第7話 さらば慎太郎

「奪って自国へ持ち帰るにはスーツケースは、大きすぎる。

 しかも、百万ドルが入ったケースが重くて不自然だ!

上官に計画を暴かれるのは必至!

ではどうやって手に入れるかだ!

そこで矛先が向いたのが、日本人だ!」

「そうキミだ!」立てた人差し指をイチルの胸に向けた。

「日本人は勤勉で真面目でピュアだ。だから信じ易いし、騙され易い。

ここ数年、大金を送る輸送料詐欺が横行していて、被害に遭う日本人が後を絶たない。

 現にエミリーのメモには、岐阜県イチルザワ医療センター。

と、キミの所属先と住所が書いてある。

 これがどういう目論見で記されたか不明だが、推測はこうだ!

タリバーンのアジトを奇襲したら大金の入った箱を発見した!

 我々チーム5人で、山分けしても三百万ドルある。小隊チームは5人だ。

これを保管して任務に着くにはデンジャラス!

 そこでイチルザワは、私を愛しているなら貴方の自宅で保管して欲しい!もうすぐ私は、退役出来る。

 退役したら貴方の日本へ行きその金であなたと結婚し、あなたと、ビジネスを始めるでしょう。

 と、こう記されていた。

USAは、キミが犯人グループの一人だと決め付けていたんだよ。

 しかし、私の判断で白にしたんだ! 有り難いと思ってもらいたいね。

私は、大使館へ戻るが、何かあったた場合、ここへホットラインをくれたまえ!」

 前に言った8人で山分けとあるが、この大金はパイプラインから奪取した原油を売った金。所謂アメリカの金だ!と、ニンザーは笑って言っていた。

 貰ったネームカードには大坂の住所のアメリカ大使館が記されていた。

その直ぐ3日後に一縷が尊敬していた作家・慎太郎が逝くという訃報を聴いたのは、八束孝のクローヌス(膝蓋腱反射)について治療を行っている時だった。

「レッグウォーマー等巻いて寝ると暖かく眠れますよ八束さん 執筆をする時もね?」

「いやしかし、先ほどのニュースで慎太郎氏が亡くなったそうですよ?」リハビリベッドに横になった八束が情報を流した。

「エッ!」マサカ! という顔をしていたイチル・・・。


「大作家、元大政治家逝く」

 テレビやスポーツ紙に悉く掲載されていて生前の慎太郎が残したレジェンドを名残惜しそうに放送していたが、政治の真実は短時間で放送されていた。

 訃報を知った当日、一縷の感情は父親を見送ったあの日の感情と似ていた。

父親と確執があった若い自分が、親父が死んでも泣くもんか!と決意表明していた。

 がしかし、いざ亡くなれば、処構わず号泣していた。勝手に涙が湧いていた。

生前の彼は大政治家と、言えたし大政治家のレジェンドは、日本領土として存在していた。

 思い起こすのは、「黒部の太陽」を映画で観た。

上映されるや否やストーリーに引き込まれ時間を忘れて観入っていた。

 書籍「太陽の季節」で芥川賞を受賞した大作家は、文壇の寵児として活躍したという。

一縷は幾度と無く感動を与えてくれた親父の様な存在、慎太郎氏にリスペクトしつつも胸中で、合掌していた。


第三章 「戻る処は同じ鞘」

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