世界を救えるロボットに乗れるのが俺だけなんだけど、世界とかどうでもいいので搭乗拒否します!だけど周りが何としてでも乗せようとして必死過ぎます!

園業公起

第1話 ファミリア

 西歴2030年5月


 日本国・茨城県つくば市 在日国連警察軍基地 作戦司令室


 サイレンの音が司令室に鳴り響いていた。世界を壊す悪い怪獣がやってきたことを告げている。軍服を着た大人たちは慌ただしく管制モニターに向かい合い方々に指示を飛ばしている。


「状況はわかってくれていると思う。怪獣がまたも世界を壊すためにやってきたのだ」


 この部屋の主である司令官が俺の方に厳かな口調でそう言ってくる。


「だからこそヴィニシウス君には出撃して欲しい。君と最強の人型兵器プーパ・エクエス『ディオニューソス』の力さえあれば世界が救われるのだ!!」


 俺は肩を竦める。このおっさんとこの部屋にいるエリート軍人さんたちはたいそうなご期待を俺にしているらしい。


「だからディオニューソスに乗ってくれるね?ヴィニシウスくん?」


 司令官は俺の両肩に手を置いて優し気にそう言う。だけどそれってくそ強い怪獣に向かってロボットに乗って特攻してこいっていう遠回りの自殺教唆ですよね?だから俺はこう言ってやる。


「いやだね。他のやつにやらせろ。俺には関係ない話だ」


 俺が覚悟を決めて厳かに『乗ります』っていうのを確信していたであろう大人たちは狼狽える。


「え?いや。これはとても名誉あることなんだよ。世界最強のロボットに乗って世界を救う。とても偉大な仕事だとは思わないかね?」


「そういうならおっさんが乗ればいいだろ。俺は乗らない。いやなこった」


「私たちにはディオニューソスに乗る資格がない。だが君にはある。君は名誉ある使命に選ばれたのだ!」


「だからそんなもんいくらでも譲ってやるよ。もう帰っていい?俺は乗らないって決めてるからそんな茶番に付き合いきれないんだけど」


「どうしてもだめ?怪獣倒したらすごくモテるよ。女の子にキャーキャー言われてちやほやされちゃうよ」


 いきなり俗っぽいこと言い出すなよ。でも世間の評価はこんなもんか。怪獣と戦うロボット乗りマギエステルは尊敬を受けているしな。


「べつに。そんなの興味ないんで。じゃさよなら」


 俺は踵を返して司令室から出ていこうとしたが、司令官に回り込まれてしまう。


「君の身分は現在、国連警察軍少佐にある。出撃命令は拒否できない!今すぐに乗るんだ!」


「はぁ?いやだね。元々俺のことを棄民扱いしておいて、そのくせ徴兵しておいて死地に送り込むとか。そんなの絶対にお断りだ!!」


「君が乗らなければ世界が滅びるんだぞ!」


「そんなの滅べばいい!俺が頑張らなきゃどうにもならない世界なんて滅んじまえ!!今すぐにな!!」


 ざわざわと部屋中に動揺の声が広がる。そもそもおかしいんだ。俺がロボットに乗って戦わなきゃ世界が滅ぶこと自体が間違っている。そしてこんなことに付き合わされる羽目になったことも。俺にとっては世界なんてもうどうでもいい。家族も友もいない。金もなければ家だってない。身分もなければ苗字だって持ってない。何も持っていない俺がなんで何でも持っている人たちが廻している世界を守らなければいけないんだ?俺は世界なんて絶対に救わない。誰も俺を救ってくれなかったこんな世界なんて。



















Vinicius:the Monomyth

















西暦2030年4月


日本国 東京都港区 天王洲ファベーラ



 ドブみたいな色の東京湾の匂いは好きじゃない。この街の風景も同じだ。ここはろくなところじゃない。異世界だか宇宙だか何だか知らないがどこからかやってくる怪獣のせいで世界は滅びかかっている。アフリカ・ユーラシア・オセアニアはもう滅んでしまった。人が住める土地ではなくなり、人々はまだ健在だった日本や南北アメリカ大陸へと難民として逃げ出さざるを得なかった。だけど難民たちは歓迎されることはなかった。肌の色、言葉、宗教、文化。分断を作る理由はなんだってよかった。俺たちガイジンは各地にできたファベーラスラム街に追いやられた。ここで生きていくことはとても大変だ。今日もこの街には道端で野垂れ死んだ者が転がっている。その肉に野良犬が食いついていても誰も気にしやしないのがここの地獄の一つだろう。


「さすがに可哀そうすぎるだろうよそれは」


 俺は死体に群がる犬を追っ払って、その死体を持ち上げる。肉の腐り始めた匂いが少し鼻をついた。その死体は俺と同じくらい年の少年のようだ。けっこう重たい。


「また死体なんて抱えているのかヴィニシウス?物好きな奴だな」


「キーファーか。いつも通りさ。墓場に持って行ってやるんだよ」


 金髪の美しい顔の少年が俺に声をかけてきた。俺の数少ない友人のキーファー・キーティングだった。


「まったく。死んだ奴に優しくしたってなんにも得なんてないだろう」


 そう言いつつもキーファーは少年の遺体に手を伸ばして抱えるのを支えてくれた。そのおかげで随分と運ぶのが楽になった。そしてファベーラの外れにある砂浜にやってきた。そして少年の遺体を砂浜に横たえさせる。


「オレが燃やそうか?最近高火力の火魔法スキルを習得したんだ」


 キーファーはそう言ってくれた。だけど俺はそれを断った。


「わかってないね。スキルの火なんて冠婚葬祭のマナー違反だよ」


「何それ初めて聞いたぞ。てかお前がステータスシステムを使えないからやっかんでるだけだろ?」


 俺は肩を竦める。たしかに俺はステータスシステムを使えないからやっかみはある。この世界を怪獣が襲うようになってから少し経ったくらいにステータスシステムが何者かによって人類に齎された。それは異能の力を扱うことのできる不思議な力だった。怪獣はやってくる時に小型のモンスターたちも連れてくる。その脅威に人々は対処できるようになった。もっともスタータスをいくら強化しても怪獣には歯が立たないのだが。


「だいたいそのステータスシステムって胡散臭いんだよ。今日日エロサイトだって無料動画はくそばかりで、結局有料サービスに加入しちゃうような時代なのに、ずっと基本使用無料!がサービス登場以来続いているんだろう?広告とかも載ってないっていうし。サービスとしては怪しげだよね。個人情報でも売ってるんじゃねえの?あはは!」


「まあそう言われると不思議だな。まあこれがないと俺たちは生きていけないけどな」


「俺はなくてもちゃんと生きてるけどなわら


 俺は冗談を言いながらも薪を組んで並べてその上に少年の遺体を置く。泥や血で汚れている顔をハンカチで拭ってやり化粧を施す。


「綺麗だな」


「ああ。綺麗でしょ。これならきっと天国に行ける」


 そして少年の遺体にガソリンをかけて、燐寸の火を投げる。遺体はすさまじい勢いで燃えていく。


「天国なんてあると思うか?俺たちみたいな何も持ってない子供に…」


 キーファーが真剣な顔で俺に問いかけてくる。


「あるんじゃね?だってこの世が地獄なんだからどっかに天国はあるでしょ」


 あってほしい。むしろ天国がなきゃ救いようがない。だからあるって俺は信じていたい。何をやっても報われないこの世界だからせめて夢くらいは見ていたい。










 人は仕事をしないと生きていけない。


「おーし!今日も仕事すっぞ!」


「「「おおお!」」」


 俺は一緒に暮らしている友人たちとまだ小さな子供たちを連れてファベーラの外に出る。そして電車賃を浮かせるために歩いて渋谷の街までやってきた。


「フォーメーションを確認する!!アデライド!メヒティルト!二人は俺とレッツダンシングだ!」


「オッケー」「わかった」


 茶髪に鳶色の瞳のアデライド・ギローと赤毛に青い瞳のメヒティルト・ザイフェルトが返事をする。二人はビキニの水着を着て、腰に布を巻いている。


「ジェミニアーノ!お前は幼少組を連れてハイドあんどハント!パンチラに夢中になってるおじさんを思い切り絞ってやれ!!」


「ふ!まかせろ!」


 銀髪の少年ジェミニアーノ・ソルヴィーノがニヒルに返事をする。作戦はこうだ。渋谷の駅の広場で俺と女子二人がセクシーに踊る。そしておぢさんたちが女子のパンチラと胸揺れに注目しているところをジェミニアーノとおチビちゃんたちのすり軍団が財布をスリまくる。完璧すぎる作戦である。そして女子二人はスピーカーを持って広場に出る。そしてスイッチを入れてどことなくエロティックな曲を流しだしてそのリズムに合わせて踊り始める。


「お?なんだ?」「だしもの?」「ガイジンか。でも可愛い子たちだな」「えちちち!!」


 セクシーに踊る女子二人に周囲の男たちのくぎ付けだった。だけど逆に女性たちは白けた目を向けている。だからだろう。足元に置いた空き缶におひねりがあんまり入ってこない。だがここで逆転の一手である。


「キャ!誰あれ?すごくきれいな顔…」「…素敵…」「王子様みたい」「じゅわっとしちゃった…」


 上半身裸で下は長ズボンに腰布の姿で俺は女子たちの踊りの輪に混ざる。時にアデライドの手を取り、ときにメヒティルトの腰を支えたり。女性たちの視線は俺に集まっている。だから近くに控えていたジュリアーノに視線を送る。彼はニヤリと頷いて子供たちを率いてスリを始めた。人々は俺たちのダンスに夢中となり陶酔している。だから注意散漫となって財布をすられても気がつかない。ジュリアーノたちは濡れ手に粟レベルで財布を刈り取っていく。そしてだいたい頃合いを見計らって、俺たちはダンスをフィニッシュにする。


「きゃー!すてき!」「いいぞ!」「これ推しすべきだよね?だよね?」「楽しかった!」


 人々の歓声に俺たちは包まれる。おひねりもいっぱい貰えた。俺たちはその場をすぐに後にした。そしてファベーラに帰って収穫を確認する。


「ほおおおおおお!今日は白米にステーキだ!!」


「「「「いぇええええええいいい!!」」」」


 今日はとても儲かった。ちょっと贅沢しても許されるレベル。もっともステーキとか白米なんて言っても俺たちが食えるのは人工合成食品だけだけど。幼少組の子供たちと一緒に年長組の俺、アデライド、メヒティルト、ジェミニアーノは一緒にご飯を食べる。俺たちは孤児で一緒に生活している。ファベーラの中で助け合って生きている。家族みたいなもんだ。


「ところで今日キーファーはどこ行ったの?」


 俺は三人にそう問いかける。あいつも俺たちと同じガレージで暮らしている。いつも一緒に仕事をしているんだけど、今日は珍しく朝から姿が見えない。


「さあね。あいつはたまにどこかへふらっと行っちゃうからな」


 ジェミニアーノは興味なさげだ。


「でもそういうときって大金持って帰ってくるよね。お土産楽しみー」


 アデライドは能天気だ。


「やっぱりヒモってるのかな?」


 メヒティルトはなんかおませだと思う。


「左様か。まあ心配しても仕方ないか。キーファーだし。大丈夫か」


「少しくらいは心配してもいいんじゃないのか?」


 振り向くとガレージの入口にキーファーがいた。どことなく疲れているような顔をしている。すぐにジーンズのポケットから筒状に束ねられた千円札をとり出して、テーブルに無造作に置いた。キーファーはそのままソファーにぐでんと寝ころんでしまう。


「だってお前はちゃんと帰ってくるじゃん」


 俺はニヤリと笑う。キーファーも微かに笑った。これが俺たちの生活だ。生活は苦しいけど、幸せはいっぱいある。










 そう思っていた。















 最初は流行り病だった。インフラが清潔ではないファベーラでは病気がすぐに蔓延する。幼少組の子供たちがパタパタと死んでいった。それで数は半分になってしまった。


「ファベーラの外でならこんな苦しい病気で死ななくても済むんだ…。俺たちはここから出られないのに…」


 ジェミニアーノは憤りながらそう言った。でも受け入れるしかない。俺たちはここ以外で生きていけない。

 次はギャング同士の抗争だった。ここではしょっちゅう殺し合いが起きる。そんな時は俺たちは身をかがめて必死に時が過ぎるのを待つ。だけど流れ弾で子供たちが何人も巻き添えを食らってしまった。


「ファベーラの外ならこんな理不尽な暴力で死なずに済むのに…。私たちはここから出られない…」


 アデライドは悔しそうにそう言った。でも受け入れることしかできない。俺たちはここ以外に行くところがない。

 そして最後は犯罪だった。臓器目当ての人身売買業者に誘拐され殺され、あるいは子供好きの変態に犯され殺されて。とうとう幼少組は一人もいなくなってしまった。


「ファベーラの外ならこんな不条理な犯罪に巻き込まれずに済んだのに…。あたしたちはここから出られないから…」


 メヒティルトは哀しそうにそう言った。でも受け入れることしか…。それしかできないんだ。だってここが俺たちの生きるしかない場所だから…。





 幸せは壊れていく。でもまだ俺たちは家族だった。いいや。俺以外・・・は志を同じくする家族だったんだ…。






***作者のひとり言***


 冒頭の部分に行くまでどれくらいかかるのでしょうか?

 というか鬱々し過ぎだと思う。

 


 というか早くかいじゅうVSろぼっと(>_<)やりたいー


 ではまた。

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