」
「はい、それでお願いします」
彼の願いは以前ミズキの紹介で送られてきた女の子とは異なりチートなる代物を求めていなかった。だが、彼の依り代の容量的に健康体だけとすると、病気は勿論の事、大怪我をしても直ぐに再生する、不死特性を持つものになる。
その特性とは痛みこそ生じるが仮に首を落とされても時を戻すように繋がるというものだ。
ちなみに、私の世界の健康体は基本的なステータスが彼の求めていないチートであり〈レベル/魔力/体力/精神力/攻撃力/生命力/防御力/知力/抵抗力/技術力/幸運/敏捷力/回復力〉が最初からカンストとなってしまう。
それがあるため他の性質を複数追加してカンスト状態から抑えようと思っているのだけど、
「何度も聞くようだけど、他にはないの?」
「別にありませんね。健康体以外は何も」
頑として聞かず、健康体以外は求められていなかった。
「そう、でも死なない身体になるけど?」
「長生きが出来るならそれでいいです」
「長生きとは違うのだけどね。まぁいいか」
彼は生前、病魔に冒されていて数時間後には亡くなる予定だった。私はそれもあって健康体を選択したのだけど、そこでチートは要りませんと言われてしまうと、反応に困ってしまう。
(そのチートが身体に宿ると知ったら・・・?)
それを彼に言うと固辞されてしまいそうなので、今回は私の判断で制限を入れる事にした。
(私の加護で魔法無詠唱、パッシブスキルとしてステータス偽装と完全制限を追加して、命の危機に瀕した時だけ完全解除する・・・)
そのどれもが経験値毎にカウントアップするレベルに応じて段階解除するものとした。
レベルも一からスタートでカンストなら一〇〇〇だ。それでも体力と生命力、抵抗力と回復力だけはランクAのままとし他はCで留めた。
私の世界にはSなんて単語はないのでAが最大となっている。冒険者なども白金等級が最大で勇者以上の猛者が現れない限り作り出される事はないだろう。
とはいえ危険物は当たり前に存在するので、
「なら、毒無効だけは付けましょうか?」
「ど、毒無効ですか?」
「ええ、私の世界の毒物は勿論のこと、中毒症状が一切出ない無効特性なんだけど」
「それでしたら、それもお願いします」
「分かったわ」
毒無効だけは確認して付与しておいた。
この特性は酒精でも表れるけど仕方ない。
あとは私と同じく眠らなくてよい睡眠無効も偽装したうえで追加しておいた。
(私は眠らないのに、彼が隣で眠られるとショックだし・・・)
それと共にアクティブスキルとして完全記憶と自動書記を追加しておいた。食べ歩きが趣味と知って再現してくれそうと思ったのよね。
(私が食べてみたいお菓子を、公私混同だわ)
一通り刻みを終わらせた私はダイアモンドの隣に私の水晶を用意して、任意で制限解除出来る性質を刻みこんだ。神が地上に降りるとは何事だと思われるかもしれないが、割と地上に降りている神が多いので、今更だと思っている。
(チートは要らないとか言われたけど元の世界と同じと思われたままというのも・・・釈然としないのよね。私の世界は命の扱いが軽いから)
それは先ほどミズキの紹介と言わず前の子と言ってしまって彼から怪しまれた話に通じる。
その子は確かにチートを求めてきたのだ。
『成長倍加、経験値倍加、全属性、完全耐性』
一応、出来ない事は無かったが、あまり有りすぎても淘汰される側になると注意だけは入れておいた。それでも欲したから与えたけどね。
私の世界はとても幼い文明が乱立する出来たてほやほやの世界だ。今回、私が休暇を得たのは一時的な人魔大戦が終わった頃合いだった。
その戦争は人族種と魔人種との戦いで、
(チートマシマシな女の子が、女勇者として励んだ件だったね。今では人族種の国々で行き場を失って魔人種に寝返りしているけれど・・・)
魔人に勝利した勇者が処刑対象に変化した。
だから言ったのに的な可哀想な結果だった。
その子の加護は私ではなくミズキが行った。
あの魔人種の主祭神が行った事だったっけ。
私は人族種の主祭神だから・・・あ、それで。
(私に休暇を入れさせて乗っ取る気だったと)
経緯はどうであれ、そんなミズキの行いで彼と出会えたのなら今は気にするだけ損だろう。
§
準備を終えた私は手招きして彼を呼ぶ。
「では改めて、名乗らせてもらうわね」
それは世界に向かう前の意思疎通だった。
互いの名を知らずして繋がりを保つのは無理だからね。それはフレンド登録ではないけど。
彼の名は知っているので聞く必要は無いが、
「ああ、自己紹介がまだでしたね。失礼、
何故か紹介されてしまい苦笑してしまった。
享年って、その年齢で固定したのだけど?
「あ、先に言われてしまったわ」
「いえ、年下が言うべき事なので」
年下・・・これ、私が結構年上だと思われているパターンかしら? 私自身、神として生まれて七年しか経っていないのに。それまではミズキと共に、亜神として二十年を過ごしてきた。
正規の神となったのはつい最近だからね。
それでもこの世界は時間加速下に置いてあったので
「年下というなら私の方が年下よ?」
「え!? と、年下なんですか!?」
「そこで驚かれるのはちょっと辛いかも」
老け顔と思われているとか?
そう思っていると、
「神だから長い年月を生きていると思っていたのですが、違ったのですね。すみません」
一般的な認識からそう思っていたらしい。
まぁ実際に世界の時間は軽く千年を超えているからそう思われても不思議ではないけれど。
私は改めて彼へと自己紹介した。
「私の名前はフレア・サジェース、年齢は二十七才。貴方より年下だから、タメ口でいいわ」
「か、神にタメ口とか・・・二十七才?」
「ええ、実年齢がそれだからね。肉体年齢だけは十五才前後だったりするけどね。見た目よりも若年者か高齢者なのか、その判断は私を見た人達に委ねているわ。面と向かって年寄りと言われたのは初めてだったけど」
「そ、そうだった・・・んだ」
ようやくタメ口になってくれた。
敬語って正直苦手だったのよね。
今は場所が場所だから、口調を改めているけど、私も普段は別の口調だったりするしね。
「一応、私の立場は人族の主祭神で創造神よ」
「そ、そうぞう、創造神って本物の神じゃ」
「本物よ。でも今は気にしなくていいわ。私が貴方への礼として与えたに過ぎないし、私も」
私はそう言いつつ彼の右手を握り、
「私も貴方に差し上げるわ。嫁としてね」
「は、はい?」
地上へと降りる門を二人で潜った。
その瞬間、ダイアモンドと水晶は奇麗な魔力に変化して私達の身体を覆うように重なった。
そして肉体が再構成され初期設定で指定した村人の衣類が全身を覆った。私は元々の軽装のまま、彼は村人の半袖と長ズボン姿だ。
容姿は黒髪が目立つので、私と同じ髪色と肌を持たせた。私と同じなら違和感など無くなるから。そうして地上へと二人で降り立った。
私の口調も普段に戻し、
「到着したね。何も無い草原に」
きょとんとする彼に微笑んだ。
「と、というか嫁って?」
「そのままの意味だよ?」
「え、えーっ!?」
驚くとこ、そこ?
私は彼に抱きつきながら上目遣いで囁いた。
「手続きも上で済ませたから、私の旦那様として一生を共にしようね! それと家名は貴族ではないから無いことになるからね、アキラ!」
「し、死して、生まれて、嫁が出来た件」
「それともおっぱいの小さい子って嫌?」
「お、俺は尻派なので問題無い」
「ふふっ。それは良かった」
「踏んでから忘れられなくて鞍替えしたし」
「あ、ああ、それで? 元は胸派と」
「・・・」
何はともあれ、私は彼との出会いに感謝を申し上げたい気分になった。それは魔人種の創造神であるミズキ・アネェスに対してだけど。
『あんちくしょう、無事に戻ってきてるじゃないの・・・あと、嫁って何よ? 高位の男を見繕ってくるとか、聞いてないんだけどぉ!?』
ミズキから途轍もない怨嗟が聞こえたけれど今は無視した私だった。
(だって私達の旅は始まったばかりだもの!)
二人で食べ歩いて、食文化を是正して、可能なら新しい食文化を発見するのも有りだから。
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