第4話 はじめてのかいじゅう♡

 モニター越しに見る世界はとても広く鮮やかに見えた。いいや違う。俺の五感が拡張されたからそう見えるのだ。何もかもが把握できるような全能感。だがその心地の良い感覚はコックピットに響くアラート音にかき消される。俺の周囲に空間投影でロックオンされたことを告げるウィンドウが表示されている。


「まだ殺したりないのか?俺のことが?」


 俺の周囲に四機の人型機動兵器プーパ・エクテスがいる。それぞれが皆違うデザインのおそらくは特注の専用機なのだろう。皆俺に武器を向けている。


『ヴィニシウスなのか?』


 空間投影ウィンドウにキーファーの顔が映っている。俺の顔を見て酷く驚いている。そしてジェミニアーノ達の顔も次々と投影された。女子二人は泣いている。


「ああ。そうだよキーファー。俺だよ」


『俺たちはお前を殺したはずだ。なんで生きてる?』


「なんで?なんで・・・だと?お前たちこそなんでこんなことをした?!こんなものを奪うためだけにあんなに人を殺してしまったのか!!お前たちは!!」


 キーファーたちはどこか気まずげに見えた。罪悪感は覚えているようだ。だけどすぐにそれは引っ込んでしまった。


『その怒り方。お前は本物のヴィニシウスらしいな。自分が殺されたことをあっさり受け入れているんだなお前は…。俺たちが裏切ったことさえも…』


「お前たちが何をしようとしているかは知らない。だけどやめろ。それは絶対に良くないことなんだろう?俺には話せなかったんだからな」


『くはぁはは!ああっ…お前はどんなところで生きていても綺麗なままなんだな…だからファミリアじゃいられなくなったのにぃ。ジェミニアーノ』


 キーファーは両手で顔を抑えている。泣いている?それとも俺を哂っているのか?


『なんだ?キーファー』


『二人を連れて先に離脱してくれ』


『お前はどうする気だ?』


『もともとあいつが乗ってる機体の破壊も取引に入ってる。だから俺がヴィニシウスを殺す』


『それなら俺たちだって残る』


『いいから行け!二度もヴィニシウスを殺すなんて悲しいことをお前たちにはさせられない!行け!早く!!』


『…すまないキーファー』


 ジェミニアーノ達は背中を向ける。そして機体の背後のブースターに火を入れて次々と飛び去って行く。俺のディオニューソスとキーファーの機体だけがこの場に残った。キーファーの機体が背中から剣を抜き取りディオニューソスにその切っ先を向けた。


「もう本当にファミリアじゃないのか?俺たちはもう一緒にはいられないのか?」


『ああ。同じ夢はもう見られない。俺たちはもうファミリアじゃない!!』


「そうか。その夢がこんなに恐ろしいことを引き起こしたんだな?そんなの悪夢じゃないか。覚まさせてやる。ファミリアの俺がなぁ!!」


 操縦桿をぎゅっと握る。人型機動兵器はパイロットと神経を接続することで思った通りに動かせる。ディオニューソスは両手を前に出してボクサーのように構えた。


「キいぃいいいいぃいファぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「ヴぃにしうすぅううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」


 キーファーの機体はブースターを吹かして思い切りディオニューソスに向かって踏み込んできた。横払いの剣が迫ってくる。


「たかが剣が!!」

 

 俺は迫る剣を左側の肘と膝で挟み込んで止める。そして空いた右手でキーファーの機体の顔面を思い切り殴ってやって吹っ飛ばす。


『ぐぅ!!マルス!モード・アーレスにチェンジ!剣よ展開せよ!!』


 キーファーの機体、マルスは吹っ飛ばされている間に赤黒く機体の色を変えた。そして華麗に地面に着地し全身から次々と剣の形のパーツを切り離していく。それらはビームの刃を展開させてキーファーの周囲を飛び回る。


「ビット兵器ってやつか…?ちっこくって怪獣には効果なさそうな感じだな?」


 人型機動兵器の兵装は大きくなりがちだと聞いている。パワーこそ唯一無二の怪獣への対抗策だと聞いている。出力に劣るビット兵器が積まれているなんて違和感を感じる。


『この機体マルスは対怪獣戦ではなく対人類戦用の機体だ。わかるだろう?この剣たちの向き先が?』


「弾圧用兵器。自分たちに向けられる前に盗んだって言いたいのか?」


 それならこんなことをする理由も理解はできる。もしかしたら協力だってしたかもしれない。


『いいや違う。向けるために奪ったんだぁ!!』


 キーファーの殺気が膨れ上がったのを感じた。それと共にビット兵器が一斉にディオニューソスに向かってきた。


「真っすぐ過ぎんだよぅ!!」


 生き返ってから敏感になった俺の五感はビット兵器の軌道を読み解いていた。まだキーファーはビットの操作に慣れてない。だからフェイントもなく俺に真っすぐ迫ってくる。俺は両手に意識を集中させる。するとディオニューソスの両手に輝くオーロラの光が灯る。そしてのその拳で迫ってくるビットを殴って墜とした。


『わかるのか!ヴィニシウス!?その機体の力なのか?!』


「なんでもいいだろうがそんなことはようぅ!!ふん!らぁららああああああああああああああああああ!」


 次々と斬りかかってくるビットたちを俺は殴って砕いていく。


『くそ!戻れ!』


 キーファーの号令と共にビットはマルスのところに戻っていった。そして機体の色は赤黒からもとに戻ってしまう。


「奥の手はもう終わりだな?じゃあ今から殴るから歯を食いしばれぇ!!」


 ディオニューソスは地面を思い切り蹴ってマルスに迫る。大きく振りかぶったテレフォンパンチだけど俺には当てられる自信があった。そして拳はマルスの胸に吸い込まれるように迫っていく。その時だった。全身に嫌な悪寒を感じた。だから拳を解いてそのままマルスを突き飛ばしてばして覆いかぶさるように二機は地面に倒れる。


『何のつもりだ?!』


「黙って動くなぁ!!」


 そしてさっきまで俺たちがいたところに極太の光の線が通り抜けていった。それはそのまま基地の上を通り過ぎて横浜の街に着弾して大爆発を引き起こした。轟音と共に爆風が辺り一帯に吹き荒れる。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 その声を俺は初めて聞いた。だけどその正体が何なのかすぐに理解した。どこから来るのかもわからない。何のために来るのかもわからない。だけど俺たちはその姿を見た瞬間に自らの運命がここで尽きたことを悟るのだ。圧倒的な力そのもの。それを俺たちは。


『怪獣…』


 そう呼ぶのだ。











***作者のひとり言***

 

だから怪獣と戦わせろぉ!!


あと戦闘中の掛け合いを考えるのがくそムズイ。もっとこう舌がもつれそうで簡潔でパワーなワードが飛び交う会話のドッチボールをしたいなって思います。


次もよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る