第2話 裏切り
最近みんなの様子がおかしかった。何かをこそこそとやっている気配があった。これが俺へのサプライズとかならいいけど、あいにく誕生日がいつのかさえも分からない俺なんかにそんな素敵なイベントはきっとやってこない。
「なあ、俺たちはこれからも一緒だよな?」
ある日の食事の時にそう皆に問いかけた。だけど幼少組がいなくなってから塞ぎがちなみんなから返事はなかった。そしてある日のことだった。俺が横浜の方に大道芸で稼ぎに出た時のこと。港の近くの公園で芸の準備をしていた時軍警のお巡りさんたちに俺は職質を食らった。
「おいそこのガイジン。他所へ行け他所へ!!」
「ええ?俺だって日銭を稼がなきゃいけないんだから、稼ぎの上前を払うから見逃してくれないか?」
「そう言う問題じゃねぇんだよ。上からのお達しだ。怪しい奴やガイジンどもは港に近づけるなって命令だ。さっさと消えろ!!」
俺は銃のストックで腹を殴られてその場にうずくまる。周りの普通の日本人たちはそんな俺のことを嫌そうな顔で見ていた。俺はこの社会じゃ残念ながら異物でしかない。耐えるしかない。だけど俺が身を守るために体を丸めるとお巡りどもの暴力はさらにエスカレートした。
「蹲ってどかない気だな!!がはは!!こーむしっこーぼうがぃいいい!!」
「いいっすね!こういう綺麗なガイジンのガキを殴るの楽しいぃい!!」
俺は散々殴られ続けた。そして気がついたら気絶してしまった。
目が覚めるとそこは留置場のようだった。ポケットを漁ると案の定財布がなくなっていた。不良警官どもが俺の財布まで盗んでいったらしい。
「おい!出せ!出せよこの野郎!!」
俺は檻を掴んで外に向かって叫ぶ。だけど看守も慣れているのか俺の檻を警棒で叩いて怒鳴る。
「うるせぇんだよクソガキ!」
「俺は何にもやってない!警官にボコられた!むしろ被害者だ」
「あっそ。だから?」
「だから…?だから俺はここから出る権利が」
「ないでしょ。権利はガイジンにはないんだよ。てかお前ただの嫌がらせでここに放り込まれたと思ってるの?」
看守は俺を蔑むように笑う。俺はその笑顔に身震いを覚えた。
「お前きれいな顔してるよな。目も紫色で珍しいし、きっと高く、たかぁく売れるんだろうなぁ」
「お前ら警官のくせに人身売買業者とつるんでるのか!?」
「だってお前らには人権ないでしょ。税金も納めないしそのくせすぐ悪さはするし。だからせめて世の中に役に立てるようにお前を売ってあげようってことなんだよ。わかる?むしろこれは善行なんだよ。人的リソースの有効活用ってやつさ!あはは!!」
愕然とした。世の中は俺が思っているよりももっともっと腐っていた。ファベーラだけじゃない。外の世界だって同じくらいに地獄だったんだ。受け入れるしかないのか?これが世界の仕組みだっていうのか?
『憐れな王子よ。世界は再生されなければならない。捧げよその命を。汝が転生と共に世界は生まれ変わる』
何かが聞こえたような気がした。受け入れがたい言葉を耳にしたと思った。だけどそれに気を取られる前にもっと大きな音に俺の思考は邪魔された。ヒューっという音と共に突然目の前で爆発が起きた。俺は爆風に吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。そのショックで呼吸が止まる。
「はぁ!はぁ!はぁあ!ふぅう。一体何が…うっ…!?」
さっきまでたっていた看守はぐちゃぐちゃになって床や天井に肉片を張り付けていた。天井に大きな穴が開いていた。丈夫な檻が皮肉にも俺の命を爆風から守ってくれたらしい。俺は近くに落ちていた鍵を拾って檻を開ける。落ちてたライフルを拾い走って建物の外に出た。外はパニック状態だった。どうやらここは横浜港の軍警の基地らしい。あっちこっちに火の手が上がり人々が慌ただしくあちらこちらを走り回っている。みんな俺にかまっている余裕はないらしい。
「このままなら逃げられる…?え?あれは…?!キーファー!?」
飛行型パワードスーツを身にまとったキーファーが空から降りてきて軍警の兵士たちを魔法の砲撃で次々に殺していく。さらにキーファーが降り立ったところにジェミニアーノ、アデライド、メヒティルトが同じくパワードスーツで降り立ってくる。そして彼らはそのまま大きなハンガーの方に向かって滑空していく。その途中兵士たちは彼らのスキルによる攻撃で次々と殺されていった。
「何やってんだよ!何やってんだよお前らぁ!!」
俺はその無慈悲な光景を目にして涙を流した。あの優しい彼らが人を殺すなんて信じられなかった。俺は声を張り上げながら彼らのことを追いかける。ハンガーに辿り着いて彼らを追って中に入る。そこには五体の
「これがターゲットか…怪獣に対抗し世界を救う絶対の巨人たち」
キーファーたちはそれぞれの機体の上に飛び乗っていく。俺はそれでも追いかける。キーファーが飛び乗った機体の傍に駆け寄って、凸凹しているところに手足をかけてロッククライミングのように昇っていく。
「…え?なんで…ヴィニシウス…どうしてここに…?」
機体の上に登った俺にキーファーが気がついた。俺のことを見てひどく驚いている。
「お前こそなんでこんなところにいる!なんでこんなことをしている!なんでなんでなんで!!」
俺はボロボロ涙を流す。だって彼らはあんな恐ろしいことをしてしまった。それが悲しくて悲しくて仕方がなかった。。
「そうか見てたのか俺たちのやったことを…ヴィニシウス…優しいお前にだけは見られたくなかったのに…」
そう言ってキーファーは俺に銃口を向けて引き金を引いた。腹に鈍くて重い痛みが走る。それだけじゃない。
「悪いな。ヴィニシウス」「すまない。ヴィニシウス」「ごめんね。ヴィニシウス」
他の期待から飛び移ってきたジェミニアーノたちが持っていた剣で俺の両手と右足を突き刺した。それで両手と右足はちぎれて機体の上に落ちてしまった。俺は片足だけ体を支えられずその場に倒れる。
「…どうして…」
俺はそう問いかける。だけど答えは返ってこない。ジェミニアーノは顔を反らしている。アデライドは俯いていた。メヒティルトは泣いていた。
「ヴィニシウス。もうお前とは同じ夢を見れない。もうファミリアじゃいられない」
そしてキーファーの剣で俺の首は刎ねられてしまった。俺の首はゴロゴロと転がって、機体の腹部にあるコックピットのところに落っこちた。さらにコックピットの中に俺の胴や手や足が投げ込まれた。そしてキーファーたちが上からコックピットの中を覗き込んでいる。
「この機体は動かせないから持って帰れない。だからせめてお前の棺桶にするよ。さようならヴィニシウス」
コックピットの蓋が閉じられて彼らの顔が見えなくなった。そして段々と視界が狭まっていく。もう俺は死ぬ。受け入れるほかない。
『さあさあ!こうして王子の命は贄として捧げられたのです!これより世界転生の儀が始まります!!人類の皆様!徳ご覧あれ!!あなた方を守る救世の王を讃えるのです!!』
***作者のひとり言***
かいじゅうVSろぼっとやーりーたーいー!!
とりまロボット強奪イベントとか言うロボット物のお約束からスタートですね。
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